~香~
「…なにやってんだろ……私…」
壁を背に、並んで座る二人。
オレンジ色のパーカーは、胸のあたりが東子の涙や鼻水で
「ごめん、服。
「え? そこまで汚れてない」
「…あなた、いつもそうゆうの、着てるの?」
「そうゆうの?」
「
「あぁ…」
「ねぇ、
「知って…、どうする」
「〝
(友達…)
(澪……)
「ねぇ、聞いてるの?」
うつろな秋に、東子が横から話しかける。
「あ、あぁ、ごめん」
「ちょっとくらい、私を
「…ごめん」
「ふふっ…、あなた
「
「
「なんだそれ…」
「その気にさせる
「よくわからん…」
「その
「それ、おっさんからも言われた……」
「苦労するわね、あの
「今、お父さんに電話、するから」
「え…」
秋の返事を聞く
「あ、もしもし、お父さん」
秋の横で話し始めた東子。
電話の向こうの声は、秋には聞こえない。
「今、
しばらく会話して、東子はすぐに電話を切った。少し、困った顔をしている。「ダメ…なのか?」と、
「
「…そう…か」
「でも会いたくないって感じじゃ、ない」
「ん?」
「今は会う必要がない、そんなニュアンスだった」
「今は…?」
「それで、
東子は、秋の顔を見た。
間違えないように、言った。
『
空気が止まった。
お互いに、その言葉の意味がわからない。
「イーエーイーシー…?
秋は難しい顔をした。
「E…イースト。A…アメリカ?」
東子は
「お前でも、わからない…?」
「多分、
「組織?」
「組織なら、イーストアメリカ、もしくは、イーストアジアから始まるのが
東子は「ちょっと待ってて、時間、あるわよね?」と言ってから、
(やべ…おっさん、大丈夫かな…)
「
秋が覗いた画面には、こう書かれている。
@raiken.kaminari-love
東京に来てよかった。地方の
悪魔祓いって言葉が、そもそも、ダセェ。
東京の悪魔ほど、
俺は今日から、違う俺になる。
E•A•E•Cで、エクソシスト教会で。
あんな田舎とはおさらばだ。
じゃぁな、クソ
「なんだこいつ…なんか腹立つな…」
秋は画面に向かって、いつもの
「田舎から、東京に行って、なにかしらの悪魔祓いの組織に入った。で、それが〝エクソシスト教会〟と呼ばれている…」
「エクソシスト…?」
「悪魔祓いを、そのまま英語で読んだものよ」
「それはわかる…、でもそんな言い方するか?」
「教会って言うくらいだから、きっとキリストの流れを
「あぁ…」
「E•CがExorcist Church…。これは、ほぼ決定ね」
「E•Aは?」
「東京だから、東アメリカは、おかしい…だからしっくりくるのは」
『
秋と東子の声が
「あ…」秋は顔を
「んんっ…」
思わずシンクロしてしまった事に二人は
「…わかった。これから、おっさんと
(やっぱ来てるよなぁ…っ! おっさんごめん…!)
「もう、帰るの…?」
東子がパソコンの画面を見たまま言った。
「あぁ。色々、ありがとな」秋はテーブルの麦茶を飲み干した。「ごちそうさま」
東子は椅子を回して振り向いた。メガネが
「また、来て……」
「あぁ。今は、
「ほんと…悪魔のことしか、考えてないのね」
東子は、
「うん、待ってる」
「お前、ちゃんと食ってるのか?」
「料理も
「そっか。安心した」
秋が笑った。
すごく良い笑顔。
こんな顔するんだ。
東子はそう思った。
「玄関まで送る」
「…ありがと」
階段を降りて、玄関に来た二人。
秋が
その背中に、東子が話しかけた。
「あ、ねぇ…誕生日」
「え?」
「教えて、いつ?」
「…4月3日」
「そっか、シミの日って覚えとく」
「やっぱそうなるよな…。お前は?」
「え? 私?」
「誕生日、いつなんだ?」
「8月19日…」
「なんだ、ついこの間だったのか…」
「今年は誰も祝ってくれなかったけどね」
秋が靴を履き終えた。つま先でタイルの床をトントンと
「プレゼント、何か持ってくるよ」
「いらないわよ…」
「いいから。多分、東京、行く気がするし、何か買ってくる」
「そう、まかせる。ありがと」
「センス、無いかもだけど」
「ふふっ…、そうかもね」
秋は少し微笑んでから、ドアに手をかけた。
開いた玄関のドアから、もわっ…とした
「あつ——こんなに暑かったのか、外」
「気をつけてね」
「あぁ、またな」
「うん…」
秋は、じゃあな、と言いたげに右手を上げて玄関から消えた。
ドアが閉まる。
静まりかえった、家の中。
東子は
「プレゼント…か」
玄関の
そのドアに背中を
体重を預けて、もたれかかる。
おもむろに天井を見上げた。
大きく息を吸う。
「プレゼントなら、さっき、もらった。沢山、暖かいものくれた…。それで、十分よ」
やっぱり彼の
優しい香りだった。
刀闘記
~香~
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