午後の調査(1)
相変わらずビルだったそれは何も言わずに僕達を出迎えてくれた。
僕はビル群のはずれ辺りにバイクを停めるとヘルメットを脱いだ。
「大丈夫だったか?」
そう言って彼女のほうを振り返ると、彼女は長い黒髪をこれまたどこで手に入れたか分からないゴムで結っていた。
「あ、大丈夫です」
「そうか」
僕はそれを確認すると、目の前の残骸に目を向けた。
「今回はここらの破片でも探ってみるか」
僕はバイクの座席下の収納から大きなスコップを取り出すと、さっそく一番手前にあった破片から調査を開始した。彼女は後ろから何も言わずに着いてきた。
「これは……」
破損状況や破片の素材、配置などを確認しては手帳に全て書き込む。それを日が暮れるまで延々と繰り返すわけだが……。
僕は地図を取り出して自分の位置を把握する。彼女は本当にどこから持ち出したか分からないが本を持って、破片に腰かけて読書なんてしている。一体誰に許可を取って持ち出したんだか……なんと思ったが、そもそも僕しかいないので黙認することにした。
「確かこの辺りに……」
ひときわ大きな破片をスコップの先端でコツコツと叩くと、もう一度地図を見返した。
もともとここはオフィス街であり、この地点には避難所が存在していたと地図に記されている。
「地下避難所があるわけだが……」
そう、あるにはあるわけだが一つ大きな問題があった。その地下避難所の真上に大きな瓦礫が蓋をしていた。こいつをどうにかしなくちゃならない。
僕はさっそく破片の端に立つとその下にスコップを滑りこませ、力いっぱいに瓦礫を持ち上げようとした。
「うおおおおおおおお!」
瓦礫は少し持ち上がったがひっくり返すまでには至らず、その前に僕の体力が限界を迎えた。
「何してるんですか?」
本を片手に彼女がこちらに来た。
「この瓦礫をどかしたいんだけど、なかなかできなくてね……」
「これですか?」
彼女は例の瓦礫を指差す。
「そうだけど」
「分かりました」
彼女はそう言うと、しゃがみこんで瓦礫の下に手を入れた。
「え?持ち上げられるの?」
「言ったじゃないですか。五トンまでなら余裕で持ち上げられるって」
困惑する僕を他所に、彼女は軽々と瓦礫を持ち上げるとひっくり返した。
「マジかよ……」
目の前の光景に圧倒されたが、彼女は至って普通といった感じで地面を指差した。
「これ探してたんですか?」
見るとそこには確かに地面を覆う大きな蓋があった。
「そうだけど……」
この蓋がどのようにして開くのかを調べるために一歩前へ出た瞬間、何か妙なものを踏んでしまった。
「何だ今の?」
何を踏んでしまったのか確認するよりも前に、蓋が大きな音を立てて横にスライドしていった。
「うおっ!」
とっさに飛び退いて、蓋から距離を取る。少しして完全に動きが止まると、そこには地下へ続く大きな階段が出現した。
僕は先ほど何かを踏んづけてしまった位置を確認すると、赤いスイッチのようなものがあった。おそらくこれで開閉ができるのであろう。
「何ですかこれ?」
今度は彼女が困惑した様子でこちらを見る。
「地図には緊急避難所と書いてある」
「これが避難所?」
「そう、だからもしかしたら物資が残ってるかもしれない」
ポケットからライトを取り出して暗闇の先を照らす。どうやら道は壊れていないようだ。
「ちょっと見てくる」
ライトを片手に僕は階段に足を置いた。
「え?行くんですか?」
驚いた様子で彼女が肩を掴む。僕は彼女へ振り向くと「勿論」と言った。
「それなら私も一緒に行きます」
彼女はそう言うと、僕より一歩前に出てこちらを振り返った。
「その、やっぱりやめません?何か、その嫌な感じがします」
心配そうにこちらを見つめる彼女。しかしこちらは腐っても科学者。未知の道が目の前にある以上、引き下がるわけにはいかない。
「それでも、僕はこの先を知りたい」
結局僕は彼女の言葉を受け入れずに地下に足を踏み入れた。彼女は相変わらず不安げな表情を浮かべながらも後に着いてきた。
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