第4話 7歳 10月29日の昼 新しく開拓する土地
人口六百人くらい、百家族くらいのなんの変哲もない普通の村。だからオーク村じゃねえって、ここはセージ村だ。そして村の中心から北西に歩いて一時間くらいのところにそれはあった。
「この杭が目印だな」
「そ、そうか」
サヒットがちょっと驚いてる。おい、俺がいなかったらそこを通りすぎてただろ。
「まあ、かなり離れてるよな、やっぱこれじゃ村の中に家を作るってのはないな」
「え、ノックスお前はこんなところに住むつもりなのか」
「というかお前、村からここまで毎日通って畑仕事するつもりか」
「いや、だって俺は当分は木工品や家具を作ることで食べてくつもりだからこの土地で木が取れればそれでいいぞ」
「途中で何軒か家を見ただろ、歩いて三十分くらいならわかるがそれを超えると通いってのはキツイぞ」
「まあ、お前は農家だしな」とちょっとサヒットが考えてから「でも俺もこの距離を木材を運ぶのか? 工房はこっちのほうがいいのか? でも完成品は村で受け渡すし」
なんかぶつぶつ言ってるが、放っておこう。俺は俺でこの土地でなにができるか見ないと。えーと、よし、あの丘に登ってみるか。
ああ、これはなかなかいいんじゃないか。海が見えるし。親父が言ってたあの浜辺まで俺の土地になるのか。
え、この広さはどのくらいかってか? うーん、目測と親父から聞いた話だから正確じゃないかもしれんが、「僕」の世界のメートル法は、こっちと似てるからわかりやすいぞ。だいたい一歩が一メートルで千歩が一里、つまり一キロだろ。そんで俺の家みたいな農家はだいたい五百歩×五百歩の二十五角くらいの土地がある。角ってのはこっちの広さの単位だな。坪? わからん、聞いたことない。て言うか、お前もよくわかってないじゃんか。
まあとにかく、その土地に家がある場合もあれば、村の中心に家がある場合もある。田んぼは水に沿ってせいぜい二百歩×百歩の二角くらいで残りの土地で野菜や果物を作って、そのほかに林とかがある。二角あれば十五人が一年食える分くらいのコメが取れるぞ。野菜とか果物は土地を休ませないといけないし、麻や綿がないと服も作れないし、薪がないと飯が炊けないから土地の広さは必要だよ。あとほとんどの人は鶏と犬を飼ってる、馬もそうだな。なにしろ馬がなければ荷馬車でものを運べないし、田んぼの作業がキツクなるからな。あとたまに牛をたくさん飼ってる人もいるな。
広すぎって、しつこいな。わかってないな、税でコメの半分は取られるんだよ。そんでそれ以上水田が大きくなると一家の負担が大きくなる。まあ、この辺りは王国のコメどころだから、叔父さんの所は必要な時に人を雇ってもっと広い田んぼでたくさんコメ作ってるぞ。親父は野菜とか果物の税がほとんど無いからそっちを現金収入にしてんだ。
で、話をもどすぞ。俺やサヒットがもらう土地も村の普通に準拠してるけど、村から離れてるし、親父も村長も海の近くだから広くてもいいって言ってたから、この区画はだいたい五百歩×千歩って聞いた。まあ端っこの二百歩くらいは遠浅の浜辺だし、もう片端は丘だらけだから農地としては五百×六百とかそんなんだと思うがね。
「おーい、こっち来て海を見てみろ」
「あー、わかった」
え、なんでそんなに土地があるのか? なんでそんなに土地に執着してんだ。これがこっちでは普通だ。お前は「大学生」だったよな。なに学んでたんだよ。歴史ぃ、西洋史ぃ? そんなもん役に立つのか。というかお前んところそんなに人がいたのか! おかしいだろ、どうやって食ってるんだ。
「おー、これはいい眺めだな」
サヒットが海を見ている。
「ああ、眺めはいいよな。ただ、水がないのがちょっと気になるけどな」
「あー、そっかコメは難しいか」
「丘のこっち側」
と俺が村の方を指さして、
「なら小さな川とかあるんだけど、海側はここからではとりあえず使えそうなのは見当たらない」
「なんでだ、普通川って海に流れるだろう」
「さあ、そこまでは俺も知らんよ、でも丘を越える川はありえないよな」
「ここを超えてまで村が広がらないわけか」
「でも竹林とか木が結構あるから水が無いわけじゃない。ただ簡単に水田ができないってことだな」
え、水田にこだわる必要はない? なに言ってんだお前。コメは重要だぞ。ああ、こっちで違うものを作ってそれとコメを交換するのか。なんとなくお前の考えがわかった。やれそうだよな。
「まあ俺にとっては木材が手に入ればそれでいいし、少々離れてるがここで問題ないぞ」
「ああ、俺もなんかここでも大丈夫な気がしてきた。もう少しこの辺を見てから帰ろうぜ」
そしてひとしきり見て回ったあと、また一時間かけて俺たち二人はお昼前に村に帰ってきた。
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