日記(2)
『七月…日
最近今田の様子がおかしい。熱が少しあるだけと言っているが、伝染病だったらこんな狭い所、すぐにパンデミックだ。早急に手を打たなければ』
通信機の話題ではなかった。さらに読む。
『七月…日
ダメだ。今田はもう助からない。皮膚は黒く変色しだしたし、目も上の皮膚がたるんでるし、やたら心拍数も高い。呂律もまわらないし、一体何の病気なんだ?早く通信機で救援を呼んでくれ』
『七月…日
今田の姿がない。あいつ、あの状態でどこに行ったんだ?移動できるとは到底思えないんだが?』
『七月…日
昨日から今田を含めて三人が行方不明らしい。探しに行こうにも一部道が倒壊していて危険なので行こうにも行けない。てかこの倒壊した先の道は一体どこに繋がってるんだ?』
『七月…日
化け物だ。もし昔の人々がいたらきっと妖怪の一種とされて百年は語り継がれそうな、そんな化け物。いや、あれは今田だ。正しくは今田だったものだが。運よく逃げ切れたがこれがいつまで続くか……』
「なあ、これって……」
「もしかしてゲルシーなんですかね?」
今田という人物、その人が急に発熱を起こして皮膚が黒くなった後に、化け物になった。人型でかつ皮膚が黒いゲルシーと共通点が多い。つまり……。
「ゲルシーは人間だったんだ……」
先ほどから信じられないことの連続でめまいがしてきた。しかしそれだけ発見もある。さらにページを進めた。
『七月…日
一部の住民が通信機を持って倒壊した通路を通ってこのシェルターから脱出したそうだ。彼らが運よく他の生き残りたちを連れて助けに来てくれればいいが、まずないだろう。せめて武器さえあれば……』
『七月…日
もう無理みたいだ。傷口からの出血は止まらないし、やつらはずっと廊下を徘徊している。捕まった奴らは軒並み捕食される。どうやら主食は人間らしい。』
『七月…日
これを読んだあなたへ
こんにちは、私の名前は山形ジロウ。ここまで読んでくれて分かる通り私は今化け物から逃げ続けているが、もはや死を目前にしている。これから本当の意味での決死の覚悟で他のシェルターへの移動をする。おそらくその前に死ぬだろう。だからここに今私の知っていることを全て託したい。
まずシェルター。私の避難したこの場所だがどうやら第二シェルターというらしい。第八まで存在するらしいが、現在稼働しているのは第六のみらしい。そこに通信機も移動させたそうだ。だからもし君が生き残った人類と通信したいというのならそこに向かえばいい。最後のページに簡単な地図を描いた。あんまり頼りにならないかもしれないが参考になれば幸いだ。それに化け物にも気を付けろって言ってもこれを読んでいるなら知っていると思うが。
こんなところか。思ったよりも短いが。あともし君が第六シェルターに無事到着出来たら、そこに川口という男がいるかもしれない。そいつに俺が死んだことを伝えてくれ。それじゃ、君のこれからの人生に幸あらんことを』
日記はここで終わっていた。
そんなに文の量自体は多くないのに、まるで一本の壮大な小説を読んだかのような心地になった。まさに事実は小説より奇なりというわけだ。
「通信機に宇宙船、信じられますか?」
困惑した表情でこちらを窺う彼女。唐突に多くの非常識を押し付けられた、初めて西洋科学を見た東洋の医者はこのような気持ちだったのだろうか。
「まだ信じられない。けど、それらの存在を確認していないのに否定するのもナンセンスじゃないか」
頭を抱えて最後のページを開く。確かにそこに地図が描かれていた。
「それにゲルシーがもともと人間だったのかも、だとしたら何故こんな醜い姿になったのかも答えが知りたい」
「じゃあ……」
もう答えは決まっている。
「もちろん、第六シェルターに向かうつもりだ」
未知への恐怖が支配していた心に、今度は新たな事実への好奇心が湧いてきた。
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