下準備(1)

 第六シェルターに向かう。といっても簡単な話ではない。

 それがどこにあり、ここからどのくらい離れているのか。調べなければならない。それにまだゲルシーの研究も終わってない。

「こいつは時間が掛かるな……」

 どこかにちょうどいい助手がいれば完璧なんだが、そう都合よくいるはずが……。

「で、いつ出発するんですか?」

 いた。そういやちょうどいい人材がいたじゃないか。

「なあマミ」

「何ですか?」

 助手候補に声を掛ける。候補といってもほぼ確定なんだが。

「出発するまでにゲルシーの研究と第六シェルターについての計画を立てたいんだが僕一人じゃきつい」

「えっと、それはつまり……」

 彼女が苦笑いしてこちらを見る。

「君に第六シェルターについて下調べをしてほしい」

「分かりましたよ……」

 しぶしぶといった感じで彼女は受け入れてくれた。これで第六シェルターのことは彼女に任せればいい。後はゲルシーについてと、もしものための装備品の準備をすればよい。

 彼女に日記を渡すと早速ゲルシーの研究に取り掛かった。久しぶりに時を忘れて没頭できる材料ができた。


 開始から三日三晩経った。ほとんど睡眠を取ることなくここまで研究を続けてきて数多くのことが分かってきた。

 最初に、ゲルシーは悲しいことにやはり人間だった。性別はおそらく男性。年齢は三十代といったところだ。

そしてもう一つは未知の物質が付着していたこと。おそらくだがこの物質が彼を醜い怪物にしてしまったのだろう。しかし完全に解明したわけではないので、この続きはコンピュータに任せることにした。

そして最後に分かったことは、この物質が影響か、ゲルシーは急速な進化をしていたことだ。実際彼の体は短期間で大きく変化している。筋肉は異常なほどに膨張し、皮膚は黒く、そして暗闇で生活していたからか視覚能力が大きく低下していたことだ。

つまりゲルシーの弱点は強い光だということが分かった。といってもこれから遭遇しないに越したことはないのだが。

 それでも未知の物質によってこのような現象が引き起こされたということは、他にも個体がいてもおかしくはないのだ。それならば装備の方もそれ相応のものを用意しなければならないか……。

「終末って恐ろしいな……」

 椅子にもたれながらそんなことを呟いていると、誰かが部屋に入ってきた。

「おはようございます……って隈が半端じゃないですよ!」

 入室早々に大声を上げる彼女だが、今はそんなに気にならなかった。

「おお、どうした」

「どうしたって、こっちのセリフですよ!ちゃんと寝ているんですか!」

「ここ三日は寝てないけど……」

「ちゃんと寝てくださいよ!」

 僕の言葉を聞き終わらないうちに彼女は僕の体を軽々と持ち上げると、ベッドに連行した。

「また六時間後に来るのでそれまでちゃんと睡眠をとっておいてくださいね」

 彼女はそう言うと再び部屋から出て行ってしまった。

 正直未知の物質についてもう少し確認したいことがあったが、ベッドに入った途端強い眠気に襲われて、そのまま意識が途切れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る