機械の少女(2)

 僕はレポートの用意をすると、麦茶を二杯用意して彼女の前に腰かけた。

「こんなものしかないけど……」

 パニックから一旦落ち着いた彼女は「いただきます」と言って麦茶を一口飲んだ。

 少しの間沈黙が続いた後、僕は話を切り出した。

「その、君の名前は何ていうのかな?」

「私の名前?」

「そうそう」

「私の名前は『D-03』。そう名付けられました」

「デ、ディーゼロサン……分かった」

 僕がそれをレポートに書き込むと、今度は彼女がこちらに質問してきた。

「それで、あなたの名前は?」

 レポートを書く手を止めて、僕は彼女の方を見つめた。。

「ぼ、僕の名前?」

「はい」

「僕の名前は……南野シゲル。ここの研究員だった」

「研究員?」

 不思議そうに彼女は首を傾げる。

「でもここにはあなたしかいませんよね?」

「まあ、みんな死んじゃったからね」

「はぁ?」

 彼女が身を乗り出して僕の肩を掴む。

「それってどういうことですか?」

 追及のまなざしが僕に向けられる。

「死んだんだよ、戦争で」

「他の人も?」

「おそらくは。もうすぐ人類は絶滅するさ」

 彼女が肩から手を離すと、そこだけがしわになって残った。彼女は俯いてしまった。

「知らなかったのか?」

 僕の質問に彼女は小さく「はい」と答えた。

 僕はそれを簡単にレポートに記すと質問を続けた。

「それで、君は何のために作られた機械なんだ?」

「私ですか?それは…………覚えてないです。多分、データが破損してます」

「データの破損?」

「はい、おそらく大きな何らかの衝撃が加わってメモリが一時的に機能しなくなってしまっているんじゃないかと……」

「大きな衝撃か……」

 それはおそらく新型爆弾のことが影響しているのだろう。それじゃあ彼女は爆発の時、あの場所にいたということか?

「だとしたら相当衝撃に強い設計なんだな……」

 新型爆弾の威力は凄まじい。それは設計に携わった僕が一番知っている。それなのに彼女の損害は軽微ではないものの、再起動できるほどには耐久力があった。何が原因か?

「どうかしました?」

 しびれを切らした彼女の声で我に返った。

「申し訳ない」

「何考えてたんですか?」

「ま、まあ色々と……」

 新型爆弾にはまだまだ改良の余地があるのかもしれない。僕はそんなことを思いながら、ペンを走らせた。

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