そこは地球ではなかった。

「ねぇ、ここ、どこなの…?」

アマテラスがよろめく。慌ててオモイカネが支えるが、彼も倒れそうなほどの頭痛に侵されていた。

高天原から見下ろした景色よりもずっと苦しいものだった。春なのに花が咲いていない。鳥のさえずりが聞こえない。風も吹かない。


地球は黙っていた。




敦ヶ山に到着してからも、アマテラスはあまりの息苦しさにしばらく寝込む他なかった。身体が動かない。意識が朦朧とする中、父イザナギの声が響いた。


「いいかい、アマテラス。君は高天原を治めなさい。だけどね、高天原だけを見ていちゃいけないよ。…僕の一番の宝物ってなんだと思う?…それはね、この国だ。僕とイザナミが作ったこの国が、この世界が、僕の一番の宝物だ。アマテラス、君にはどうか、僕の宝物を守って欲しいんだ。緑あふれる豊かなこの国を。お願いしてもいいかな?……うん、ありがとう。いい子だ、いい子………」


父と交わした唯一の約束を、守ることができなかった。後悔と自責に押しつぶされそうになりながら、一晩中、ずっと、泣き伏していた。



オモイカネは頭痛を堪えつつイタケル達から話を聞き、あまりの無残さに言葉を失った。神の存在を信じるものなどもういないという。イタケルらの話が一通り終わった後、彼はいくばくかの間を開けてこう放った。


「私にお任せください」


その晩オモイカネは、ぶつぶつ何かを唱えながら必死に策を論じていた。眠気など襲うはずもなかった。






壁一枚隔てて、アマテラスのしゃくりあげる声が聞こえる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る