暗闇
ポリキヤースの母とテルティーナはしばらくの間、呆然としていましたが突然ポリキヤースの母は立ち上がって言いました。
「あ!そうだわ!テルティーナ、良かったら夕飯食べて行かない?
今日はね、庭でたくさん野菜が取れたのよ。
2人じゃ食べきれないのよ。
ご両親には私から伝えるから。ね?いいでしょ?」
彼女はいつもの笑顔で明るく言うのです。
テルティーナが返事をする前に母はさっさと夕飯の支度をはじめてしまいました。
1人残されたテルティーナは、ポリキヤースから言われた言葉ひとつひとつを確かめるように思い出していました。
食卓にテルティーナがいることを、ポリキヤースは歓迎はしなかったけれど、ポリキヤースの母はそんなことはお構いなしで、またいつものように一人でたくさん話してはたくさん笑っていました。
テルティーナは食欲がないからと食べようとしなかったけれど、母があんまりしつこいので一口食べてみると、「美味しい!」と、目を輝かせていました。
食事の後、テルティーナは自ら進んで後片付けを手伝い、皿を洗いながら、静かに言いました。
「ポリキヤースの言葉はきっと正しいですね。
私、まだ自分を許せるのか分からないけど、これ以上お父さんやお母さんを悲しませたくないんです。
だから…。」
言葉に詰まったテルティーナの目からまた涙が溢れてこぼれ落ちそうになりました。
ふと見ると、ポリキヤースの母も泣いていました。
「テルティーナ、あなたはとっても優しい子。
あなたみたいな娘を持てて、ご両親はどんなに幸せかしら。
私はあなたが大好きよ。
またいつでも夕飯を食べにいらっしゃいね。」
テルティーナは、ぼろぼろ涙を流しながら、何度も何度も頷きました。
夕飯の片付けが済むと、ポリキヤースの母は、テルティーナを送って行きました。
ポリキヤースは暗くなった庭を眺めながらぼんやりと暗闇について考えていました。
暗闇はいつも人間のそばにいる。
暗闇は人間の弱い心をつけ狙っている。
誰かを傷付けたとき、誰かを恨んだとき、暗闇はすぐに心に取り憑く。
心に取り憑かれた暗闇を追い払えずにいれば、それはじきに周囲にいる者にまで伝染してしまうのです。
しかし、人間が愛を思い出せば暗闇はすぐに逃げ出してしまいます。
暗闇はその名の通り暗い闇の中でしか存在できない、弱い弱い存在です。
魂は元々愛の塊なんだ。
愛を思い出すなんて容易いこと、なぜ暗闇なんかに取り憑かれるのだろう。
ポリキヤースは天にいる頃とても不思議に思っていました。
だけど、人間はそんな簡単なことすらできなくなってしまうほど、打ちのめされ絶望することがあることを知りました。
ポリキヤースの思いはテルティーナにみんな伝えました。
テルティーナがこのまま闇に呑まれるか、闇を追い出すのか、それは彼女自身が決めることです。
魂は自由の存在なのだから。
闇を求めるのも、光を求めるのも、神はそれすら制限をかけませんでした。
もちろん、神は全ての魂の幸せを祈り見守っているのだけれど・・・。
テルティーナの涙を思い出すと、ポリキヤースはなんだか腹立たしいような、悲しいような、色んな気持ちがごちゃ混ぜになって襲ってきて胸が苦しくなりました。
ポリキヤースは大声で「わ、わわーーーー!!!」っと真っ暗な庭に向かって叫びました。
たちまちいくつかの暗闇が逃げ出した気がしたのです。
ポリキヤースは世の中の暗闇達が全部逃げ出してしまうように、いつまでもいつまでも叫び続けました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます