地下避難所(3)
部屋には二段ベッドと机が一つだけという何か物寂しい感じのする部屋だった。
「どうやら個室のようだな……」
おそらくこの避難所に来た人々のための寝床のようだ。廊下にずらりと並んだ他の部屋もきっと同じような造りになっているのだろう。
僕がドアや天井など部屋の構造を注意深く観察していると、先に入っていた彼女が何か持ってこちらに近づいてきた。
「あの、これが机の上にあったんですけど……」
そう言うと彼女は一冊のノートを差し出した。
ノートの表紙は何か文字が書いてあったような形跡があったが、掠れていてはっきりとは読めない。
「これは一体……」
ノートをパラパラとめくりながら状態を確認する。どうやら中身はそこまで劣化していないことから、少なくとも一年以内の物であろう。だとしたら、先ほどの倉庫と同じくこの施設にはやはり人がいたということなのか。疑問はますます深まっていった。
「とりあえずありがとう」
僕はノートから顔を上げて彼女に礼を言った。
他に何かこの避難所の手掛かりになりそうなものはないか、部屋の中を見てみたが特にこれといったものはなかった。
最初の広間へと戻るために再び廊下に出たが、最初に来た時とは何か空気が違うように感じた。
「なあ、何か変な感じがしないか?」
そう彼女に話すと、どうやら彼女もそのようで辺りをキョロキョロと見回していた。
「確かに何か嫌なにおいが……」
彼女がそう言った瞬間、廊下の奥の方から大きな音とともに衝撃が伝わってきた。
背中に嫌な汗がじわりと広がる。ああ、振り向かなくても分かる。乱暴な足取りでこちらに向かってきているのは……。
「逃げますよ!」
考えるよりも先に彼女に手を引かれて走り出した。僕もとっさに全速力で走り始める。
この前の戦争で何度か命の危機を感じたが、今回のもそれに劣らない。本能が警鐘を鳴らして「走れ」と訴えてくる。
何者かがいるとあちら側も感じ取ったのだろう。その足音は少しずつだが確実にペースを嗅げてこちらに向かってきていた。
何とか入口のドアを突破すると、今度は地上を目指してまた走り始める。怠惰な生活を送ってきた体はここで悲鳴を上げるが、そんなものを聞いている余裕はない。何も考えずに階段を駆け上がった。
やっとの思いで地上に出るが、足音は止まることなくこちらに近づいてきてる。
「バイクまで走るぞ!」
僕は彼女に向かって言い放ったその瞬間、地が割れるような衝撃と共に化け物が姿を現した。
「これが……」
異常に膨れ上がった筋肉に、墨のように黒い皮膚。そしてその大きさに圧倒される。こいつがマミの言っていた化け物か。
「グルウオオオオオオオオオオオ!!!」
耳をつんざくような咆哮があたりに響き渡る。まるでそれは、これからの死を予感させるファンファーレのようだ。
怪物は白目でこちらを見ると、狙いをつけたように走り始めた。
「あ、死ぬんだ」と何となく分かった。化け物の動きがえらく遅く見えたからだ。だが避けようとしても怖気づいて体が動かない。もはやここまでか。
もはや避けられない死を目前にして今までの人生の光景が脳裏に浮かぶ。これがいわゆる走馬灯か。浮かんでくるのはどれも思い出したくない思い出ばかりだったが、どうせ最期だ。僕はこの走馬灯に身を委ねることにした。
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