第2話 オモテ

 女の子の腕が僕の腕に絡む。それも両方。最初は歩きにくかったがすっかり慣れてしまった。


 二人は楽しそうに僕に次の行き先を話してくる。


 今日は久しぶりに冒険はお休み。この町で二人とデートというわけだ。


「安いよ! 安いよ! 今日は大盤振る舞いよ!」

「お兄さん、お兄さん! どう? この野菜! どれも水水しいよ!」

「この魚どれもとれたてよ! 見ていって!」

「ネックレスどう? 弓使いとか短剣使いの女の子だったらすごい似合うよ!」


 大通りには露天が並び商売人たちの声が響く。活気ある町だ。あとでトイレにでも行ったフリしてこっそりネックレスでもプレゼントしてあげようかな。


 この世界に来る前、こんなことになるなんて想像できただろうか。


 前の世界にいた時、僕は久しぶりに外に出て、トラックに轢かれ死んだ。その魂を女神様が拾ってくれたおかげで僕はこの世界で生きている。


 できればまたあの優しそうな豊満な胸の女神様に会いたいな。


 あの女神様のことを考え思わず顔が緩む。


 すると強い風が吹き、両脇の美少女達が小さい悲鳴をあげ、僕の腕にひしと胸を押し当ててくる。


 いけない。二人の女性の前だというのに他の女性のことを考えてしまった。それにしてもこの両脇の胸。あの女神様にはまぁ及ばない胸だが、しかし……。


 いけない。失礼だ。クールに。緩んだ顔を元に戻す。


 僕は勇者。寡黙だが女性に優しく、そして強い。前世で読んだ漫画や小説に描かれていたそんな勇者を目指している。



 二人が次に行く場所がどちらがいいか聞いてくる。どっちもいけばいいさ。そう思っていると、先程までの快晴から打って変わって雨が降りそそぐので、急いで軒下に避難する。この世界の天候はよく変わるな。


 よく見ると雨のせいで二人の下着が透けて見えてしまっている。それに二人は気づき恥ずかしそうに俯く。


 ……いけない、クールに。


……やれやれ、せっかくのデートだったが仕方ない。服も濡れてしまった。風邪をひいてはいけないのでこの後はマンスリー宿屋でまったりだな。


 と考えていると僕の思いを察したのか短剣使いの女の子がそう提案する。


 続け様、久しぶりに僕のご飯が食べたいと、弓使いの子。


 僕のご飯とは前世での記憶を頼りに作ったもので二人はそれが大好きだ。


 僕はそれに応えるように微笑みながらうなずく。


 いつの間にか雨が止み、雲間から太陽がさし濡れた石畳の道をキラキラと照らす。


 この美しい景色は雨の不運を吹き飛ばしてくれた。


 軒下から一歩踏み出すと心地よい風が僕たちを包む。


 この世界で生きる喜びを天にいるであろうあの豊満な女神様に感謝し、僕たちはその場を後にする。


「じゃ、部屋、いこか」

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