~癒~
「うん、ちょっと…倒れちゃって……」
相手は、父親の
『だ、大丈夫なのかい?』
「さっき、ホテルの人が
時間は午後3時。
「本当は今日、荷物を置いたら少しでも街を見て回ろうと思ってたんだけど。今日は、無理かな…」
『そうだね。なに、
「それだとお金がかかっちゃう…」
『お金は気にするな。ハードスケジュールで動いて、今度は
「うん…、そう…だね。余裕をもって動く。ありがとう。お父さん」
『とにかく少しでも、どちらかの
澪はスマホを耳に当てながら、秋が倒れたホテルの入り口の方に視線をやった。あのガラスの自動ドアの一歩先は、
「あ、そうだ。
『そうか…、秋くんにとっては、電車に乗るだけでも相当な負担だったろうね…。今日はゆっくり休みなさい。あまりホテルから遠くに行くんじゃないよ? いいね?』
「大丈夫。今日は動かない」
『それじゃ、かすみさんの方には澪から連絡してくれるかい?』
「うん。これからする。じゃまたね、お父さん」
『あぁ。気をつけるんだよ』
澪は、スマホに
「あ、もしもし、
『おー!
(秋のおじいちゃん!?)
「あ、え、おじいさん、ですか!?」
『なんじゃ、わしが電話にでたらおかしいか?』
(ハムスターがどうやって受話器を持ってるの!?)
『わしにじゃって〝はんずふーりー〟のボタンくらい押せるよ?』
「あ、あぁ、そうですよね、なるほど…」
『で、秋、倒れよったな?』
「え、わかるんですか?」
『かすみが、〝火が弱くなった〟と
「さ、さすが、伝わるんですね…」
『都会の土に足をつけただけで倒れるとはのぉ…、先が思いやられるわい』
(あれ…、なんだっけ…何か伝えなきゃいけないのに…秋が倒れた事じゃなくて——あ、そうだ…)
『おーい、聞いとるか?』
「あ、すいません、かすみさんに伝えて欲しいんですけど…」
『なんじゃ?』
「今日は動き回れないので…、一日予定を延長して
『おぉぉおぉ。わかったよ、かすみにゆうておく』
「ありがとうございます。お願いします」
銀次に自分の姿が見えているわけでもないが、営業のサラリーマンみたく澪はペコペコした。
『して、
「は、はい?」
『ちょっと、試してみ?』
「え、何をですか?」
『良いか………』
銀次は、澪に〝何かの
「……? は、はい。やって…みます」
『そんじゃぁの。モジャモジャ頭のちびを頼んだよ』
よいしょ…よいしょ…、と銀次が電話の上を移動する声が聞こえた後、ブツっと回線が切れる音がして、通話は終わった。銀次が固定電話のボタンを押したらしい。ずいぶん
「秋? 入るよー?」
部屋自体はそれぞれに
「秋? 大丈夫?」
冷房が効いた
「
どうせ秋が聞いていないからと、わけのわからない事を言った自分の口がとても恥ずかしくなった。澪は、ん…、と喉を整えながら
(今だったらチューでき……)
「ばかばかばか…何、考えてるの…」
ボソボソと
「えと…、なんだっけ。おじいちゃんが言ってたやつ……」
「まず、空中に△を描く…」
指で
「次に両手を
澪は手を合わせた。
「唱える…」
『ヒノネ・キミョウ』
先ほど澪が宙に描いた△。
それが
さながら、ライブなどで使うペンライト——
それを三つ合わせて、△にしたかのよう。
「な、なにゃに、こっく、これ!」
驚き、言葉が
目の前に浮き出た△の翡翠色の光。
それを、指で触れてみる。
「わ…触れない…、
澪の指は△の光を通り抜けただけ。
しかし、光に指が触れた瞬間。
心なしか指が
そんな感覚を澪は覚えた。
「え、えと、そうだ、次」
澪は銀次の言った作法の続きを思い出し、それを
「描いた△の中心を、下から、指で、縦にまっすぐ、斬る」
澪は△の光を、真下の中心から。
まっすぐ上方向に。
右手の人差し指で斬った。
「わ!」
リン——
鈴の音のような音が聞こえた。
それは明らかに△の光が発した音。
澪に指で斬られた△はそのまま、
吸い込まれるように秋の胸に飛んだ。
秋の体の上にやんわりと乗った△の光。
それは、より
そして、秋の胸の中へと消えてゆく。
澪は人差し指を持ち上げたまま
自分が何かをした——
それ以外のことは何もわからない。
「う––––」
秋が声を発した。
「秋? 起きた!? 大丈夫!? わたし、なんかしちゃった! ごめん!」
秋は、むくっと上体を起こした。ボサボサの頭と眠そうな半目。
「
「そうなの?」
「うん…」
「あれから電車を乗り換えて、新宿駅に降りてから少し迷ったけど…、なんとかホテルに来たんだよ?」
「そう…なのか?」
「本当に、覚えてないの?」
「うん…、新幹線から…さっぱり……あ…」
秋は何かを思い出した。
「澪、
「うん、握った」
「あの時さ、
「ん? なにが?」
「澪の左手…、緑色に光った…気がする」
「え……」
澪は自分の左手を開いて、気持ち悪そうに
「その後さ、記憶、ないんだけど…」
「う、うん…」
よくよく、
そしてホテルに着いた
「わたし…って…宇宙人?」
無気力な棒読みで言った澪に対して、秋は「地球人だろ…?」と、真面目に応えた。
刀闘記
~癒~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます