~独~
その毛先が
優しく、
東子の
少し痩せている女の体が秋の
左耳。
くすぐったさは、とっくに超えてる。
「ねぇ…どう思ってる?」
まただ。
また、
何を言えばいい。
突き飛ばして、逃げる?
部屋から、飛び出す?
(…違う)
なぜ、
〝こういう
(前にも、こんなことがあった)
前?
いつ?
あぁ…東子が
確かに、
でもそれは「好き」とは違う。
なら、今は?
(心臓が、どうかなりそう)
それは、なぜ?
(この状況が、こわい…から?)
どうして、こわい?
(どうしたらいいか、わからない…から)
普通は
こんな美人に
普通は嬉しいと思うだろう。
でも、違う。
本心は?
(逃げたい…)
なら、好きじゃない?
(少なくとも、恋は…していない)
それなら、言わないと。
(何を?)
気持ちを。
(あぁ…そうか)
言葉を選べ。俺——立神秋——。
「あの…」
秋の
東子のメガネが当たっている。
「
「好きなの?」
「そうじゃない」
「なら、嫌い?」
「…違う」
「…どっち」
「なんて言えばいい…」
「思ったまま」
「…逃げたい」
30センチの
「……ぷっ…はははっ…」
東子が、うつむいて、笑い出した。
「……なんだよ」
「ははっ…逃げたい、だって…」
「思ったまま言っただけだ…」
「私、これでもモテるんだよ」
「…そうなのか?」
東子は顔を上げ、そうなのか? と言った秋の顔を一瞥した。
秋の顔は、あくまで
「……おっかしい…」
「なにがだよ…」
「あなた」
「普通じゃないことくらい知ってる」
「本当に、
「悪いかよ…」
何も、言わなくなった。
流れるような髪の生え際、
やたらと
ふと水滴が布に落ちる音がした。
(ん…何の音だ?)
東子が泣いている。
涙が秋のズボンを
「おい…」
東子は
いや、応えられないと言うべきか。
グス…と鼻を鳴らしながら、泣いている。
「大丈夫か?」
「私もうイヤだ」
「…ん?」
「
「………」
「みんな、いなくなった…お母さんも…お兄ちゃんも…」
「………」
「きっと、あなたも…」
「俺が…、いなくなったって……」
秋の言葉を
そのまま、秋の背中に
「お願い、ウソでいい。気持ちなんて、無くていい。好きじゃなくて、いい…もう一度、抱きしめて……お願い……」
秋は、
それとは、
東子は、
東子の母が亡くなった中学生時代、
「お願い……」
秋のパーカーが
その
今、秋の両手はカーペットを
あの時は迷わずにできた事。
今は体が
なぜ、動かない?
(
どうして?
(こんな経験、無い…)
一度、抱きしめただろ。
(それは…闘いのため)
じゃあ、今、目の前で泣いてる東子なんて、どうでもいい?
(そんなこと! ない…)
それは、どうして?
(大切な仲間…だから)
今、
ここで突き放すほど、お前は
(違う!)
自分の気持ちなんて、今は関係ない。そうだろ。
(………)
ほら、手を持ち上げろ。
東子のために。
「––––っ!」
秋は、東子の背中に
そのまま、力を込めた。
手が震えていた。
でもそんなこと、
わからなくなるくらい。
東子は大声で泣いた。
コーラの
何度も何度も、
強く振ってから開けたみたいに。
とめどなく流れる涙と、
とめどなくあふれる声が、
秋の
秋の泳ぐ目を
「泣いても良いと…思う。お前だって、そうゆう
「ばか…
東子は、両手で秋の服を強く握った。
涙はまだ、流れる。
(こんなに…何年分の涙だろう)
少し、
でも、まだ涙が止まる気配はない。
(いいっか…今は…考えなくて、いいや…)
東子は力を抜いた。
秋の体に身を
秋の両手も
優しく。
暖めるように。
東子の心の氷を溶かすように。
再び温度を取り戻すようにと。
今この
痛みを。
忘れられるようにと。
自分の気持ちなど。
全部無視して。
自分の持てる優しさを全て。
秋は
——その頃。自宅の
《人気ユアチューバー、ココにゃす、悪魔化して死亡か。
「え…これ、闘ったの、たぶん秋だよね…」
澪は、
《やっぱ、
《実際、
《ゲーム
《親が
《悪魔化ココにゃすの戦闘シーン、はよ》
などと、
『はい、
「あ、
『あら! 澪ちゃん、どうしたの?』
「あ、えと、突然すいません。秋、いますか?」
『それがね、今、
「え…、
『ううん、違うの。えっ…と…』
かすみは、急に
「あ、あぁ、そうなんですね、それなら、よかったです」
『もし、
「あ、いえ! ただ秋が元気かどうか、気になっただけで…」
『そう? 体調は良いみたいよ? ずっと寝てたから。寝てばっかだったから』
「そう…なんですね。それなら良かったです、じゃ、じゃあ、これで…」
『あら、本当に良いの? 何かあれば伝えるけど…』
「だ、だにゃ、大丈夫です! お時間を取らせてしまって、すいませんでした…」
澪は、誰が見ているわけでもないが、ペコペコと頭を振りながら電話を切った。スマホを置き、店の入り口を
「……本当に伝えたいことって、なかなか、伝わらないんだ…」
「こんちわあぁ!」
突然、
「あ、いらっしゃい」
「うめぇ棒、買いにきた!」
「どうぞぉー」
「あ、澪ねえちゃん、泣いてんの!」
「なっ…! 泣いてないっ!」
「フラれたんだ! クラスの女子がフラれたのと、同じ泣きかた!」
「うう、うるさい!」
「そんで、こーゆー時〝ずぼし〟って言うんだって!」
「こいつ…、今日はうめぇ棒一本100円!」
「えぇ! なんんでえぇ!!」
——秋を好きになるんじゃなかった。
何も
何度も、秋のことなんて…、そう思おうとした。
しかし
例え〝何があっても〟秋への気持ちは変わらない。
この時、澪は少なからず、そう思っていた。
(まさか
再び、大きなため息を澪はついた。すると、嬉しそうな顔でクソガキがレジに駆け寄ってきたと思ったら、澪の目の前に10本のうめぇ棒が雑に置かれた。クソガキがにっこり笑って、カエルの形をした財布から100円を取り出し、レジのキャッシュトレイに置いた。
「10円、足りないよ」
「なんで! それじゃ
「しょーひぜい」
「あ…」
クソガキは財布の中を
100円玉しか持ってきていないらしい。
「いっこ、戻してくる…」
悲しそうに言って、うめぇ棒を一本、手にとったクソガキ。
それを元の場所に戻そうと歩き出す。
「いいよ」
澪が、クソガキを呼び止めた。
「え?」
「10円、おまけ」
「ホントに! やったー!」
喜ぶクソガキ。レジ袋に商品を詰める澪に、嬉しそうな顔で「おれ、結婚するなら
「えー! 誰ぇー! 誰ぇー!」
「いいの! だれでも! 早く帰ってボケモンでもやりなー」
「ちぇーっ! じゃあねー
「気をつけてねー」
「うん!」
クソガキは、子供用のマウンテンバイクに乗って帰った。
再び、
澪は、
「先約、いたりしないよね……秋…」
刀闘記
~独~
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