死闘(1)

 僕が準備にいそしんでいる間にも、彼女は化け物との死闘を繰り広げていた。

「おっとっと……」

 化け物の振り下ろされた拳を彼女は易々とよける。化け物の巨体から繰り出される一撃は威力こそ凄まじいものの、一撃一撃が遅く動きの速い彼女には当たらなかった。

 だがそれは彼女が優勢であるということではない。彼女自身、先ほどから危険を冒しつつも刀による肉薄攻撃を行っているものの、まるで効いていない。

 先ほどの回避行動で相手との距離を取った彼女は、こちらに気づくて振り返って叫んだ。

「逃げてって言いましたよね?」

 その声音から動揺が伝わる。

「年下の少女が戦ってんのに逃げられるか!」

 僕も彼女に叫び返す。

 彼女は少しこちらを見つめた後、呆れたようにため息をついた。

「死んでも知りませんからね?」

「もう走馬灯を見たから死んだようなもんだ」

 そう返すと彼女は少し微笑んで、また化け物に突っ込んでいった。


 戦闘が始まって二分が経過したが、戦局に未だ変化はない。だがマミの方は少しずつではあるが、疲労の色が見え始めてきた。

「大丈夫か?」

 手元の作業に注意しつつも、彼女に尋ねる。

「大丈夫じゃないですよ。それに……」

 彼女はそう言うと、こちらに刀を見せつけてきた。ぎらりと反射した光がこちらに射してくる。

「あいつの皮膚、硬すぎて全然斬れないし、刀は刃こぼれしてくるし」

 遠目では刃こぼれまでは分からないが、確かに先ほどから化け物の皮膚に切り傷こそあれど、貫通したような痕跡はない。

「グルウオオオオオオオオオオオ!!!」

 化け物が何度目かの咆哮をして、また彼女に襲い掛かる。

「またくる……!」

 彼女もまた化け物を真っすぐ化け物に突っ込んでいく。汗で額がキラキラと輝く。

 彼女はそのまま大きく跳びあがると、刀を化け物の肩へと振り下ろした。急所を突いた重い一撃だった。が、壊れたのは肩ではなく彼女の持っていた刀のほうだった。

「うそ……」

 刀はパキっと真ん中で折れると、先端が宙を舞いながら明後日の方向へと着地した。

 震える手で短くなった刀を持ちながら、再び構えを取る彼女。もはや今の彼女に勝ち目はない。

 化け物もさすがに今の一撃は少し効いたようで肩を抑えながらしゃがみこむが、その憎悪に満ちた目はなおも目の前の少女を睨みつけていた。

「ここまでか……」

 拳で汗を拭いながら彼女がそう呟いたその瞬間、僕は継続していた作業の手を止めた。

「よし!準備ができたぞ!」

 ついにレールガンの発射準備が整ったのである。といってもレールガンのことなどほとんど知らなかったので、ほとんど当てずっぽうに近かったが。

 そうして僕はレールガンの先を化け物に向け、重い銃身をゆっくりと動かしながら狙いを定めた。

「マミ、離れてろ!」

「わかった」

 狙いが定まったところで彼女にそう叫ぶ。すると彼女は一発の電撃弾を化け物に浴びせて、距離をとった。

 再び電撃弾で悶え苦しむ化け物。そいつの心臓をよく狙い、僕は引き金を引いた。

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