友達

母との生活が恋しくて怖々行っていた学校にもようやく少し慣れてきました。


人間には慣れるという感覚があるので助かります。


ぎゃあぎゃあと叫ぶ煩い子供を見ていると、癇癪ばかり起こす自分はなんと母に苦労をかけてきたことかと反省しました。


いつまで経ってもスラスラと話せない、歩くのも苦手なポリキヤースはよく子供達にからかわれていました。


すると体の大きなヤクターがポリキヤースの護衛を自ら引き受けてくれたのです。


誰かがポリキヤースをからかうと、ヤクターがすぐに相手をねじ伏せました。


ヤクターはそんな自分を誇らしく思ったし、ポリキヤースはしつこい嫌がらせから解放されてホッとしていました。




ポリキヤースは休み時間はほとんど学校の中庭で過ごしていました。

そこには僅かですが草花があったし、たまに小鳥が遊びに来るのです。


いつの間にか、ポリキヤースの隣にはヤクターが居ました。


無口なヤクターはベラベラと喋ることも騒ぐこともなかったので、一緒にいても苦痛がありませんでした。


小鳥とテレパシーで会話するポリキヤースの姿は奇妙だったけれど、ヤクターは驚くことも気味悪がることもせずただ静かに隣に座っていました。


たまにポケットから取り出したメモ帳に何かをかいていましたが、ポリキヤースはそれを覗き見することもなく、やっぱり静かに座っていました。



気付くと2人は学校ではいつも一緒に居るようになりました。



ある日の休み時間、教室から出てきたヤクターに教師が近寄ってきました。


お節介な教師はヤクターに言うのです。


「ヤクター、もっと色んな子と仲良くしなさいな。

あなたならたくさんの友達ができるはずよ。

もっと他の子にも喋りかけてごらんなさい。

ポリキヤースとばかり一緒にいなくたっていいのよ?」


ヤクターがポリキヤースとしか一緒にいないことを教師はヤクターの同情心や哀れみ、又は守ってやらなければならないという責任感だと決め付けているようでした。


ヤクターは聞こえているのに返事をしませんでした。

ヤクターは静かに怒っていたのです。


返事をしないヤクターに教師が呆れてその場を離れた後、ポリキヤースがようやく教室から出てきたとき、ヤクターは独り言のようにポツリと言いました。


「おれは、ポリキヤースと一緒にいるのが好きなんだ。」


ポリキヤースはびっくりしてヤクターを見ました。


自分だってそうなんです。

初めは護衛してもらうために一緒に居たけれど、いつのまにかヤクターの隣にただ居ることが好きになっていたのです。


ポリキヤースは大きく息を吸い込んで、ゆっくり慎重に声を出しました。


「ぼ、ぼくも!」


今度はヤクターがびっくりしていました。



そして、2人で顔を見合わせて笑いました。


初めての友達でした。

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