霊剥ぎは人道的かつ禁忌の行為

~剥~


 みおが車から降りた。須賀が運転席のまどガラス越しに手を振る。澪も須賀に手を振った。しゅう幾分いくぶん老けた顔をしている。

 

 なんなんだお前…、と訴えかけるような目で、自分の太ももを幾度いくども叩いた澪をガラス越しに見る秋を——このわからず屋…、とうらみ、澪は半目はんめで視線を返す。猫と猫がにらみ合っているような光景に近い。秋と須賀すがを運ぶ車は静かに走り出した。フロントガラスにはまだヒビが入っている。後部座席こうぶざせきの秋に「なぁ秋、何か気づかないのか?」と、須賀が運転しながら話しかけた。


「太ももだったら真っ赤だよ」

「その太ももがれちまった原因よ」

「澪が、寝不足でイライラしてたから?」


「確かに、澪さんはイライラしてたな。だが寝不足のせいじゃぁ、ない」須賀は鼻でゆっくり深呼吸をした。秋は車窓しゃそうの景色を見ながら考える——。しばらくしてハッと気づいた。「あ、そっか——〝女性の日〟が近かったんだ…」クイズの答えがわかった回答者みたく須賀すがに言った。須賀すがは眉を持ち上げて大きなため息をついた。


「それもあるかもしれぇが、そうじゃねぇだろ…」須賀の口がひん曲がる。「母さん、むかし。よく月一つきいちでイライラしてたから…。その度に『女性の日が近いの、ごめんね』って…」秋は頼りなく言って落ち込んだ。その様子をバックミラーしに見た須賀すがは、限られた知識ちしきの中からなんとか答えを見出みいだそうとする秋が、少し可哀想かわいそうに見えてしまう。んんっ…、と喉を整えて別のアプローチを試みる。


「お前、テレビとか見て『この芸能人かわいいな!』とか、思ったことないのか?」

「テレビ観ない」

「それじゃ、マンガのキャラクターとかならあるだろ?」

「読まない」

「アニメは?」

「観ない」

「映画…!」

「観ない」

「小説…!」

「読まない」

「お前、何から情報じょうほう、集めてんだよ…」

新聞しんぶん


 じじぃかよぉ! と言いたくなったが須賀すがこらえた。運転の初心者と思われてもおかしく無いほどに前のめりでハンドルをにぎり、ナマハゲみたいな顔をした。もの凄い形相である。反対車線をすれ違った軽トラの運転手が須賀の顔を見て「わっ!」とおののいた。須賀は姿勢しせいととのえて顔を平常へいじょうに戻し、「なぁ、秋、お前。普通ふつうにしてたら相当そうとうモテると思うんだがな…」と優しめに言った。


 秋は少しを置いてから、幽霊ゆうれいのような、かぼそい声で、「俺が死んだって世間せけんこまらない。悪魔祓あくまばらいなんていくらでもいる…」と返した。ナマハゲに幽霊に、車内はまるで日本妖怪展にほんようかいてんみたいだ。車内のうし半分はんぶんが、どんよりとしてしまった。徹夜をして、せっかく怪物を倒したと言うのに、これじゃまるで葬式の帰りと変わらない。まずはなんとかしてこの魑魅魍魎ちみもうりょうが寄ってきそうな車内の空気を浄化しなくてはならない。須賀はあえて、思ったことを秋にぶつけることにした。


「人生に興味きょうみがないお前が、なんで悪魔と闘う時はあんなに生き生きしてるんだ?」

悪魔あくまよりも、人間にんげんの方がこわい…。かたなを抜いている時は『生きていていいんだよ』って、言われてる気がする。自分が必要ひつようとされている気がする」

悪魔あくまみてぇな物理的ぶつりてきな攻撃じゃなく〝言葉のつめ〟でいてくる生きもんが人間——。昔みたいに〝刀と刀〟でやりあったりしねぇ分、今度は気に入らねぇやつを、言葉ことばでどうにか痛めつけられないか、と考える。現代いまみたいに、ネットやなんかで言葉がすぐに届けられる文化だから尚更なおさらだわな…」


 スマホなどを持たないしゅうは、ある意味で精神衛生上せいしんえいせいじょう、正しい選択をしているようにも須賀すがは思えた。しかし今後、世間とのつながりを遮断しゃだんし続けるにしても、せめて澪の想いにだけは気づいてほしい思い「たとえばだ、そんなお前を『好きだ』って、いう女の子がいたとして…」と話を続ける。須賀すが言葉ことばさえぎるようにして、「そんなバカはいない」としゅうが言葉を被せた。


「…バカってことないだろう。お前だっていい男だぞ?」

「どこが…」

「強くて、やさしいとこもある。顔だって、かすみさんゆずりの綺麗きれいな顔じゃねぇか」

上位魔じょういまと闘えない、優しくない、蒼いが怖いって言われる、顔はじいちゃん似…」


 須賀のめ言葉を全て、オセロの石みたいにしゅうがひっくり返してしまう。須賀はと気づいた。秋はそもそも、自分にたいしての評価ひょうかが低すぎる。自分をげて見すぎるがゆえに、誰かが自分を好きになるなんてありえない…、と言う結論けつろんいたっているのだと須賀は考えた。まず秋が秋自身を今より少しでも好きにならないと、澪の想いが入る隙間は、おそらく無い。


「なぁ、しゅう。自分に対する評価ひょうかってもんは、大きく分けて二つある」秋は、そりゃそうだろ…、と言いたげな顔になった。「好きか嫌いか、でしょ?」「それとは、別に。二つ、でっけぇもんがある」しゅうは、なに言ってんだこのおっさん…、と言いたげな表情に切り替えて須賀すがの次の言葉を待った。


「それはな——自分が想う自分への評価、他人ひとが想う自分への評価––––この二つだ」


「そんなの、自分がどう思おうが他人ひとが俺をきらうんだから、どうしようもない…」車はしゅうの自宅——寺院じいんに着いた。須賀はハンドルから手をはなし、シフトをパーキングに入れてからエアコンの風量ふうりょうを少し下げた。「そうだ、その通りだ。どんなに良いやつでも、そいつをきらう人間はかならずいる。これは絶対ぜったい間違まちがいなくいる。いないなんてことは、まずありえない」確信に満ちた声で言う須賀に対し、秋はだまっている。沈黙を嫌うように——停車ていしゃした車のエンジンが、冷房をかすためにうなる音が響く。


「何かを得るためには誰かに『ありがとう』って言ってもらえることをしなきゃならねぇ。だが、どんなにただしく生きたって、生きようとしたって、〝そいつの気分〟できらわれちまうことがある。他人ひとこころほど不安定ふあんていでコントロールできねぇもんはねぇ。結局は自分しか頼れるもんはねぇ…。他人にどんなに嫌われようが、他人のために尽くす自分でいなきゃならねぇ。でもな、そうしてりゃ、あんたを助けたいって言う優しい人間の一人や二人、自然と出てくるもんだ」


 それが、お前にとっては澪さんなんじゃねぇか…? 最後にそう言おうとしたが、この言葉を伝えるタイミンングを見誤ってはいけないと須賀は瞬時に思った。言葉を呑み、運転席の車窓から寺院じいんを全景をながめた。命がけでたたかう秋を、自分達とは違うって理由りゆうだけで、悪く言う奴が山ほどいたんだな…、そう思った須賀のむねめ付けられた。


「秋、お前は人の評価ひょうかが自分にとどくよりもずっと前から、自分で自分をきらって、こんな俺は人にきらわれて当然とうぜん…、と思って、ある意味、自分の心を守ってるんじゃねぇのか?」


 秋は少し図星をつかれた気がした。例えば——好きな食べ物を人にすすめて、それを食べた人が「まずい! こんなの食べるなんてアタマおかしい!」と言えば、まるで自分が全否定ぜんひていされたような気持きもちになる。だが、こちらから「この料理の味は微妙びみょうかもしれない」と、本心ほんしんにウソをついてでも前置まえおきすれば、「まずい」と言われても「そうだよね」と、同調どうちょうでき、その場の人間関係を壊さない、と言う意味では安心ができる。


 秋は、その前置きの〝究極きゅうきょく〟を無意識にしている。人にきらわれる前から、自分で自分を心底嫌しんそこきらい、自分は嫌われて当然、好かれるなんてもってのほか…、そんな感覚かんかくで過ごしている。


「誰だってこえぇさ。嫌われんじゃねぇかって。毎日毎日ビクビクしてらぁ。だがな、うわつらだけで、表面ひょうめんだけで、てめぇの全部を知ったように嫌うやつらのことばっか考えて、そいつらにきらわれねぇように、嫌われてもいようにちぢこまってごす毎日なんておれぁゴメンだ。それよりも、たった一人でも自分のことをいてくれるやつがいるなら、俺はそいつのためにおもいっきり何かをしてやりてぇと想うさ…」


 秋はいつになく須賀の話を真剣しんけんに聞いた。語る須賀すがの背中にほんのりと父親の影を感じた。父と息子の、腹をって語り合うような時間は秋にはほとんど経験が無かった。須賀は、まだ話して大丈夫か…、と気を張りながらバックミラーで秋の顔色をうかがう——。真剣な顔で寺院を見つめる秋がミラーにうつった。


「お前が自分を根こそぎ嫌っちまえば、お前を丸ごと好きになってくれた人は、一体どうやってお前に気持きもちを伝えりゃ良い? いや、自分大好き人間になれってんじゃねぇぞ? だがせめて、こんな俺なんて…、この口癖くちぐせは、やめた方が良い。その言葉は、自分をいてくれる人に対して、その人の想いを踏みにじってるのと同じことだと、おれぁ、思うんだがな…」


 しばらく沈黙ちんもくが流れた。須賀は自分の言葉が少しでも秋の心の琴線きんせんに触れていることを願った。同時に、じつの父親でもない自分が偉そうに、なに言ってんだ…、と自戒じかいの念もふつふつといてきた。車内の沈黙は、秋の「俺が自分を好きになるのはきっと、もっと先だよ」という一言ひとことわった。須賀はバックミラーしに秋の顔をのぞいた。目標もくひょうを定めたような、獲物えものとらえたオオカミのような、まっすぐでギラリとした瞳が見えた。


「ただ悪魔を斬るだけに生きるのは嫌だ。嫌だって思う。だから悪魔を人に戻せるようになりたい。本当にそれを父さんが、一度でもできたって言うなら、俺にだってできるはずだ…」秋のセリフを聞いた須賀は、少し安心あんしんした。張り詰めた空気をゆるめて、会話を終わらせる方向へと口を開く——。


「まぁ、とりあえず、澪さんに〝鈍感爆弾どんかんばくだん〟を投げるのは、やめないとだな」

「なにそれ?」

「次、みおさんに会ったら、あやまっとけよ」


被害者ひがいしゃはこっちだよ。澪のしあわせを願って、なにが悪いんだよ…」たんパンをめくって、秋は自分の太ももを見た。ここは微妙びみょうなとこだな…、と思った須賀はこの話題をげる方向にかじをとることにした。


「まぁ、なんだ。たたかつづきだったから、ゆっくり休むのが先だ。本当に、よく頑張がんばったな、しゅう

「おっさんもちゃんと病院びょういん、行ってよ」

「おう、四十肩しじゅうかたなおしてくらぁ…」

「四十肩は血、出ないよ」

「はははっ、そうだな」


 秋が車から降りると、須賀すがは、軽くクラクションをらして、はしった。


    *


「あっつ…」冷房れいぼうの効いた涼しい車から降りた秋の肌を、太陽が容赦無ようしゃなくがいた。秋はいつもどお裏口うらぐちからにわに入り、綺麗な模様を描く砂利じゃりを踏み、縁側えんがわへ。刀を放り投げ、ツヤのある木の床の上に大の字で寝た。


「––––秋!」


 秋の左耳に女性の声が飛び込む。

 かすみが早足はやあしけてきた。

 秋は寝ながら頭だけを動かして、かすみの方を見た。


「あ…、ただいま」既に半分寝ぼけている秋を、かすみは迷わずき起こした。「…っ! ちょ!」「がんばった…、がんばった…」ボロボロのしゅうの服を見たかすみは抱きしめずにいられなかった。なみだを秋のふくみ込ませながら、うでに力を込める。「んぐ…! ぐるじい……!」「あ、ごめんね…」かすみはゆるめた。秋は、ひとまず寝るのを諦め、あぐらをかいて座った。

 

「なーんじゃ、ボロボロになりおって。災魔さいまでも、出たか?」


 秋のひだり足元あしもとから老人の声がした。銀次ぎんじが小さな足をひょこひょこ動かして歩いてくる。


災魔さいま?」

一点化いってんかから派生はせいしたバケモンじゃよ」

「あぁ、そんな呼び方するんだ、アレ…」

白魔はくまもか?」


 秋の顔がくもった。


「うん」

「どれじゃ?」

ヘビ…」

「ヘビか、厄介やっかいじゃの…」

透明とうめいなヘビに体をつかまれた時、まったく動けなかった」

「そりゃそうじゃよ。〝時噛トキガヘビ〟——ヘビにきつかれた部分だけ、時が止まるんじゃて」

「時が止まる…? だからあんなにピクリとも動けなかったのか」

「そんでお前さんは、そのヘビを切れたか?」

「ヘビが全身にからみついて、おっさんが、キズってムカついて、右腕だけ、ブチブチって千切ちぎれるような音がしてから動かせた。動かせただけで、何もできなかった…」


 銀次ぎんじの小さな体はピタリと止まった。ハムスターが物音に耳を澄ますときの姿勢しせい。そのまま「こりゃ本当ほんとうに、タカがりゅうんだか…」と、独り言をつぶやいた。悪魔祓あくまばらいの専門用語が飛びう中かすみが「秋、お腹は? 寝る前にシャワーくらい浴びたら?」とすすめた。汗と土まみれの気持ち悪い体で寝るのは、たしかに嫌だなと、秋は思った。


「うん、そうする」

「それじゃあ、ご飯、作っておくから」

「いいよ。母さんも寝てないでしょ」

「寝てないのは秋も同じ。私もお腹空なかすいたもの」

「ありがとう」


 しゅうは、立ち上がろうとした。ふと思い出したように「ねぇ、じいちゃん」と足元の銀次ぎんじに声かける。


「なんじゃ?」

「一度、悪魔あくまになった人間ひとを、戻すことって、できる?」

「できるよ」即答そくとうだ。

「え、どうやって!」

「だが、やってはならん」ハッキリと言う銀次ぎんじ

「なんで! できるなら、それが一番いいだろ…!」


直之なおゆきは、それをためしたよ」銀次は溜めてから応えた。「父さんにもできたなら! 俺にも!」すかさず秋が食らいつくが——「ならん!」と小さな体から想像そうぞうもできないような声がひびいた。その声にしゅうは少しひるむ。「なん、で?」弱々しく秋がこぼした。銀次は、ひょこっと可愛かわいらしいお尻を床につけてからしずかに——「直之なおゆきは悪魔を人間に戻したよ、確かにの。その時、直之は二人で行動しとった」と語り出した。かすみも緊張した様子で銀次ぎんじの話を聞く。


霊剥れいはぎ、そんな技術ぎじゅつが、あることはある」

「れいはぎ?」

文字通もじどおりじゃ。れいを、ぐんじゃよ」

「あるなら…! なんで誰もやらない…?」

危険きけんすぎるんじゃて」

危険きけん…?」

無理矢理むりやりれいがされた人間はその〝たましい〟までも一緒にがされる。悪魔あくまから戻って命は助かっても〈良くて廃人〉最悪さいあく植物人間しょくぶつにんげん〉じゃて」


 秋のが引いた。夢が、目標もくひょうが、すなとなって消える——。僅かだがそんな感覚を覚えた。しかし秋の心は決まっている。まだ一縷いちる希望きぼうでもあるなら。秋はその希望を捨てたくない。


「それでも、父さんはどうして?」

「若かったんじゃよ。今のお前と同じじゃ」

「どうせ斬るしかないなら、人に戻せる可能性かのうせいけた…?」

「そうじゃ。じゃが、悪魔が廃人はいじんになる以上の悲劇ひげきが起こったよ」

悲劇ひげき?」

「無理矢理体からがされた悪霊あくりょうあわてて〝次の宿主やどぬし〟をさがしおった。その宿主やどぬしとなったんが、その時そばにおった、悪魔だった男のつまじゃった」


 銀次ぎんじは、淡々たんたんと辛い話を続ける。


「直之は結局、その男を廃人はいじんにすることしかできず、悪魔になったつまを、斬らねばならんくなった。悪霊と旦那のたましいが、その娘のせまからだ無理矢理むりやり、入り込んだ。自分が女とも男とも、わからんくなり、き乱れて錯乱さくらんする女の悪魔を——直之なおゆき嗚咽おえつを押しころしながら、斬った…」


 銀次は遠い目をした。しかし、ほんの多少の希望きぼうがあることも秋に伝えたかった。「わしも、試したんじゃ。本当に無理なのかっての。ま、霊剥ぎのそれとはちと種類が違うが、似たようなことを試したよ」「お義父とうさん…!」かすみが思わずあいだに入る。「いいんじゃ! かすみ。その時がもう、来とる」銀次が遮ると、秋は二人がなぜ言い合っているのかわからずまゆをひそめた。


「わしを見ろ」銀次が怪訝けげんな顔の秋に言った。


「さっきから見てるよ?」

「なんじゃ気づかんか?」

「なにに?」

最早もはや当たり前じゃもんの」

「なにが?」

「この、姿」

「ハムスター? あぁ、そう言えば…」

「わしがこの姿になったんは、お前が8さいの時じゃの」

「そう、だっけ?」

「そうじゃよ」

「それが…、ん?」

「気づいたか」

「じいちゃんが急にハムスターをい出して、それからすぐに、じいちゃんの〝形だけの葬式そうしき〟をして。そしたら、じいちゃんがハムスターになってた…」


 銀次ぎんじは、うんうんとうなずく。


「どうせ、からだじゃったしの。ためしたんじゃ。自分の体で霊剥れいはぎに似たようなこと——〝魂移たまうつし〟を試したんじゃよ。じゃからの、悪魂に魂を食い尽くされる前なら、人間としての魂の大半が残っておる時に霊剥ぎをしてやれば、一度は悪魔になったもんを〝なるべく元どおり〟に戻してやれるやもしれん。悪魔になりたての人間でもないと、ちとキツイかもしれんがの」

「それで…、霊剥ぎと同じ方法を試したからハムスターにじいちゃんの魂がうつった?」

正解せいかいじゃ。本来、魂移しは〝黄泉巫女〟という人種にしかできん。その方法も霊剥ぎのとは全く異なる。まあ——こんなに長生ながいきすると思わんかったが、わしは悪魔に魂を食われとったわけではない。身体は老け取ったが、魂はピチピチの15歳じゃ。秋より若いの。——じゃからこうして魂がまるまんま別の生き物に移ったのは必然とえるやもしれん。ではあったがの」


 そう言ってラジオ体操たいそうの動きをするハムスター。秋が、「でも自分一人でやったわけじゃ、ないよね?」と訊くと、銀次ぎんじは再びおしりを床に可愛らしくつけながら、「じゃよ。たのんだ」と応えた。


「誰に?」

三代賢二みしろけんじ三代東子みしろとうこの父親」

「え? だから東子とうこが父さんのことを知ってた…、ん? なんで東子の親父おやじ?」

直之なおゆき霊剥れいはぎに失敗した時。直之とペアを組んどったのが、その三代賢二じゃった」




 刀闘記


 ~剥~

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