明くる日(3)
急いで温めたレトルトのご飯にルーを掛けると、カレーライスの出来上がりだ。
確かに何も具材が入ってないのは寂しいが、それはそれでシンプルでいいかもしれない。
「では、いただきます」
僕は準備ができると早速カレーを口に運んだ。香辛料の強烈な香りが口の中に広がった。
「どうです?」
彼女が向かいに座って聞いてきた。
「ああ、おいしいよ」
僕は素直な感想を言ってもう一口と食べ続けたが、彼女はこっちを見つめるだけで何もしていなかった。
「そういや君は食べないの?」
手を止めて彼女に聞く。
「大丈夫ですよ。機械なんで」
笑って答える彼女だったが、「グゥ」とだらしない音が聞こえてきた。
「今のは?」
僕がそう聞いた時には彼女の白い頬は既に紅潮していた。
「その……やっぱりいただいていいですか?」
僕が静かにうなずくと、彼女は自分の分のカレーを用意しに行った。
「そういやまだまだ聞きたいことがあるんだが」
僕は目の前でいざカレーを食べようとしている彼女にそう言った。
「今食べ始めたところなんですよ?」
彼女はこちらを見て抗議の目線を送った。
「いや、食べながらで構わないからさ」
そう言うと彼女は「どうぞ」と言って、スプーンを口に運び始めた。
「それじゃあ、君は君を作った人のことを覚えている?」
僕のその質問に彼女の手が止まった。何かまずかったのかもしれない。
「あの、嫌なら答えなくても……」
できるだけ地雷を踏まないように取り繕おうとしたが、彼女は軽く笑みを浮かべてこちらを見た。
「すみません、あまり覚えていなくて……」
彼女の笑みは一見何の変哲もないようだったが、僕は何か触れてはいけないもののようなきがしてそれ以上は踏み込めなかった。
「ごめんよ、ディーゼロサン」
彼女から目をそらして謝る。
「気にしないでくださいよ。それにディーゼロサンって呼び方もなんか無機質で……」
「そ、それだな。何か新しい呼び方があったほうが」
気まずくなった空気を切り抜けるために僕は新しい彼女の呼び方の話題に食らいついた。
僕も彼女も少しの間沈黙して考えていたが、先に思いついたのは彼女の方だった。
「じゃあマミって呼んでください」
「マミ?」
「ほら、ゼロってマルとも言うじゃないですか。それにサンも三つのミということでマミということで」
「そうか。分かった、マミで」
どこか得意げに説明する彼女の案を却下するまでもなく、僕はそれを受け入れた。
「それでマミ、今何時か分かる?」
慣れるために、適当な質問を使って早速その呼び名を使ってみる。
「私の体内時計が間違っていなければ、午後三時くらいですけど」
「そうか」
コップに注がれた水を飲みながら、ぼんやりと考える。そうか、もう午後の三時……。
「って、まずい!」
はっとして勢いよく席を立つ。目の前の彼女も驚いた様子でこちらを見る。
「どうしたんですか!」
「もうすぐ日が沈むんだよ!」
僕は急いで支度をしながら彼女の質問に答える。
「それが何か困ったことでも……」
「日が沈んだら調査ができなくなる!その前に行かないと!」
調査において大事な継続性。ここまで百十二日間、休まずに行ってきたんだ。
「じゃあ行ってくる!」
僕は掛けておいたヘルメットをかぶると、急いで部屋を出た。
「ちょっと待ってくださいよ!私も一緒に行きますから」
後ろからマミの声が聞こえてきた。
「君が行ってもつまらないぞ」
僕がそう言って振り向くと、彼女はすぐ後ろを走っていた。
「ここで待ってる方がつまらないですよ!」
「……邪魔はしないでくれよ」
「分かってますよ」
白衣をたなびかせながらガレージに入ると、掛けておいた予備のヘルメットを彼女に渡す。
「ほらこれ、被って」
「あ、はい」
そしてポケットからカギを取り出すと、バイクのエンジンを掛けた。
「さあ、乗って!」
彼女がヘルメットを着けながら後ろに座る。
「ちゃんとつかまってろよ!」
ヘルメットを着け終わったのを確認すると、バイクは勢いよく発進した。
「まだ沈まないでおくれよ」
日は既に西に傾いていたが、懸命にあのビル群へと向かった。
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