機械の少女(3)

「一つ聞きたいことがあるんですけど……」

 僕がレポートの内容をまとめていると、彼女が聞いてきた。

「あ、うん。いいよ」

 僕はペンを置くと、椅子を彼女の方に向けた。

「その、答えづらいかもしれないんですけど」

 彼女はそう前置きをして話した。

「何であなただけ生き残ったんですか?」

 そうか、疑問に思うよな。思わず深呼吸してしまう。

「あの、無理しなくても……」

 彼女の気遣いの言葉を遮って僕は答えた。

「いや、話さなきゃ」

「え?」

「君は僕の質問に答えてくれたんだから、君にはこの質問の答えを聞く権利がある」

 確かに彼女には聞く権利があるが、もう一つ。僕がこのことについて整理する必要があった。

「何で僕だけが生き残ったのか、それは僕が他人から嫌われていたから」

「どういうこと?」

 困惑した様子で彼女が聞いてくる。

「あの日、僕のいたこの街に敵が攻め込んできた。それを知った上の人たちはこの街に爆弾を投下することを決定、それで僕以外はみんな飛行機に乗って逃げたんだけど、街のはずれで墜落、そのまま爆発に巻き込まれてみんな死んだ。僕だけが奇跡的に生き残った。それだけだ」

「嫌われていたって……」

「あの日、僕には避難についての連絡は何もなかった。まあ、僕の研究室だけ離れているから間に合わないと思ったんだろうね」

 僕はもはや彼女に聞かせるためというよりも、自分に言い聞かせるために話し続けていた。

「しかし皮肉だ。助かろうとした人間が死に、生き残るはずがなかった人間がこうして生きているんだから」

 僕はそこまで言うと、自嘲気味に笑った。

「申し訳ないね、こんなつまらない話をしてしまって」

「いえ、全然」

 申し訳なく彼女のほうを見るが、特に気にしていないといった感じだった。

「しかし本当なんですかね……」

「ん?」

「いや、本当に嫌われていたのかなって……」

 僕も彼女の方を見たが、別にふざけて言ってるような感じではなく、むしろ呟くように自然と言葉が出ているような、そんな感じだった。

「どうしてそんなこと……」

 まさかこんなことを彼女が言うとは思わず動揺してしまったが、彼女はためらうことなく続ける。

「だってあなたは見ず知らずの私を助けてくれたわけですよね?私はそんな人が嫌われるとは到底思えないんですけど……」

 彼女の目は真剣だった。

「別に親切心で助けたわけじゃない。ただ研究対象として……」

 僕は気恥ずかしくなってしまい、適当に言葉を返す。すると彼女は先ほどの表情から一変して、にかっと笑った。

「なんて、そんなところだと思いましたよ」

 そのいたずらっぽい笑顔にますます気恥ずかしくなり、僕は椅子をもとに戻すと作業に没頭した。彼女はそれから「ちょっとした冗談ですって」と言っていたが、全て無視した。

 馬鹿にされたことで「これだから他人は……」と思ったが、そういや彼女はロボットだ。どうやらとんでもないモノを拾ってきてしまったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る