-1- かぞえうた
鏡はきらい。
陽の光もきらい。白い肌を焼いてしまうから。
男は触れないで。指一本でも。
女は近寄らないで。壁一枚
子供は去って。視界から外れるまで。
大人は失せて。身が全て灰になるまで。
人としての命でありたい?
ならば守って。決して破らないで。
永遠なんていらない?
ならば
それでも破って、裏切るその時。
あなたの未来、私が食べてあげる。
「つまらぬ」
「わっ! いけません! 大切な
樹木の下、
「その手の内容ならもう良い。お前にしては
「適当に二、三冊と
「それで、同じ怪物
「怪物だなんて! 確かに僕もこれはどうかと思いましたけど、楽しく終わる物ばかりだからそのままお持ちしたんですよ!」
今日一番の大声にちらと
「申し訳
謝罪の言葉とは思えぬ
そして、栗色の髪
「逃げないで下さいよ!」
「……」
地へ下りようという瞬間に声が掛かり、思わず眉根を寄せて
こちらの動きも見ずに言ったか。興味引く内容は
小さく舌を打ち、仕方無く幹枝に座り直せば、青年が向き直って説教用の顔を作り出していた。
「
「分かったから
決まって小言を述べるだけの表情に
「ルーナさまー!」
いい加減、痛み始めた腰を押さえていると、青年と入れ替わるようにして
根元へ到着すると、こちらを見上げて
「えへへへー、ごきげんうるわしゅー、ファルトゥナ=ウル=カーミラ=ダルシュアンさま」
幹枝を蹴って地へ下り立つと、私は
「こんにちは、リリス。突然
齢六つ。加えて
「リリス、ルーナさまの本当のお名前、ママに聞いたの! さあ、今日こそちゃんとした
数え歌。よくは知らぬが、自身の名に歌を乗せて遊ぶ、最近の子供等の
一度、実名で歌おうとしたら名前が違う、と怒られたからなのだが。
「しかしリリス、今度は名は長すぎて先に歌が終わってしまうぞ」
そう言えば、それで歌い切った時の事を今まで考えてはこなかった。
一周目はまだ愛称でも歌えた。二週目が上手く乗らずに終わってしまうのである。けれど、“ファルトゥナ”では一周目すら歌えない。
……。
無論、十六の身で数え歌など、本来ならば無縁の話であるのだが。
「えー、そうなの? うーん」
首を
「あ、いいこと考えた!」
けれど、何か名案でもあったらしく、すぐに太陽のような明るい表情を取り戻していた。
純真
緩んでいた口元が徐々に緊張を帯びる。心の
「ファルト=ウル=カーミラ!」
突然の叫びで、我に返る。いつの間にか食い入るように首筋を見ていたらしい。リリスとの距離は、先程よりも明らかに
「途中で切れないし、ちゃんと歌えるよ! これでリリスとゴカクのショーブ!」
……。
「ルーナさま? お名前短くしちゃだめ?」
蟲を
「充分だ。リリスはお
「よかったぁ。じゃあ歌うよー! さんっはいっ」
「姫様ー!」
「あれれっ……」
まるで見計らったかのような乱入に
「おやリリス、こんにちは。また数え歌かな?」
そして、城の召使い
「でも残念。今日の姫様はとっても御本を読まれたい気分なのだそうだよ。……そう、とってもね! 長らくお勉強の物しかお読みになられていなければ、新たなお話に触れてみたくもなるだろうさ! というわけで、邪魔をしちゃいけないよ。数え歌はまた今度」
優しい笑みを浮かべながら、けれど無理矢理リリスを立たせ、ドレスに付着した葉を払う。
「新たどころか、あの書物らは古くから城にあったと見受けるが」
「お読みにならなければ新しいままです」
アレン。……姓は与えられぬままのアレキッド。
十九らしからぬ心境ばかり目立つこの明るい青年にも、城門前に捨て置かれていたという
しかしそれは、目を輝かせて最愛とも呼ぶべき書物を抱える現在の姿を認める限り、悪くは無い人生への幕開けだったのではと思うばかりであった。
「いやー! 先に居たのリリスだもん! ルーナさまとお祝いの数え歌するの! 今日はアレン一人でお花さんとお話してて!」
手を払い除け、リリスはもう、と頬を
「何だアレン、普段からそのような事をしておるのか? 随分と
「あ、馬鹿にしてますね。
そう言い、表紙に花の絵が描き込まれた
本好きとは言え、
「リリス、本当に先に居たのは
「いーやー! アレンじゃ歌えないもん! ルーナさまがいいのー!」
確かに、先に居たのはこの男。だが、同じ城で
「良いではないか。書物など、リリスが帰った後にでも存分に読める。それに、植物に
「いいえ。しかし、これを
言いながらそっと、けれども
……土? もはや
ふと、リリスに視線を移してみると、唇を小さく
「そこへ直れ、アレキッド」
「はい?」
「
腰を上げて栗色の目を
「えええ姫様ずるい……あ、いえ
大切だと
「アレンのおろかものー」
その隣で、リリスが笑顔を取り戻していた。
「姫様の真似しないっ」
「ほう、自身の行為を
「ひぃぃ違いますってば! ああもう、……ファルトゥナ様の御客人への非礼をお
仕方無いとばかりに
「じゃあルーナさまとの数え歌、一緒に見てて!」
「ポリアンダ嬢からの罰だ。心して受けよ」
「……はい」
溜息を吐き、そのまま力無く座り込む。リリスは満面の笑みを浮かべ、改めて掛け声一つと大きな声で歌い始めた。
私も合わせて手拍子を打ち、アレンも弱々しくそれに続き、与えられた名を
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