東の地に呼ばれる風使いと巫女の純血
~握~
一方、秋は…
「ねぇ、
新幹線の
「
「そう、そう…だね。見つかったら撃たれるかもしれないしね…、都会のコンクリートジャングルに馴染むカモフラージュをしないとね…」
ははは…と澪は、
「アイスコーヒー…、チョコレート…お弁当…いかがでしょうか…」
タイヤからエアが抜けたような音と共に自動ドアが開き、
「秋、何か飲む?」澪が訊いた。「いや…〝いろます〟あるからいいや」そう言って、
「あのさ、俺の
「は、はい?」
「だから、財布」
「え、なぜに?」
秋は
「俺、金、使ったことないから…。おつりとか、
「そ、そう…。なら、とりあえず私がいろいろ払うから後でレシート見ながら、半分こしよ? それでいい?」
「いや…全部、俺の財布から払っていいよ。なんか
(な、なんなのこの人…! お金、使えないのに稼いでるの!? しかも全部、使っていいとか、サラッと
「いや、いやいや、だめよそれは…、ちゃんと
秋は右手でわしゃわしゃと髪の毛をかきながら、左手で澪の
「わるい…、ダメなんだ…金……
「ん、え、どして?」
「これが原因で悪魔になった奴が何人もいた。そいつらを、何人も斬ってきた…。だから、嫌いなんだ。その…お金そのものが…」
「…そっ…か。わかった、私が持ってる。でも
秋は刀をギュッとにぎってから少しうつむき、目を閉じて「うん。ありがとう」と返した。秋の
出発してからしばらく——それしかないのか、と言いたくなるほどに田んぼの景色ばかりだったが、
「終点…、東京…東京…お降りの
鼻声みたいな車内アナウンスが鳴った。
時間は、お昼過ぎの12時50分。
「降りるよ? 秋、大丈夫?」
澪の
「しゅ、秋、大丈夫だから。いくら人が多くても、みんな秋のこと見るわけじゃないから…ね?」
そう言って澪は立ち上がり、頭の上の
「秋、降りないと」
澪が
「秋?」
「…」
「ねぇ、早くしないと、清掃の人が来ちゃう」
すでに、ほとんどの乗客が降りている。
「ごめん、今、行く…立つ」
少しよろめきながら立ち上がり、通路に身を
「っ——!」
出口までたどり着いた秋の足は、電車を降りる
「秋、早く…! 降りて…っ!」
後ろから澪が
「……秋! 行くよ!」
「えっと…、中央…
少しでも
「出口が…、こうで…今ここだから…まずは向こうに行けばいい…のね。よし、行くよ、秋」
澪は頭上の
「オレンジ…、オレンジ…あった! こっち!」
中央線を示すオレンジ色の印を案内板から見つけ出し、それを
「あ、あれ!快速、
すし詰めの満員電車に秋を乗せるのはまずい…、と思った澪は、
「あ…ごめん、もう、いいよね」
澪は手を離そうとした。しかし、秋の手はカチッと固ってしまい、離れてくれない。「秋——?」澪は顔を覗き込んだ。秋は
「電車に乗れば、新宿はすぐだから。そしたら、まずホテルで荷物を預けて、一休みしよ?」
地図が映るスマホの画面を
「ここだ、ホテル…ついたぁ」
ホテルの自動ガラスドアが開いた。冷房の効いた室内から流れ出てくる、まるで天国の扉を開いたような冷たい風が、二人を
「——うわっ!」
突然、
「お客様! 大丈夫ですか!?」
フロントの
「し、しゃし、秋! ちょっと! 大丈夫!? ねぇ!?」
澪が後ろを振り返ると、そこには気を失い、ホテルの床に前のめりに倒れ込む秋がいた。この瞬間、東京に来てから初めて、澪と秋の手は離れてしまった。
刀闘記
~握~
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