第5話 ACM開始

「それじゃ行くぞ。ファイト・オン!」


その掛け声に合わせて、高井一尉シャインの機体が右ロールに入る。私も左にステックを倒し更にステックを一杯に引いた。


私のF35BJは右翼を垂直に上げ九〇度の左ロールから左急旋回に入った。そして方位180度(南)、FL300、マッハ0.9で再び水平飛行に入る。HMDSのモニターには高井一尉シャインも方位0度(北)に向かって水平飛行に入っているのが見える。


HMDSのモニターにカウントダウンが走っている。あと30秒。お互いが背を向けて30秒飛行する事で、約20キロ離れる事になる。


無線に高井一尉シャインの声が響く。

「マノン! 準備は良いか?」


「はい!」


「よし、3、2、1、ナウ!」


その合図に合わせ、私は右手のステックを手前に引きながら、左手のスラストレバーを一杯に前に押してアフターバーナー出力に入れた。

私のF35BJは速度エネルギーを位置エネルギーに変換しながら急激に上昇している。そしてループの頂点3万8千フィートで方位をほぼ反転させ、背面で下方に居る筈の高井一尉シャインの機体を探した。

HMDSの表示によると、彼のF35BJは右に水平旋回している。


「あれね!」

私は高井一尉シャインの機体をHMDSのズーム表示で確認すると、アフターバーナー出力のまま背面で彼の機体に向けて降下を開始した。


速度が超音速を超えマッハ1.5に達する。

しかし、高井一尉シャインの機体もアフターバーナーを焚いて、私のコースに正対して来た。このままでは激突してしまう。


「チキンレースって事ね……。負けませんよ!」


私はそう呟くとマッハ1.5のまま、高井一尉シャインのF35BJを目掛け私の機体を操った。

しかし彼の機体は微動だにせず私に正対したままだ……。


「あっ、ダメ」

私はそのプレッシャーに負けてしまい、ステックを右に倒すと、衝突コースから回避した。


そしてもう一度、高井一尉シャインの後方に回り込む為、右斜め上のループに入った。

8Gを超える旋回加速度に耐えながらループを終え、再び背面で高井一尉シャインの機体を探すが、想定した位置に彼は居ない。

「どこに……?」


その時だった。HMDSに真っ赤な警告が表示され、断続的な警告音が鳴り響いた。

「えっ?」


それに気付いた私は、今起こっている事が理解できなかった。高井一尉シャインの機体はいつの間にか私の機体の後方に取り付いている。


「なんで……?」

そのままHMDSに機体にバルカン砲が着弾したと表示され、続いて私の機体が撃墜されたと表示される。私達の訓練機体には実弾は搭載されていないから、あくまで撃墜認定をコンピューターが行ったということだが……。

それにしても、僅か二分で決着が付いてしまうとは……。


「マノン、一本目は俺の勝ちだ。もう一本行くぞ!」

私の無線に高井一尉シャインの声が響く。せっかくの訓練の機会を活かす事は私も賛成だ。


「了解です」

私がそう答えた所だった。


突然管制センターからの無線が飛び込んで来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る