第3話 7歳 10月29日の朝 双子の太陽

 うるさいな、太陽が双子なのは常識だろう。それにここは猪人の村で猪人の国なんだから、みんな猪人なんだよ。いったい何がそんな不満なんだ、頭が痛くなるから静かにしてくれ。

「よう、元気そうじゃねえな」

 サヒットは自分の家の前庭で薪を割っていた。

「ああ、昨夜はすまなかった、ありがとな」

「いいってことよ」 

 パッカーン。いい音出してる。

「それよりも家で寝てたらどうだ。着替えるのも忘れるくらいならよ。それにまだちっと酒臭いぞ」

「あ」

 しまった、色々ありすぎて忘れていた。どうしようボウアに会うのやめとこうかな。ちょっと黙って考えてると。

「妹ならジル婆のとこで機織ってるぞ」

 パッカーン。おっと危ない、俺がやっても薪はこんなに飛ばないぞ。

「そ、そうなのか、まあ忙しくなったとか言ってたよな」

 良かったのかな?

「なら俺と一緒に村のはずれの土地に行かないか?」

「お、アヴィンじゃなくてお前があの土地もらうのか?」

 パッカーン

「一応そうするつもりだ、どうせ新婚になるんだし」

 ウチの親と仲が良いとはいえ義理の親とずっと一緒はボウアも嫌だろう。

「まあ、じゃあ、おれもその近くの土地もらおうかな」

 パッカーン

「え、お前は家に残るんだと思ってたけど」

「へ、一緒に行こうと誘ったのはお前だろうが」

 パッカーン

「いや、それは今から見に行こうって意味で」

「姉貴がプリオンサポトから出戻ってきた」

 プリオンサで王子、ポトで港、だよ。だからまあ、王子港だな。そこの金持ちに嫁いだこいつの姉さんが帰って来たのか。確か玉の輿だーって言って喜んでたのに。サヒット、斧を置いたな。やっぱりなんかあったのかな。アイツでかいから怒ってるときに刃物を振り回されてもやだしな。

「えー、あの結婚式では仲良さそうだったのに」

「俺はそのことについては聞いてないし、あんまり知りたくもない。まあ甥っ子たちはかわいいがな」

「まー、そうなったら家を出るしかないか」

「村長が村を広げる許可を出してくれて良かったよ」

「親父たちも俺らもこの辺の害獣退治にさんざん協力したからなあ、このくらいはいいじゃん」

 そうだよ。この村の、そして猪人族の土地を広げるのはいいことなんだよ。

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