第6話 事件発生

「こちら横田CCTだ。シャインリーダー、緊急事態が発生した為、模擬空戦の許可を現時点で取り消す」


高井一尉シャインが応える。

「こちらシャインリーダー了解です。ACM訓練を中止します。緊急事態とは何ですか?」


管制センターの声は緊迫している。

「約20分前に、北緯36.66度、東経132.23度の日本海上で作戦行動中だったアメリカ海軍のイージス艦ステザムの艦内でテロが発生し、乗員32名が死亡。艦橋とCICが爆破され航行不能になっている」


「なんですって?」


私は高井一尉シャインの驚いた声を聴きながら、HMDSの表示を切り替

え、イージス艦の位置を地図上に表示した。

場所は隠岐、島後島どうごじまの北西約100キロ、この訓練空域から西へ300キロ離れている。


「問題はそれだけでないんだ。CICが破壊される直前、ステザムに搭載された巡行ミサイル・トマホーク二機が発射されて日本に向かっている」


「えっ?」私はそれを聴いて息を呑んだ。


「トマホークは高度100フィートを速度マッハ0.75で飛行している筈だが、高度が低すぎて地上のレーダーには捉えられていない。しかしステザムのCICの生存者の情報で、トマホークの攻撃目標は福井県高浜原発の可能性が高い」


「えっ? でも原発は最新の安全基準で飛行機の墜落にも耐えられますよね? トマホークの爆撃でも大丈夫なのでは?」

高井一尉シャインが祈るように問いかける。


「残念ながら、二機のトマホークは熱核弾頭B83を搭載している。爆発の威力は200キロトン、広島原爆の十倍だ」


私は呆然としていた。

(そんなものが原子力発電所に……。一体どんな被害に……?)


「予想ではあと10分で着弾する見込みだ。今トマホークは丁度、君達の居る訓練空域の下を飛んでいる筈だ」


私は直ぐにレーダーをルックダウンモードに変えて海面をスキャンした。すると……。

「2機のレーダーエコーが見える」私は呟きながら、レーダーを自動追尾モードに入れた。


「今、小松から武装したFをスクランブル発進させた。しかし間に合わない見込みだ。よって君達にトマホークの発見と撃墜の任務をお願いしたい」


「こちらシャインリーダー。了解しました。命令を実行します」


その通信が終わるのを待って私は高井一尉シャインに声を掛けた。

「シャイン。私の機体のレーダーでトマホークを捕捉しています」


「ああ、俺も捉えた。丁度、真下だ。行くぞ!」


「はい。でも訓練飛行の私達は武装が有りませんが……。どうやって撃墜を……?」

私は漠然とした不安を高井一尉シャインに投げかけた。


「それは後で考えよう。まずはトマホークを視認するぞ」


「はい」


その瞬間、高井一尉シャインの機体は180度のエルロンロールを行い、そのまま垂直降下ダイブに入った。

私も彼の機体に続き、垂直降下ダイブに入る。速度は超音速を超え、高度計の数値が物凄い勢いで下がっていく。

マッハ1.2、高度3000フィートで引き起こしを始め、海面上高度200フィート、マッハ0.95で水平飛行に入った。


前方2キロに二つの物体が波しぶきを上げて超低空を飛んでいるのが分る。30秒弱で、その物体に追いついた。


全長5.6メートル、直径52センチの円筒の本体に特徴的な短い直線翼が取り付けられた独特の機体形状。小型のターボファンエンジンを推力として自立飛行する『巡行ミサイル・トマホーク』だ。

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