地下避難所(1)
僕は持ってきた暗視薬を口に入れると、それを手持ちの水で流し込んだ。そして昨日と同じように赤いスイッチを押すと、蓋は音を立てて動き出し階段が姿を現した。
暗視薬の効果は十分で、昨日は全く見えなかった暗闇の先も難なく見えるようになっていた。
「それじゃあ、行くか」
彼女のほうに振り向いてそう言うと、彼女はこくりと頷いた。
僕は階段を一段一段とゆっくり降りた。右手には例の電撃弾を握っていつ、どこからでも化け物が現れてもいいように注意しながら降りて行った。
しばらくして階段の終わりが見えてきて、あの大きな空間へとたどり着いた。
昨日はライトを照らしてでしか見ることのできなかった空間は予想よりも大きく見え、百人、いや千人くらいだって余裕で収容できそうなくらいだ。
「昨日はここで引き返してしまったわけだが……」
そう言って彼女が付いてきてるのを確認しつつ、一歩一歩前へと進んだ。しかし例の化け物は現れない。どうやら今はいないらしい。
しばらくは安全であろうと予想した僕は、一番手前にあったドアを指差して「ここに入る」と彼女に合図した。彼女はそれに頷く。
もう一度念入りに周りを見渡した後、そっとドアノブに触れ、ゆっくりとドアを開いた。
「ごめんください」
もちろん返事などあるわけないが、そう言って部屋に足を踏み入れる。それほど広くないこの部屋は段ボールが山積みになっていた。どうやらここは倉庫らしい。
もしかしたら物資がまだ残ってるかもしれないと近くにあった段ボールを開けたが、中身は空っぽだった。
「何で?」
何故か空っぽの段ボール。他の段ボールも調べてみるが、そのほとんどが空っぽで残っているのは数個しかなかった。つまりこれは……。
「誰かが、それも大人数がこの施設を利用していた?」
つまり爆弾投下の後、ここで生活していた人々がいたことになる。これまでの調査による予想が根底から覆された。
どのくらいの人々が生活していたのか。そしてその人々はどこに消えたのか。まだ物資が残っていることから、計画的にここを去ったとも思えないが……。
空の段ボールを見つめたままじっくりと考えていると、後ろから何者かに肩を掴まれた。
「ひっ!」
腰を抜かして振り向くと、呆れた顔をしたマミが立っていた。
「そんなに驚かないでくださいよ……」
「ならせめて一声かけてくれよ」
僕は彼女に手を借りると、立ち上がって彼女に「何かあったのか?」と尋ねた。
「そうそう。そのために来たんですよ」
そう言うと彼女は後ろにあった段ボールを持ち上げると、その中身をこちらに見せてきた。
「見てくださいこれ。カレーですよ!」
僕はその内の一つを手に取って見る。確かにこれはカレーだ。しかもまだ食べられる!
「本当だ……やったな!」
嬉々として彼女に言うと、「もっと褒めてくださいよ」と言わんばかりのドヤ顔でこちらを見てきた。それが少し鼻についたが、今回の件に免じて何も言わなかった。
「他には何かあったか?」
「少しの水がありますけど……」
彼女は部屋の隅にあった段ボールを指差した。
「水はまた今度にしよう。とりあえず今夜はカレーだな」
予想だにしなかった収穫に喜びながらも、僕たちは調査を続行した。
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