奇跡

翌日、ポリキヤースが学校へ行くと教師から大目玉を喰いました。


「お前は教師をなんだと思っているのか。

教師に向かって何を言ったかわかっているのか。」


そればかりを繰り返す教師は壊れたロボットのようで気味が悪いと思いました。


この教師の魂はきっと、まだ人間に転生したのは初めてか、よくて2回目かなとポリキヤースは推理していました。


大きな赤ん坊同然の教師を目の前に、ポリキヤースは今日もこのまま家に帰ろうか少しばかり悩んでいました。


ふと、そのときテルティーナと目が合いました。

真っ赤になって、ずいぶん腫れぼったい目でポリキヤースを見つめていました。


そのとき突然


-暗闇は去ったぞ-


と、神の声が聞こえた気がしました。



なるほど。彼女との件で何度かうまく喋れたり、走れたりしたのは、神の手助けがあったんだな。


ポリキヤースは神へ感謝を伝えました。

そして本当はいつでもスラスラ喋れるようにしてほしいし、歩いたり走ったりもしたいです。と、付け加えました。



休み時間を知らせるチャイムの音によって、ポリキヤースはようやく大きな赤ん坊から解放されることになりました。


ポリキヤースがまたいつものように、ヤクターと共に中庭に行こうとしたとき、テルティーナが小走りでやって来ました。


何かを察したように、ヤクターは何も言わずにその場を離れて行きました。



「ごめんなさい。お邪魔じゃなかったかしら?」



ポリキヤースはいいや、と首を振った。



「君は邪悪な考えを手放したようだね。

安心したよ。」



ポリキヤースの口からまたスラスラと言葉が飛び出してきました。



「え!一体どうして分かったの??

昨日ね、あれから家に帰って両親に話したの。

私は早く死んでしまった妹を不幸だと決め付けてた。

そして、妹が早く死んでしまったのは自分のせいだと思ってる。

それが苦しくて辛くて、もういっそ自分が死ねばよかったとすら思ってた。

だけどポリキヤースに言われた。

命の長さや短さで幸せか不幸か測れるものか。

そんな考えは妹に失礼だって。

そして、私が私を傷付けることは、家族を傷付け裏切ることだって叱られたって言ったの。

そしたら両親はたくさん泣いてた。

両親も同じ気持ちだったみたいなの。

父も母もそれぞれが自分のせいだと思って自分を責めてたって言ってたわ。

そして私達は話し合ったの。

私達が泣いていたらきっと妹は悲しむわ。

これからは妹のために笑顔で暮らしたいって。

誰かのせいで妹は死んだんじゃない、妹は一緒懸命に生きた。

そんな妹を誇りに思って生きて行こう。

両親とそう約束したの。

ポリキヤース、あなたのおかげよ。


本当にありがとう。

あなたのおかげで私達は前を向いて生きていけるわ。

あなたは私たち家族の救世主よ。」


ポリキヤースはなんだか照れ臭くなって下を向いた。


「暗闇を払ったのは君自身さ。

僕はただ、事実を君に話しただけ。

君と君の両親が自分達で闇より愛を選んだんだ。」



再び言葉達がスラスラと口から流れるように出て行った。



「あれ?まただ。

テルティーナ、君はどうも神様に好かれているらしいね。

なぜか、ここ最近君と関わってからこんな風に自然とすらすら喋れることが多いんだよ。


・・・ん?それとも、もしかすると君が暗闇を払ったお祝いに、神が僕に言葉をプレゼントしてくれたのかもしれない!

いや、きっとそうに違いない!

これは嬉しい!神様ありがとう!」



ポリキヤースはあんまり嬉しくてぴょんぴょんとジャンプしました。

そしておかしなことに気が付きました。

脚がもつれないのです。


「わあ!脚まで自由だ!

こりゃあ素晴らしいや!」


飛んだり跳ねたりしながら大喜びしているポリキヤースを見てテルティーナは思わず言いました。


「ポリキヤース、あなたって本当に不思議な人ね。

なんだかあなた自身が奇跡みたい。」



ポリキヤースは不思議そうな顔をして言いました。


「奇跡だよ。君も僕も、そしてこのクラスのみんなも。

こうしてここで生きているのはみんな奇跡の塊なのさ」

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