第4話 前兆

本山先輩との付き合い方はそれからも不変だった。

特にこれといった用事も無いのに、俺が会いたいがために無理矢理口実を作り、バイト外で度々会う。そんなことを繰り返すのが俺らの付き合い方だった。


不満が無いわけでは無いが、ただ、女性は男性と違い加点方式で好きになっていくと風の噂で知っていたので、俺はそれに賭ける勢いでただ会う頻度・時間を増やすことにした。

そうすれば、いつかは本山先輩が好きになってくれると信じて・・・



半年が経った。


普通のカップルならキスをしていてもおかしくないし、それ以上のことをやっていても何ら不思議では無い。だが、俺はまだ本山先輩と手すら繋げていない。

「手を繋ごう」の一言が言い出せないわけでは無い。もう何回も言っている。しかし、遠巻きにそれを拒否するのだ。


道行くカップルを見かけるとふと思う。俺たちは本当に付き合っているのかと、彼氏彼女の関係なのかと、そのとき俺の脳内にある言葉がよぎった。


『別れたら?』


俺はそれを否定した。すぐに否定した。確かに今の付き合い方は楽しみよりも辛いと感じることが多い。ただそれでも本山先輩が他の男と歩いている姿を見たくない!それにまだ付き合って半年だ!もう半年経てば!大丈夫、大丈夫。


それからは地獄だった。


道を歩くカップルを見かける度に『別れたら?』と脳内でささやく。

携帯を見て丸2日ほど返信も無い状況を感じ、別れようか。と自問自答する。

しかし、すぐにそれを否定する。自分に対して言い訳をする。

全然眠くならない。LINEの返信が無い。何か悪いことをしたのだろうか。

本山先輩に好きになってもらうにはどうしたら良いのだろうか。

LINEの文面が悪かったのだろうか。でも催促するのは良くないよな。

今日も寝れない。まだ返信が来ない。何をしているのかな。寂しいな。

明日はバイトのシフトが被ってる。やっと会える。確かに会える。明日になれば。

けど、なんだろう。


「会いたくないな・・・」


俺はそう呟き、無理矢理眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る