第29話

珂珠さんのお屋敷。


今回は奥義のようなもの。


珂珠。

「人は自分勝手で愚かである。」

「よく言われているよね。」


葵ちゃん。

「人間は悪だ。」

「こんな事も言われている。」


珂珠。

「何が正しいか。」

「自分で正否を自由に決定してもいいのです。」


葵ちゃん。

「それは簡潔に言い表してます。」

「人間は自分で何が正しいか。」

「何が善で何が悪か。」

「決めていいのです。」


珂珠。

「故に人間は愚かで悪であると言われた。」


葵ちゃん。

「人々は好きなように善悪を決めています。」

「自分たちの都合で善悪を決めているのでしょうか。」


珂珠。

「理にかなっている事はすべて善。」

「理に合わないものは誤り。」

「物事の筋道と道理。」

「悪人とはかなり解り易いものです。」

「善人と主張しても理に合わない考えを持っていれば。」

「偽善者でしょう。」

「理にかなっているか?そうでないか?それだけです。」


葵ちゃん。

「人々は自分勝手に善だ悪だと言っています。」

「日本古来の考え方は。」

「西洋とは異なり。」

「物事のすじみちであれば。」

「殺人ですら容認される。」

「武士はそうしています。」

「それでも理に合わない事はしませんよ。」


珂珠。

「高度な道徳の教科書である武士道。」

「正しい殺人もあるんです。」

「否定できませんよ。」


葵ちゃん。

「実際に江戸時代では特に。」

「武士が人を斬る事はありました。」


珂珠。

「意外にも日本固有の考え方だと。」

「善悪が異なるのよね。」

「理にかなっている殺人は罪にならない。」

「理に合わないことをしてはいけない。」


葵ちゃん。

「けっこう自然由来の考え方なんですね。」

「世人はあれが悪いこれが悪い。」

「何が悪いか具体的に説明できませんし。」

「その基準はその人ですから。」

「そう思えば相手は悪ですから。」


珂珠。

「古語辞典から読んでみると。」

「日本固有の善悪は武士道から読み取れます。」

「何かやらかしたのでしょう。」


葵ちゃん。

「日本固有の善悪があって。」

「西洋と混ざって混乱したと思っています。」


珂珠。

「これがいいかも?」

「理法という概念。」

「これぞ公正で中立。」

「その人自身の判断ではなく。」

「理法に従って。」

「初めて正しい道理を見出す。」


葵ちゃん。

「定言ですね。」

「私は無条件で自然に振る舞う無為自然。」


珂珠。

「その調子。」

「理法に従う事で正しさがわかる。」

「常に道理にかなっているか?」

「それは理法の通りか?」

「自問自答。」

「自己診断。」

「問いで成り立つ。」


葵ちゃん。

「定言命法の発展型?」

「そうやって理法を知っていくのですね。」


珂珠。

「世人は自分でなんでも決定できる。」

「彼らにはあらかじめ。」

「頭の中に答えがあって。」

「それを基準に物を考えて反応している。」


葵ちゃん。

「間違えを指摘しても。」

「答えとは違うから。」

「そうやって跳ね除けます。」

「そうなると予定説。」

「神様はあらかじめ救う人と救わない人をお決めになられている。」


珂珠。

「それは公式見解。」

「悪平等という言葉の意味が分かるよね?」


葵ちゃん。

「神の条理に平等なんて無いでしょう。」

「理に合わない事ばかり繁盛してますよ。」


珂珠。

「それをあらかじめ避けるの。」


葵ちゃん。

「教えを受けないと。」

「駄目ですね。」

「私は独学でした。」

「凡人が作った教科書が愚書に見える。」


珂珠。

「子曰く、我は生まれながらにしてこれを知る者に非ず。」

「古を好み、敏にして似てこれを求めたる者なり。」


葵ちゃん。

「月夜半分闇夜半分。」

「この世では、よいことと悪いことが半々であるということ。」


珂珠。

「日本書紀は日本人の必須科目。」

「日本書紀の正統訳をもう一回読んでみよー。」


葵ちゃん。

「それに尽きます。」

「帰ったら読書あるのみ。」


基本をおさらい。


隣の部屋で。


志穂ちゃんが書き物をしておりました。


ちょっと拝見。


志穂。

「先人が確立した英知。」

「まるで道具や武器のよう。」

「学問をしないと何も出来ない。」


葵ちゃん。

「勉強は凡人が設定した資料を丸暗記するだけ。」

「まるで役に立たない。」


志穂。

「学問はかなりの威力。」

「武器のように振り回したり。」

「自由自在。」

「歴史上の人物や賢人。」

「偉人に天才。」

「こんな豪華で人類を極めたような人々が書き残した。」

「それを学べば力になって当然。」


葵ちゃん。

「現代人がいくら頑張っても。」

「歴史上の人物には及ばない。」

「現代人の基盤は歴史が支えている。」

「現代人なんて小さなもんです。」


志穂。

「現代人なんてそんな程度。」

「歴史を学ぶにつれて。」

「私達って小さなもの。」


葵ちゃん。

「戦争だって。」

「なんで発生するのか分からない。」

「当時の人々はよく知っていた。」

「ローマ帝国は。」

「ローマの神々の意向によって領土を広げていた。」


志穂。

「まだ解き明かされていないものはいっぱいだから。」

「分からないものはすべて未知のものとしましょう。」

「知ったかぶりはしたくない。」

「解き明かされるのを待ちましょう。」


葵ちゃん。

「それが賢明かも。」

「こっちの原稿は?」


志穂。

「下書き。」

「デジタルに入れた。」


葵ちゃん。

「すごーい。」

「私は100話の長編が書きたいな。」

「チャレンジ?」


志穂。

「私はそこまで書くものはないわ。」


葵ちゃん。

「日常モノは物語にならなくて焦ってるよ。」


志穂。

「物語の性質から見て。」

「日常系は無理があると思う。」


葵ちゃん。

「私は我流では無いから。」

「確かに。」

「再考が必要かな?」


ふたりが意見交換をしている中。


素晴らしい緑茶を飲む。


品質によって味か違い。


別物。


珂珠。

「非凡な女の子。」

「育成が終わったら。」

「どこに入れようか。」

「わたしの楽しみ。」

「これからは女性の天下!」

「なんちゃって。」


庭に撒いたお米と。


ハトの餌からパンくず。


鳥達が来訪している。


食べ物の譲り合い。


ハトとスズメが共存しようと距離を取ってついばむ。


カラスが屋根から覗いている。


哀歌。

「冬は訪れ季節は巡り。」

「のどかな風景そこにあり。」

「世捨て人になろうと思いつつ。」

「報道には随分惑わされ。」

「街に出向きては平和的な人は居て。」

「ある部分では野蛮で。」

「愚者でないそれだけの理由でここにおり。」

「人々の歪んだ世界を見物し。」

「理に合わないことばかりが蔓延って。」

「それもせいぜい人の業。」

「巻き込まないで私でさえ。」

「どうにもならぬ暗闇を。」

「花火と出れば喚いては。」

「他人のランプを羨めよ。」

「あなたは幽閉されし時の中。」


遠州のからっ風が吹き荒れる。


珍しい雪。


人に仕えてはいない。


故に人の掟や思想などは破棄されて。


神様から贈られる手紙のような。


それだけを指針に。


青人草は神意のままに。


日本は安浦の国。


細戈の千足る国。


磯輪上の秀真国。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る