~頼~【下】



「あ、えと、ひとまず、土下座どげざをやめてください…」


 秋はあわてて言った。突然、澪との東京行きを頼まれ、驚くも、なるべく冷静を保とうとした。しかし頭の中は、澪と東京…!? で、いっぱいになっている。要はゆっくり顔を持ち上げた。「すまない、ありがとう。少し昔話むかしばなしを、しなければいけないね…」要は神妙しんみょうそうな顔で「僕も、直之なおゆきさんと手を合わせて霊剥れいはぎをった人間の一人だ」と話し始めた。


「父さんと?」

「もしかしたら、しゅうくん、翡翠ひすい短刀たんとうを見たかい?」

「あ、はい。父の遺書いしょと一緒に…」

「そうか。実は、あの短刀たんとう、今はなんの力も宿やどしていない」

「え——えぇ?」

「短刀に、黄泉巫女よもつみこ霊力れいりょくを与える祈祷きとうをしなければ、霊をぐための力は日に日に失われてゆく。あれから何年もくらに眠っていただろう? だから、今は確実に霊力れいりょくれて使い物にならないはずだ。それに、銀次さんの霊剥ぎにあの短刀が使われたのなら——おそらくそれを最後に短刀は、力のほとんどを使い切っているはずだ」


 秋のかみの毛がゾワゾワと逆立さかだった。自分が何気に手にした短刀たんとうが〝ただの石だった〟とは思いもしなかった。


「『離婚りこんしてもいいなら、やるわ』そう言って、妻——優香ゆうかは、祈祷きとうをしてくれた。まさか次の日、本当に離婚届りこんとどけを持ってくるとは思わなかったよ。それほどに黄泉巫女よもつみこにとって、霊剥れいはぎと言うものは〝おこない〟とは程遠ほどといものだった」


 しゅうの心はまよった。仮に、澪の母に会えたとして、自分に〝祈祷きとうを頼む事〟ができるのか? 悪魔祓あくまばらいとして、そこまでの説得力せっとくりょくを、自分は持ち合わせているのだろうか…、と考えた。


みおをお腹に宿やど優香ゆうかが、迷わずとどけにハンを押す姿すがたは、見るにえない光景こうけいだった。その時、僕は、霊剥れいはぎの魅力に取りかれている自分自身にやっと気づいた…。秋くんはどうか、そうはならないでくれよ…」


 霊剥ぎの魅力に取り憑かれた人間——この言葉に秋は、少し図星ずぼしかれた気がした。要は足元のバスタオルを綺麗きれいたたみ、もう一度、横に置いてから話を続ける。


「もし…、仮に澪が、黄泉巫女よもつみこの力をあつかえるようになれば、短刀に霊力れいりょく宿やどす事ができるだろう。今、秋くんに一番近いちばんちかい巫女は、間違いなくあの子しかいない」


 霊剥れいはぎと巫女みこ。切っても切れない関係。どの道はっきりしていることは、澪の母に澪と一緒に会わないとなにも進まない——という事実。「巫女の伝承でんしょうを優香からよくよく聞かされた。なぜ、霊剥れいはぎを封じなければいけなかったか、それがよくわかる〝うた〟がある…」要は、思い出すようにして、古いうたんだ。



  リュウりとて 水濁みずにご

     

  してもどさば 人食ヒトグイいの

        

  うつろ御身おんみに 面影おもかげ


  かくもヒトとは べぬ魂欠タマガケ


  ミドリはりや 仕舞しまえ かくせや くらはら  



白魔はくまがいた頃の話だ。十二支じゅうにしたつ——つまり、りゅう白魔はくま

「龍?」

みおの話だと、へび白魔はくまはもう現代げんだいにいるんだったね」

「あ、はい…、西威せいが」

三代みしろさんの長男かい!?」


 要がおどろいた。そうだ、澪は大蛇だいじゃしか見ていないんだった、だから西威のことはまだ要さんに伝わっていなかった…、秋はそう思った。


「あ、はい…、それで今、討魔分隊とうまぶんたいがこの町に駐留ちゅうりゅうしていて、俺や東子とうこは今は闘わなくて良くて…」


「それで君の刀が大人しかったんだね。それにしても、西威君せいくんか…。三代みしろさんも、災難さいなんが続くな…」少し考え込んでから要は「あぁ…たつの話だったね。さっきんだうたの意味を、簡単に説明するよ、いいかい?」と言って話を戻した。秋はうなずいて要の言葉を待った。


りゅうっても水はにごっている。霊剥れいはぎをされた人間がその水を飲めば、その人は人を食う。どうせ人に戻せないのなら、ヒスイの短刀たんとうは、くらおくに隠せ」


 秋の眉間に、自然とシワがよる。


霊剥れいはぎを受けた悪魔あくま廃人はいじんになることは、知っているかい?」

「あ、はい…」

「そうか、それなら話は早いね……その昔、戦国時代。霊剥れいはぎを積極的せっきょくてきに行っていた時期があった。当時、『一度、悪魔から廃人はいじんになった人が、夜中よなかに起き上がり、その家族を喰らう事件』——それが現代いまで言うところの〝東京〟を中心に散見さんけんした」


 秋は視線を落とし、その事象について考える。


「それって…〝食べたい〟って言う欲だけが、なんらかの原因で残ってしまった…?」

「残った、と言うより〝たつ白魔はくまの力〟で、その部分のよくが異常に強くなったと、見える」


 要は、居間いま出窓でまどに顔をむけ、空をながめた。

 空模様そらもようは——今にも雨が降りそうな、くもり空。


たつ白魔はくまが死んでも、しばらくその〝ゾンビ化〟の事件は続いた」

「…どうして?」

井戸水いどみず、だね」

「…いどみず?」

たつの白魔の能力は〝テンワザワヒ〟と呼ばれる。雨を降らし、その雨を浴びた人間は狂って人を襲う。白魔に近づこうものなら〝雷龍らいりゅう〟がその身を喰らう。雷に穿うがたれるんだ。降った雨は、地下水ちかすい浸透しんとうして、いずれ井戸水いどみずとしてみ取られる」


 そんなのがもし今、人が密集みっしゅうする都会に出たらそれこそ天災てんさいだな…、と秋は思った。


「そもそも、けがれた井戸水を飲むまでも無く。対策たいさくととのうまで、〝雨に打たれた人間の誰しも〟がゾンビ化した。むしろそっちの方が悲惨で、井戸水の事件は二次災害のようなものだね」

対策たいさく…?」

黄泉巫女よもつみこが作った〈浄水しずく〉と呼ばれる薬水やくすいがあった。つまり、ワクチンだ」

「それを飲めば、ゾンビ化しない?」

「うん、その通り。しかし唯一ゆいいつ、そのワクチンが効かなかったのが、〈霊剥れいはぎを受けたあとにゾンビ化した人間達〉だった。霊剥ぎが行われた時期と、たつ白魔はくまが現れた時期とがかぶっていたから、原因がわからずに、さぞ大変だったろうと思う」


 しゅうは頭の中でかなめの話を整理した。

 浴びればゾンビ化する雨。

 それに対抗たいこうできる〈浄水しずく〉。

 しかし、一度、悪魔から戻った人間には〈浄水〉が効かない。


「一度でも悪魔になった人間には、ワクチンが効かない?」


「そうだ。霊剥れいはぎをして成功したとしても——良くて廃人、最悪さいあくゾンビ。霊剥れいはぎなんてやめよう、となるのも自然な話だね」要は自分の膝下に視線を落とした。「白魔がいない現代なら成功するかもしれないって思った。可能性かのうせいけたかった。直之なおゆきさんと賢二けんじさん、それと僕の三人は若かった」要は後悔こうかいに満ちた顔で、歯を食いしばる。「誰かが止めるべきだった。でも僕以外の二人には…霊剥ぎをする深い理由があった。そりゃ僕なんかと前線で闘う二人の心情しんじょうは比べ物にならない。比べてもいけないと思う。霊剥ぎの魅力におぼれだ僕は、妻に祈祷きとうたのんだ。離婚りこんというつらい現実とえに——」要は立ち上がり、近くの戸棚とだなから写真を一枚、取り出した。澪によく似たの大きな美人の女性が写っている。


「優香だ…」


 要は写真をしゅうに差し出す。

 秋は、丁寧ていねいに受け取った。


「この人を、澪と一緒に東京で探してほしい」

「…はい」

「そして、伝えてくれないか? あ…、すまない。口頭こうとうでは難しいな。手紙を書くよ。それを澪の母に渡してくれないか?」

「…俺にできることなら、やります」

「ありがとう。心強いよ、本当に。それと優香は知っているはずだ」

「…なにを?」

直之なおゆきさんが唯一ゆいいつ、人間を完全に悪魔から戻せた時の事を。賢二けんじさんが左腕ひだりうでを失った時の事を。彼女はその場にいた。黄泉巫女として、その場にいたんだ」


    *


 その頃。駄菓子屋だがしやのレジに椅子を並べ、二人で店番をする、みお須賀すがの二人。澪が須賀に「秋の服、いいのありました?」と話かけた。目を点にして人形みたいにぎこちなく首を回し、須賀すがは左にいるみおを見た。


「ふ…く……?」

「はい、服。秋、元気かなって気になって、かすみさんに電話したんです。そしたら『須賀さんと服、買いに行ったのよ』って、言ってましたけど?」


しゅう東子とうこさんの家に行って、俺が直接見た訳じゃねぇが、たぶん東子さんが大泣おおなきして、秋に抱きついたかもしれねぇ……なんて、口がけても言えねぇ…っ!)


 首が寝違ねちがえたみたいに硬直こうちょくする須賀に、澪の視線が刺さる。普段は可愛らしい、花のような笑顔が咲くその顔は——いたって無表情。怖いくらいに無表情。「須賀さん…?」「あ、いや、お、買った買った! いいの、あったぞ、いいの…ははは」須賀の首はぎこちなく戻る。


「どこで買ったんですか?」

「お…〝やまむら〟で、買った」

「あれ? 秋いつも〝コニクロ〟でしか服、買わないのに…」


 須賀はまるで裁判さいばんにでもかけられている気分になった。

 なんとかして話題を変えようと試みる。


「あ、おお、そういや、この駄ぁ菓子屋も長いよなぁ! 澪さんの、おばぁちゃんがやってたんだよな?」

「あ、えぇ、まぁ。おばぁちゃんにとっては趣味しゅみ延長えんちょうみたいなものでしたけど」

「いいよなぁ。こうゆう昔ながらってのは、無くさずに守らねぇと、だよな…」


(よし! 話題、れたぞ! いいぞ! このまましゅうの事を忘れろぉ!)


「もしかして今日、東子さんの家、行ったんですか?」


(あああぁあぁぁ……)


須賀すがさん?」

「…すまねぇ、みおさん、その通りだ」


 須賀の心は折れた。案の定、澪は不機嫌ふきげんな顔になる。


「やっぱり、おかしいと思った」

「申し訳ねぇ…。うそつくような真似まねして…」

「いいんです。気をつかっていただいたのは、嬉しいです」

「それで秋が、『かなめさんに会わなきゃいけねぇ』ってなって、今にいたる」

「どうして、急に?」

「そこまでは俺も分からねぇんだ」

「そう…、ですか」


 レジの机に頬杖ほおづえをつきながら、澪は少し無気力むきりょく声色こわいろで「しゅう東子とうこさん、付き合うんですか?」と尋ねると、須賀は「それはない」と、二つ返事で返した。


「あの、服のシミは?」

「ずっと長い間、き止められてた涙腺るいせんのダムが崩壊ほうかいした——って事だろうと思う」

「じゃぁ…、秋は、くっついたんですね。感情はともかくとして、物理的ぶつりてきには…」

「おれも直接見たわけじゃねぇぞ? だが一つ、確実かくじつに言えることがある」

「…何を、です?」


 須賀は、先ほどの間の抜けた顔とは打って変わり、キリッとした表情で澪を見た。


「あいつの通った道には、金や物、恋愛感情れんあいかんじょうも関係なく、笑顔がく。その、笑顔の花が咲く前に、大粒おおつぶナミダが降って、花の根をうるおすことだって、あるだろう」


 須賀の言葉を聞いたみおは少しだけホッとした。しかし、しゅうの胸に最初に飛び込んだのが東子とうこだった事を考えると心臓しんぞうき乱れた。自分がもし悪魔祓あくまばらいだったら。東子みたいに、があったら——もっと秋に近づけたかもしれない。東子への敗北感はいぼくかん無力むりょくな自分のせいにして、なんとか飲み込もうとした。


「私の花は、いつか咲くのかな…」

「大丈夫。大丈夫だ」

「なぜ、そう言えます?」

「自分が一番、自分らしくいれる人と過ごすのが一番幸せで、一番うまくいくはずだ。どうだ? 澪さんといるときの秋、どこかつくろっているように感じるか?」


 澪は、自分といる時の秋を思い浮かべる。

 ——少し、はらが立ってきた。


「むしろ、もう少しつくろってほしいですね。気をつかわなさすぎです、明らかに」

「本人は気づいてねぇだけだ。澪さんの気持ちにも、自分の気持ちにも」

「そう…、だといいですけど……」


 ふーっ…と、澪はため息をついた。

 すると、店の入り口から子供が一人、大声と共に入ってきた。


「澪ねえ! かあちゃんに怒られて10円持ってきたあぁぁぁ!」

「あ…! クソガキ!」

「––––あ…」


 レジに並んで座る、須賀すがみおを見た、クソガキ。数秒、硬直こうちょくしてから、やまびこがひびくほどの大声で「あぁ! 先約せんやくだ! 先約せんやく! すげぇ! じじぃが好きだったんだ澪ねえ!」と叫んだ。澪はつくえに両手を叩きつけて、「ば、ばか! 違う! 10円はいいから帰れ!」と怒鳴りながら立ち上がった。「え、いいの!? やったー! もーらいー!」10円をポッケにしまって、自転車にまたがるクソガキ——かれは後に、洗濯せんたくをするクソガキの母がポッケから10円を発見する事になるなど、この時点では思いもしない。


「もうっ! なんなのよっ! もう!」澪は怒りながら座る。「…先約?」須賀すがが首をかしげる。


「いいんです!」

「お…は、はい」


 澪の圧に押される、ベテラン刑事けいじ。すると、レジ奥の暖簾のれんをくぐって、秋が戻ってきた。「お、秋、話し、終わったか?」須賀が声をかける。「あぁ、済んだよ。待たせてごめん」澪はそっぽを向いている。「なぁ、澪」秋は澪の後頭部こうとうぶに話しかけた。


「………」

「おい、聞いてるか?」

「聞いてます」

「あのさ、俺と一緒に何日か東京に行ってほしい」


 澪はとっさに振り向く。


「と、ととつぱ、と、東京!?」

「ちゃんとしゃべれよ…」

「なな、なぜに?」

「東京にE•A•E•Cっていう、悪魔祓あくまばらいの組織そしきがあるらしくて。俺、理由わけあってその組織の…ある人に会わなきゃいけない」

「ある、人?」


 しゅうの頭の中に、かなめとのぎわの会話が流れた。


(いいかい、秋くん。澪には、澪の母を探しに行くことは、ギリギリまで隠してくれないか…。澪は、もしかしたら、自分を置いて家から出た優香ゆうかを、心のどこかでうらんでいるかもしれない……)


「あぁ…、悪魔祓い? の人を探さなきゃいけない」

「そ、そうなの? 何日くらい?」

「んー…、おっさん、東京の新宿にキリストの教会って何軒なんけんある?」


 急に話をふられた須賀は「お、ちょっと待ってろ」と言ってから、スマホで検索を始めた。


「何軒か、って聞かれたら〝何軒もある〟って言うのが妥当だとうかもしれねぇ」

「そんなにあるの?」

「ま、まさか、一軒一軒、たずねて回るつもりか?」

「…そう、なるかも」


 須賀すがしゅうはさまれて会話を聞く澪は頭の中で日程にっていを考えてみた。「ひとまず、2、3日あれば、全部は回れるんじゃない? 新宿だけなら…。でも、なぜに私?」疑問ぎもんを抱きながらも、顔から嬉しそうなオーラがれるみおに対し、しゅうは、「ほら、俺、東京行った事ないし…。そもそも電車の乗り方もよくわからない…、から。澪について来てもらわないと野垂のたぬかも…」と歯切れ悪く言った。


 もじもじとする秋に、澪は母性本能ぼせいほんのうをくすぐられた。確かに、スマホも持たずに都会とかい交通網こうつうもうを乗りこなす秋の姿は全くもって想像ができない。誰かがついて行ってあげないといけないことは、火を見るより明らかだった。


「す、須賀すがさんは?」

「俺ぁ、ダメだ。3日も穴を空けるわけにはいかねぇ」


(となると、私しかいない…よね、秋と東京デート!?)


 澪は急に、ものすごく嬉しくなった。


「じゃ、じゃじゃじ、す、仕方ない、私がお供するしか、ないね」

「ちゃんとしゃべれよ…」

「わぁ…、東京か。なに着ていこう。あれ?」澪は急にわれにかえる。「お父さん、私の旅行、良いって言ってくれたの?」


 秋は〝澪の母探し〟がバレないように、慎重しんちょうに言葉を選んだ。「俺が、行かなきゃってなって、それなら澪がサポートしてくれるよ、って要さん言ってたから、たぶん大丈夫」秋に抱きついた東子のことはどうでもよくなるくらい、澪は気持ちがたかぶり、ワクワクした。「わかった! じゃあ、後で日程にってい、決めよ! 夏休み、まだあるし!」「悪いな…、澪だって忙しいのに。ありがと」秋はまた、やたらと綺麗な笑顔をした。澪はこの笑顔に、今度は嫉妬しっとしないで済んだ。


「おし! そんじゃ、景気けいきづけにんなでラーメン食い行こう! 時間もいい頃合ころあいだな!」須賀が張り切って言った。


「え! 私もいいんですか!」

「あったりめよ! かなめさんも行かねぇかな?」


 すると暖簾の奥から「ぼくは大丈夫です。みなさんで行ってきて」と声が聞こえ、かなめが入って来た。須賀は立ち上がり、頭を下げる。要も同じく頭を下げる。


「お父さん、いいの?」

「あぁ。冷蔵庫のカレーをやっつけないとだから」

「そっか…」


 要は、須賀に目をやった。


「須賀さん、澪がいつもお世話になってます。すいません、ご飯代は持たせますので…、お願いしてもいいですか?」

「あぁ、いえ、そんな、俺におごらせてください…、この間の闘いも、澪さんがいなけりゃどうなってたか…」


 要は澪を見た。


「澪、ちゃんとお代は払いなさい、いいね?」

「うん! もちろん!」


「澪…」要はやたら、真面目まじめな顔で澪を見つめる。「はい…?」澪も、要から真剣しんけん眼差まなざしを感じる。


「行っておいで」


 澪の顔に優香ゆうか面影おもかげを感じながら、要は、しっかり、強く、澪の心に届くように言った。


 澪はその言葉から、二つの意味を感じ取った。


 皆とご飯を食べておいで。


 それと。


 秋くんと東京に行っておいで。


「うん。行ってきます!」


 二つの意味をしっかりと胸に受け取ってから澪は、要の目をぐに見つめて元気よく答えた。




 刀闘記


 ~頼~【下】

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