日記(1)

『六月…日

ずっと地下にいるのも退屈なので今日から日記をつけることにした。と言っても書くような出来事なんて全くと言っていいほどないんだがな。早く地上に出たい』


 どうやら本当にあの地下に住んでいた人の文章のようだ。さらにページをめくる。


『六月…日

本当にすることがない。早く助けが来ることを願う。』


 中身のない、小学生の夏休みの宿題のような文章だ。さらにページをめくるが次のページにも大したことは書かれていない。

「はずれっぽいな……」

 パラパラと雑にめくっていくが、どれも短く内容も薄く感じられた。

 正直これ以上読む価値がないと思い、一気に最後まで目を通して終わらせようとした時、彼女の手が僕のめくる手を止めた。

「ちょっと待ってください!」

 彼女はそのままページを戻すと、ある一ページで手を止めると、その中の文章を指差した。

「ここ見てくださいよ!」

 彼女に言われるがままにその箇所に目を向けた。


『六月…日

今日も何かしたわけではないが、他の連中が異常に騒がしかった。何やら通信機を手に入れたと言って喜んでいるが、一体誰と通信するってんだ?』


「通信機……」

「何か変じゃないですか?」

「そうだよな」

 通信機とは一体何のことなのだろうか。自分たちが行った時にはそれらしきものは発見できなかったし、そもそもどこに通信するのか。それに何故彼らはそんな使えない通信機を見つけて喜んでいるのか。

「なあ、何で彼らは通信機を見つけているんだ?」

「それは……」

 彼女は少し考えこんでから、何か思いついたようにこちらを向いた。

「きっと彼らは外の世界のことを知らなかったんですよ」

「つまり?」

「彼らはあなたの言う新型爆弾から避難するために地下に入った。だけどその時点では人類は滅亡するなんて考えていなかったし、外にはまだ文明が存在すると思ってたんですよ!」

「そうか!」

 なるほど。それなら彼らが通信機を用いて救助を呼ぼうとしたのも納得できる。

 だが彼らは知らなかった。外の文明が滅んでいることを。

「でもこの後どうしたんですかね?」

「絶望しただろうな……」

 この後彼らがどうなったのか、さらにページをめくった。


『六月…日

どうやら通信がつながったらしい。だが彼らは地上にはいないらしい。、全く理解できないが、どうやら地上に人はもはや存在せず、通信先の彼らは宇宙で生活しているそうだ。全く意味が分からない』


「…………え?」

 もしこれがもし本当だとしても、まるで地動説を初めて知った天動説論者のように今の僕には到底受け入れられるものではなかった。まさに天地の逆転だ。

「これって本当ですかね?」

 横の彼女も少し動揺している。

 確かに見失ってた。地上に人類がいなくなったことには間違いなかったが、まさか宇宙に移住するとは……。全くの想定外だ。

 いったいどこの国が飛ばした?何人が居住している?いや、そもそも実在すら怪しい。

 混乱と不安に駆られ、僕はさらに読み進めた。

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