走馬灯

 僕、南野シゲルは物心が付いた時から神童ともてはやされた。どうやら自分は特別で周りとは違う。何となくだがそう思うようになっていった。

 確かに僕は周りよりも勉強ができたし、国の研究機関に若くして勤めることができたのも持ち前の才能故だったのだろう。だが僕は一つ、他の人にはできることができなかった。人とまともに会話ができなかったのだ。

 いざ人を目の前にするとどうしても言葉が詰まってしまい、会話が成立しなくなってしまうのだ。それが原因で学生時代、友達は一人もできなかったし、いじめられる原因にもなった。だからその分、僕は一層勉学に励んだ。

 しかし大人になって研究所に勤めるようになっても、この最悪な短所は治らなかった。むしろ悪化したかもしれない。もちろん僕はそれが原因で孤立してしまい、最終的には「研究所の異端児」というレッテルを貼られ、他の研究員からも聞きたくない噂を聞くようにもなってしまった。それでも研究所に勤められたのは僕自身の研究の成果がやはり大きかったのだろうが、居心地は最悪だった。

 そしてあの日、そんな異端児の僕を奴らは見捨てて逃げた。当然と言えば当然ではあるが、本当はとても悔しかった。どうして、たとえ間に合わなくてもいいから声を掛けていてくれれば。そんなことも思ったが、何もかもが手遅れだった。

 あれから一年、僕はこの荒廃しきった世界を何の目的もなく、ただ死ぬのが嫌だったからという理由でダラダラと生きてきた。他人のいなくなった世界は誰にも気を遣う必要はないし、むしろ楽だったかもしれない。それでも本能がそうしているのか、どこか寂しいという気持ちを拭うことはできなかった。結局死ぬときは一人なのだ。

 後悔ばかりの人生だったが、こういう終わり方も悪くない。せめて来世ではもっと幸せに。

 少しずつ意識が遠のいていく中、何か大事なことを忘れているような。何、拾ってきた機械の少女?そういえばそんなのが……


「ちょっと何ぼーっとしてるんですか!」

 意識が戻ると、少女の腕の中だった。

「あれ、僕は死んだはずじゃ……」

「何寝ぼけたこと言ってるんですか!今大変なんですから!」

 そう言うと彼女は何やら図体のでかい気持ち悪い生物が小刻みに震えているのを見せてきた。

「あれは……」

 あれは間違いない。地下で出会った怪物だ。

「あーっ!」

 すべて思い出した。ここまで来ること。怪物に遭遇したこと。そして彼女のことも。

「どうやらやっと思い出したようですね」

 マミが呆れた顔をしてこちらを見てくる。

「いいですか。今あの化け物は電撃弾で動きを止めていますけど、長くは持ちそうにないです」

 真剣な表情に戻って彼女は続ける。

「地上に出してしまった以上、倒さないと今後外に出るのは難しいです。なので……」

 そういうと彼女は刀を持ち上げてこちらに見せてきた。

「私は戦いますから避難していてください」

「はぁ?」

 何を言ってるんだ彼女は?戦う?あんなおもちゃみたいな刀で?そんなの無理だ。力士相手に赤ん坊がつまようじ一本で勝負を挑むようなもんだ。

 化け物は先ほどから苦しそうに雄たけびをあげて苦しんでいるようだが、あの図体に電撃弾じゃ、そろそろ効果が切れてもおかしくはない。

「もし私が死んだら大人しく逃げてくださいね」

 彼女はそう言うと羽織っていた白衣を脱ぎ捨て、抜刀し一直線に突っ込んでいった。

「おい、やめろ!」

 精一杯の声で呼びかけるが、彼女は振り返らない。

「あの馬鹿……」

 僕は立ち上がるとあるものを探した。もちろん、バイクを探して逃げようとしているわけではない。自分よりも年下の少女が戦ってるのに逃げるような卑怯な男ではない。

 あった。僕はそいつを持ち上げると、あの醜い化け物へと向けた。さあ、レールガンの用意をしよう。

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