第2話 面食いの謝罪はデレに入りますか?


おっす俺篁。今絶賛生徒会室前!


切実に帰りてぇ~~~!!!!!!

今現在そんな感じ。無理。

昨日の今日でまた書類渡すのすっっごい嫌なんだけど?

謝ろうにもどうせまた煽っちゃうだろうし、何より素直になれる気がしない。

....でも集会とか会議の資料も混ざってるし渡さなきゃいけないよなぁ....あー、嫌だ。

誰か素直になる方法とか教えてくれない?

え、無理?


知 っ て た 。



えぇい、どうにでもなれ!あと謝らせて神宮寺っ!!


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神宮寺side



ガチャ、と音の鳴った方へと視線を向ける。

そこには昨日散々といっていいほどに生徒会へのいちゃもんをつけてきた風紀委員長がいた。

俺は一旦休憩にと飲んでいた紅茶のカップを机に起き、またお前かと言わんばかりの視線を扉の方へと向ける。


「....神宮寺、資料を届けに来た。」


奴は簡潔にそれだけを告げて俺に資料を手渡す。


「珍しいな、お前が無駄話をしないなんて」


思ったことがするりと口から零れ落ちてしまった。この距離では聞かれてしまっただろうが....まぁいいか。


「........いや、...昨日は生徒会の他メンバーを引きに出して悪かったと。思ったんだ。何時ものような無駄話は兎も角、昨日のは完全にとばっちりだろう?神宮寺。だから、その、」


自分から言い出すのが嫌なのか言い淀む篁。

ふむ、反省をしたと。そう言いたいのか。

確かに他メンバーの話を出されても俺はなにもしていないが会長として責任をとらなければならない。

昨日は随分と痛いところを突いてくるとは思ったが一応その事については考えていたらしい。


「お前の辞書には反省という言葉は無いと思っていたんだが...そうでもないようだな」


「んなっ、失礼な!俺だって反省くらいすらる」


心外だ!とでも言うように表情を歪める奴は中々に面白い。それが普段、マウント中毒者の如く人を煽り続けてマウントを取ってくるような奴なら尚更。

....明日は槍が降りそうだ。


「ははっ、そうかそうか。まぁそう憤慨するな。別にそこまで気にしては居ないし、彼奴らの統率が取れていないのは事実。実際、俺が上手く出来ていればそこを突かれても大丈夫だったはず。何もお前だけが悪いとは言わん」


そう言った時の奴の顔は大層な阿呆面。

思わずからからと笑ってしまった。

何時も真面目な顔か煽ってくる顔しか見てなかったからな、新鮮だ。風紀委員長の折角の顔が台無しだぞ?


「ま、取り敢えず昨日の話はお互い水に長そう。では、そこら辺に資料は置いててくれ。このまま普通に風紀室に帰ってもいいが....何ならお茶でもしていくか?」


多分しないだろうが。


「....はっ、人にお茶をすすめられる程度の余裕はあるんだな?よし分かった、明日の書類の整理をしてくるから断らせてもらおう。明日も覚悟してろよ?生徒会長」


やはりつれない奴だな。

俺の親衛隊の奴らなら血眼になってでも俺の気紛れに食らいつくというのに。

あと反省は今日限りのようだ。勿体ない。どうせならもう暫く反省して俺に対しての態度を改めてくれればもっとよかったのに。

この返答を見る限り無理そうだな。




....捨て台詞さながらの言葉を俺に吐いて生徒会室から出ていった彼奴の耳がやけに赤かったのは見逃してやろう。



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「ああぁあ........何なんだよまじで...笑顔とか聞いてねぇよ」


生徒会室から出てすぐ、人影の無いところへ行けば壁に凭れてはしゃがみこむ。

何時も真顔の神宮寺が笑った。稀に見るような愉しそうに、ではなく面白そうに笑っていた。ただでさえ俺にとって凶器になりうるあの顔面をさらに凶器にするなんて聞いてない。駄目だ、顔が好きすぎる。

お茶なんてしようもんならぽろっと

「あんたの顔面が好きだ」

とか言いかねない。無理。


あー、もうほんと急なファンサ止めてくんねぇかな。さっきの笑顔、写真撮ってたらファンやら親衛隊の子が軽くバトルロワイヤル繰り広げそうだ。そのレベルでやばかった。

顔赤くなってないだろうか。

醜態を晒してなかったろうか。

醜態というか性格の悪さは出てしまっていた気がする。せっかく謝りに行ったのに結局煽っては意味がない。


明日が心配だ。


あ、そうだ。忘れていた。風紀室に逸人はやとを置いてきぼりにしていたんだった。

それに気付いた俺は、立ち上がるなり駆け足で風紀室まで戻る。


「逸人、ごめんお前んこと忘れてた」


扉を開けて相手の反応を見る前に頭を下げる。マジですまん。


「....怒ってないよ、晶久。その様子だと、どうせ生徒会長と話してて盛り上がったみたいだし。何ならもう暫く待たされるかと思ってたくらいだ」


察し良すぎる。


この男、篠崎しのざきは俺の幼馴染み。

見た目的には寡黙で真面目な印象を受けるが実際は世話焼きのおかんだ。俺のおかん。

察しもよければ仕事も早く、空気まで読めるハイブリット副風紀委員長。何故逸人が副会長なのか未だに分かってないくらいに優秀。


「ご名答、まあ盛り上がったって言うよりも俺の悪癖が出ただけで終わったな。代わりに珍しいものは見れたけど」


「へぇ、よかったじゃないか。何時もの二倍くらい早く資料整理するもんだから何しに行くのかと思ってたけど、珍しいものが見れたなら良かったね」


全くその通り。脳内のメモリアルに一生保存してたいくらいに珍しいものでした。

珍獣レベルよ。


「おう。....そういや今日は逸人が夕飯作ってくれるんだっけ?メニューなに、」


逸人と俺は寮の部屋が隣同士、かつ幼馴染みなのもあってたまに夕飯を作ったり作られたりという日がある。

逸人の作る和食って本当上手いんだよなぁ。


「メニューは夜になってからのお楽しみ。」


人差し指を口の前に持ってきて、しー、と言う動作をしては、逸人は目を細める。

えぇ、聞いても楽しみなのは変わらないんだから聞いてもいいじゃないか。


「逸人のけち、」


「けちで結構。楽しみは大きく取っておくものだよ、晶久」


そんな風になんてことない会話をしながら寮へと帰った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んで、今日は何を見れたの」


黙々と夕飯を口に運ぶ俺に対し、逸人が聞く。

ちょ、ちょい待ち。先に和風ハンバーグ食べさせて。大好物なので先に夕飯を優先したいが会話がないのもあれだ。

ごくん、と絶賛咀嚼中だった和風ハンバーグを飲み込む。


「あー、今日はなぁ........その、彼奴。彼奴の笑顔が見れたんだ。」


逸人は俺が綺麗な顔を好きなのを知っている。親衛隊の子達や他のみんなは"生徒会長と風紀委員長は犬猿の仲"という認識だが、常日頃傍にいるような幼馴染みにバレないわけがない。

なので多分、俺の機嫌がいい日は端正な顔でも見つけたんだなぁくらいに思ってるのではないかと思う。


「...それは確かに珍しい。親衛隊の子が見たら卒倒しちゃうんじゃないかな?」


俺も卒倒仕掛けたから余裕であり得る。


「だよなぁ。....さっきの俺、表情緩んでなかった?大丈夫?」


緩んだ顔を他に見られたら死活問題なんだけど緩んでた自信があるから何とも言えない。


「........」


せめて目を逸らさないで欲しかった。


「........晶久、正直に話そう。他に見た人はいなかったとは思うけど、............物凄く、にやついてた」


ひぃ。


「面食いなのは別に良いとは思うけど、少し気を付けような」


はい(遠い目)

気を付けるも何も無意識だからどうしようもないんだよな、これが。



気付けば会話の合間合間に食べていた為か、終わっていた食事。食器の後片付けを手伝い、逸人に夕飯の礼を行って部屋へと戻る。


昨日のように部屋に入るなりベッドに身を投げ出して寝るに寝れない、なんてことは無かったが、今度は羞恥心で消えたくなった。


「憂鬱だぁ....」


風紀委員長としての面と、素の俺としての面との温度差が激しすぎて軽く心の中の晶久グッピーがご臨終してしまいそうだ。

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