穴の中へ
ぽっかりと空いた穴の中を覗き込んだとき突然胸の奥底から声が聞こえてきたのです。
-苦悩を知りたいか-
ポリキヤースは初めて、ほんの少し考えました。
そして元気いっぱいに
-はい!-
と、返事をしたのです。
その瞬間、ポリキヤースは穴の中に吸い込まれました。
驚いて叫びそうになったけど、穴の中はとっても気持ちのいい滑り台でした。
ものすごいスピードで滑り落ちているのに、ふわふわの雲のようなクッションが体全体をすっぽり包み込んでくれているので、ちっとも怖くありませんでした。
あんまり気持ちがよくてポリキヤースは目を閉じて眠ってしまいました。
目が覚めると、ポリキヤースの体を包んでいたふわふわの雲は大きな部屋になっていました。
なぜか体がとっても重いのです。
なんとか動き出したポリキヤースに向かって真っ白な髭のあるおじいさんがおいでおいでと手招きしていました。
重たい体を引きずって、ようやくおじいさんのもとに行ってみると、何人もの人間の赤ちゃんが一生懸命に床を覗いていました。
ポリキヤースも一緒になって覗いてみると、雲の床は透明でその下にたくさんの人間たちが見えました。
-ポリキヤースや、また来たのかい-
おじいさんに名前を呼ばれてびっくりしました。
もっとびっくりしたのは、ポリキヤースの体も人間の赤ちゃんになっていたのです。
体が重たいのはそのせいでした。
-なぜ・・・??-
驚いて声も出ないポリキヤースにおじいさんは優しく微笑みました。
-ポリキヤースはまた苦悩を選んだのかい?
天へ行ってまだそんなに経っていないだろうに-
おじいさんに言われてハッとしました。
はっきりと思い出したのです。
ポリキヤースは何度も何度も人間でした。
あるときは大金持ち。
あるときは貧乏人。
あるときは平凡な男。
あるときはスター女優。
お腹の中で命が尽きたこともあったし、100歳を過ぎるまで生きていたこともありました。
それぞれの人生にはたくさんの苦悩がありました。
ポリキヤースは震えながら言いました。
-神様!なぜ!私は苦悩に惹かれてしまうのですか?
ようやく天国へ行けたのに。
人間だったころ、あんなに憧れていた天国だったのに・・・!-
神様は言いました。
-天国にはいろんな選択肢があったはずだ。
天にずっと居てもよかろう。
天使として生き物の手助けをしに行ってもよかろう。
人間とは別の生き物へ生まれ変わってもよかろう。
そして人間に生まれ変わってもいいのだ。
ポリキヤース、お前が苦悩を、人間を選んだのだ。-
神様の言葉を聞いてポリキヤースは真っ赤になって怒りました。
-そんな!
そんな選択肢、誰も教えてくれませんでした!
私は天国へ帰ります!!!-
ポリキヤースが癇癪をおこすと、神様は笑いました。
-愛しいポリキヤース。
天国ではなにもかも自由だったはず。
お前は苦悩を自分で選んだのだ。
天へ戻っても、きっとまたすぐにここへ来るだろう。
お前の素晴らしさは好奇心だ。-
神の言葉はまるでさっきのふわふわの雲みたいにポリキヤースを包み込みました。
神の言葉は森の空
ポリキヤースの体からは怒りも不安も消えてしまいました。
-神様、それじゃあ次の母親は神様が選んでください。
もう何度も母を選びました。
次はどんな母でもいいんです。
寿命だって神様が決めてください。-
ポリキヤースはもうすでにわくわくしていました。
-よかろう。
それなら、お前と同じ好奇心旺盛で天から生まれた者の子供になりなさい。
ともに経験できるだろう。-
神様が言い終わる前に、ポリキヤースはその母を見つけていました。
-いた!-
ポリキヤースが母を決めると、雲の床に穴が現れました。
ちょうどポリキヤース一人入れる大きさの穴です。
ポリキヤースはためらうことなく飛び込みました。
-ありがとう神様!
また会いましょう!!!-
ポリキヤースは次はどんな苦悩があるのか楽しみでわくわくがとまりません。
すっかりあわてて、飛び込んだのでいくつか忘れ物をしていることにも全く気が付きませんでした。
神様は笑いました。
-あわてんぼうのポリキヤース。
愛しい愛しい私の一部。-
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