武蔵野奇譚

ぜろ

武蔵野奇譚

 武蔵野市には十年住んでいた。私が住んだ場所としては二番目に長い。それまでは一番だったのだが、離婚して東京を離れた私にはそれでも懐かしい場所だ。三鷹駅北口を出るとあった謎の三人のおじさんが経営するレストラン、『ブルボン』はその一等と言えよう。

 『ブルボン』はランチタイムが魅力的な店だった。私はたまにこっそりとピラフとメロンソーダを楽しみに行ったものだった。バーテンのようなきちりとした服のおじさんに、サモハンのような身軽なおじさん、そしてコック姿のおじさん三人が大体店を回していたと思う。年齢は近そうだっだが三者三様にばらばらなその様子はいつも私に謎を抱かせたものだった。何故。今思えば人懐こそうな人達ばかりだったので聞いてみれば良かったと思うのだが、時すでに遅し後悔役立たずだ。私は今もその謎に縛られている。

 だが味は洋食屋さんとして美味しかったし、手際も良かった。ドリンクを飲みながら眺めると、コックさんが作り、サモハンが盛り付けし、バーテンさんが運んでくる――ような形式だったと思う。最後に行ったのが三年前なのですでにうろ覚えだが、サモハンも作る方に回っていたことが多かったかもしれない。バーテンさんは運ぶのに徹していたイメージだ。本当に謎の店だった。六時には閉まるのに駅近徒歩五分という立地を維持していたのも謎だったし、三人の共通項も結局は探し出せなかった。こんな事ならもっと通い詰めて常連になり、突っ込んだところまで聞いておけばよかった。あの頃の私は夫のモラハラで家に軟禁状態だったので、銀行振り込みぐらいにしか外に出られなかったのだ。そして月一のそれが、唯一の『ブルボン』との接点だったと言って良い。それも毎月行けるわけではなく、二・三か月に一度と言う頻度だった。それでも人が並んでいることはなく、店内はいつも適度にサラリーマンたちが詰めていた。何もかもが適度だった。ワンコインのランチも、三人で回せる程度の客席も、その場所も。


 誰かあの店の真理、知りませんか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

武蔵野奇譚 ぜろ @illness24

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ