人間になったポリキヤース
人間として暮らすということは、なんとも不自由の連続でした。
最初はお乳に感動したけれど、当たり前になると今度はわざわざ飲むことが面倒になりました。
離乳食と呼ばれる、ぐちゃぐちゃの食べ物もなんだか気持ちが悪くて、母がいくらスプーンで口をノックしても、ポリキヤースはプイッとそっぽを向きました。
それでも母がスプーンを持ってくると、今度は爆発するように泣いて暴れました。
ポリキヤースは自分が心地良くないことを強制されることに我慢ができなかったのです。
そのためポリキヤースはずいぶんと痩せっぽっちでした。
天に居た頃の感覚がなかなか抜けないポリキヤースは体の感覚を掴むのにも苦労していました。
同じ頃に生まれた子供と比べ、ハイハイも、座るのも、歩くのも大変に遅かったのです。
天では全ての存在とテレパシーで分かり合えたので、声を出すことにも苦労していました。
声を出し、言葉にしなければ相手に伝わらないことがもどかしくて、ポリキヤースはいつも癇癪をおこしては暴れていました。
周りの人間達は、ポリキヤースを見るなり母に言いました。
「この子、普通じゃないですよ。」
「みんなと比べてだいぶ遅れています。」
「ちゃんと話しかけていますか?」
「ちゃんと外に連れ出していますか?」
「こんなに泣いて暴れるのはおかしいです。」
「痩せすぎです。」
「ちゃんとミルクをあげていますか?」
「離乳食はきちんとあげてますか?」
そんな人間達の言葉の数々を聞いていると、ポリキヤースは決まってなんだか申し訳ないような、悲しいような気持ちになりました。
だけど母を見上げると、母はいつだって笑っているのです。
「この子はまだ慣れていないだけなんです。
きっとじきに慣れますから。
ご心配頂きありがとう。」
そんな母の返答に、人間達は決まって困惑するのですが、母はちっとも気にしていませんでした。
そして、ポリキヤースに語りかけるのです。
「焦らなくたっていいのよ。
あなたは天から頂いた私の宝。
生まれてくれてありがとう。」
するとポリキヤースは心がほわんと温かくなって嬉しくなって、母にしがみつくのです。
母へ思いを伝える術がなくて、しがみつくことしかできなかったからです。
しかし、母にはポリキヤースの思いは伝わっているようで、そんなとき必ず母はポリキヤースをぎゅっと抱き締め返してくれるのです。
ポリキヤースは母の温もりを通じてこの世に生まれた喜びをようやく実感することができていました。
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