ポリキヤース
Dowzy.B.V.Mari
ポリキヤースの森
彼らに仕事はありません。
好きな時間に起きて好きな時間に眠ります。
誰もがみんな自分に夢中なのです。
ある者は一日中眠っています。
ある者は一日中歌って踊っています。
そしてある者は好きなことを好きなだけ学んでいるのです。
誰にも文句を言われないし、誰も文句を言いません。
愛の光に満ちた幸せを、怖がる者も、疑う者もいませんでした。
薄紫色の小さな小さな光の粒がありました。
それがポリキヤースです。
ポリキヤースはふと考えました。
この森の先には何があるんだろう。
ポリキヤースの森には全てがあると思っていました。
樹齢を数えることを誰もが諦めてしまうほどに巨大で力強い樹には、たくさんの美しい鳥たちが暮らしていました。
鳥たちのさえずりは、子守歌にも、歌や踊りの演奏にもなりました。
草原は彼方まで広がり、色とりどりの花たちが思い思いに咲いています。
その蜜を求めてやってきた虫や動物たちは、まるで花たちのアクセサリーのようでした。
湖は透き通り、様々な水草たちがたくさんの気泡を身に着け揺らいでいます。
その間を泳ぐ魚たちの動きはまるでダンスのようで、いつまで見ていても飽きません。
空にあるのは美しい優しい愛です。
あるときは桜の花びらのような控えめな桃色。
あるときは芽吹いたばかりの双葉の緑。
南国のフルーツのように鮮やかなオレンジや、雪のように真っ白でもありました。
不思議な空を見上げれば、幸せたちがあとからあとからやってきました。
美しいこの森の素晴らしさは知っていたけれど、どうしても森の先を見てみたくなったのです。
ポリキヤースは小鳥たちに聞いてみました。
この森の先にはなにがあるんだろう?
この森の先に行ってみたい。
すると小鳥たちは答えました。
この森の先には苦悩があるのよ。
苦悩を知りたければ行ってごらん。
苦悩と聞いてポリキヤースの胸は高鳴りました。
まさか!苦悩なんて、本当にあるのかしら?
苦悩とはなんだろう。
言葉は知っています。
でも、経験したことがないのです。
森では毎日が美しくって幸せだったのですから。
ポリキヤースは考える前に出発していました。
苦悩を知りたくて走りました。
美しい樹々や草花を通り越し、広大な湖を追い越したとき動物たちが言いました。
ポリキヤース!ポリキヤース!
気を付けて!そっちには苦悩があるのよ!
動物たちはとっても慌てていましたが、ポリキヤースは構わず走り続けました。
森を抜けた先にあったのは、たったひとつの穴でした。
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