邪悪な心
何度か季節を通り過ぎ、ポリキヤースの背はもう少しで母を追い抜きそうになりました。
相変わらずヤクターとポリキヤースはいつも一緒にいました。
毎日2人が一緒に居ることは、毎日朝陽が登るのと同じくらい自然なことになっていたのです。
元々なぜかヤクターはポリキヤースが言葉を声にしなくとも、なんとなくポリキヤースの気持ちが分かっているように思えることがありました。
それが不思議だったので、あるときポリキヤースは聞いてみました。
「き、きみはなぜ、僕の、気持ちが、分かるんだい?」
するとヤクターは少し考えてから言いました。
「分からない。だけど、分かるんだ。」
その答えにポリキヤースは全く納得できなかったけれど、とても繊細な絵が描けるヤクターには、きっと並外れた感受性があるのでしょう。
「と、いうことは、他の、人の、考えも、分かるのかい?」
ポリキヤースが聞くと、ヤクターは少し悲しそうな顔をして、小さく頷きました。
「そ、それは、すごい!
君の、素晴らしい、特技は、絵と、力、だけじゃなかった!」
すごいすごいと喜ぶポリキヤースとは反対に、ヤクターの表情はどんどん曇っていきました。
「ど、どうしたんだい?」
ポリキヤースは心配になってヤクターに尋ねました。
「全部がわかるわけじゃないんだ。
だけど、なんとなく分かってしまう。
嫌なことを考えてる奴は特にね。
そんな奴はいつも蹴飛ばしてやったけど、どうにも心が疲れるんだ。」
だからヤクターはポリキヤースの他に友達を作ろうとはしなかったのでしょうか。
人は誰だって邪悪な心を持っています。それは子供であっても。
嫉妬や偏見、差別、人より優位に立ったと思って喜び、人を見下し笑う、中には自分で自分自身を傷付けているものまでいるのです。
ヤクターはそんな人々の気持ちに大変敏感でした。
天から生まれたポリキヤースの中にはそんな感情はひとつもありません。
ポリキヤースはいつだって自分の体で精一杯で、他の人間のことなんか気にしていられなかったからです。
それになによりポリキヤースは誰よりもポリキヤースのことが大好きで、絶対的に自分自身の全てを信頼していました。
ポリキヤースは自分自身の素晴らしさを知っていたのです。
自分を好きな人は他人を好きになることができます。
自分を信じられる人は他人を信じられるのです。
そして、自分自身の素晴らしさを知っている人は他人の素晴らしさも知っているのです。
ポリキヤースはヤクターが大好きだったし、ヤクターを信頼していました。
ヤクターの素晴らしさを知っていましたし、それをいつも褒めたたえてくれました。
そんなポリキヤースの側にいると、ポリキヤースのことはもちろん、自分自身のことまで好きになれるのです。
ヤクターが全て説明しなくとも、ポリキヤースもなんとなく理解したようでした。
「き、君にも、たくさんの、苦悩が、あったんだね。
同情するよ。」
ポリキヤースが突然神妙な顔をして黙り込んだので、ヤクターはなんだか面白くなって「ははは」と笑いました。
「な、なぜ?笑う?」
「わからない!真面目な顔をしたポリキヤースはなんだか面白いのさ!」
笑っているヤクターを見ていると、なんだか自分まで面白くなって、ついに2人は大声で笑い転げていました。
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