~雪~【下】
セミが鳴きはじめた。
少し前から
セミの声すら
小学校のグラウンドは、今まで
「終わった」
「秋っ!」
「
(どんなに
悲しく
「ケガは? 無いのか?」
「えぇ。あなたは?」
「俺は、なんともない」
「そう…、ねぇ、あなたの連絡先、聞いてもいいかしら?」
「な、なんで秋のれれるり、連絡先が
誰よりも先に
「あなたのお父さんの件。知らなくてもいいなら、このまま帰りますけど」
澪を無視するように東子は言った。
「––––え!?」
全員が
「本当なの…?」東子が目を点にして秋に訊く。「こんなこと
「なら、刑事さん、須賀さん——でしたか」
「お…? なんだ?」
「警察の方なら、
「…どっちのだ?」
「自宅の方です」
「寺では、ない方?」
「はい。その住所、秋くんに教えてあげてください」
東子の自宅は小さな
「ええ。何か不満でも?」
「…わかった。行くよ」
「少し話するだけですから。そう、
「人の家か、はぁ……」
秋は東子の家に行くことが嫌なのではなく〝他人の家に行くこと自体〟が苦手だった。
秋は、なんで…? と言いたげな顔で澪を見た。東子は直球で「なぜ? あなた、関係ないでしょ」と澪に言った。澪は言葉に詰まる。『秋の彼女だから! それくらいの
「だ、だって…、
(あぁ、この子、秋の事が好きなんだ)
秋は、
「ふふっ…、はははっ」手の甲を口に当て、東子が笑い出した。男性警官の田中は、東子の作る華麗な表情——アジアンビューティーな
「大丈夫よ。そんな気ないから」
「ほ…、ほんとうに?」
「私、もっと背の高い人が好きなの」
「背の高い…」
澪は、秋の
「えぇ。来る前日くらいに、須賀さん
「わかった。おっさん、その時は頼むよ……」
青春だなぁ…、とニコニコしながら高校生たちの会話を聞いていた須賀は、突然、自分に会話の順がまわって来て、
「……ふぅ…」秋はひとまず肩の力を抜き、晴れた空を見た。空に、カラスの
「……! 東子!」
空を見上げながら秋が声をあげた。
その場の全員が、空を見上げた。
「な…悪魔!?」
須賀が
カラスの
「
秋の
(私ひとりで全員を守りながら…、こんなに倒せるわけない…!)
悪魔達は、秋達を
「イチ…、ニ……フタリ?」
グルグルと鳴る
「ちょっと…、
「ヘリか…?」須賀が見たのは、
ヘリを降りたのは、6人の
6人のうち1人は女性。ピンクに近いほど色の抜けた髪をツインテールに
先輩と言われた男。年齢は30代前半。一人だけ〝
「どれにしよっかなぁ…あ! ワタシ、あの女の子がいい!♡」ツインテールの娘は
(あの女の話す言葉の全て…、語尾に『♡』がついてやがる…)
隊長らしい男はタバコを胸ポケットから取り出し、シッポライターで火をつけ、舌打ちを鳴らし、「やっぱこいつ、うるせぇ……。後で
突然、現れた物々しい黒服の集団をにらむ悪魔たち。「クセェ…、クセェ…クセェナァッ!!」
迷いのない動き。
悪魔たちは
しかし、なすすべなく次々に
その肩をツンツン…と誰かの指がつついた。
「––––! アッ!?」
とっさに後ろを振り返る。目の前にツインテールの娘がいる。娘は、ついさっきまで隊長らしき男の近くにいたが、
「死んでくーださぃっ♡」
娘は楽しそうな顔のまま
「ウァアッ! キサマァァッ!」
『
隊長が唱えると
「ンァァッ! ンゥゥ、アァッッ!」なんとか木の根を引きちぎろうとする。しかし、体は全く、動かない。力が、入らない。全身の
「
「…はい、お疲れ」
そう言って、刀を抜き、悪魔の
「キャッ! せんぱいかっこいいっっ!♡」ツインテールの女隊員は喜ぶ。ヘリからこの〝
「あ、あんたらは…まさか…」
「
「
「あんたは?」
「火ノ花町で
「ほう…、そんでガキの
「兄の
仁は、東子を見るや否や——
東子の顔を
タバコの
「なんですか…?」
「ほう…」
まんじりと、東子を
「そっくりだな、目が」
「
「真っ赤に
そう言って東子から顔を
「ひとーつ。俺らみたいな
ふたーつ。しばらくこの町に
しばらくの
「……質問は?」場の沈黙に耐えかねた仁が、再び口を開いた。「兄と…仕事をした事は、ありますか?」東子が、仁に
「あぁ。
「警察の中でなにがあったの!? あんなに真っ直ぐで、悪魔を
この人なら何か知っている——そう思い東子は食い気味に声を上げた。仁は、至って変わらない仕草で相変わらずタバコを味わっている。
「今から言う言葉は、
仁が
「いいやつ、だったわ…」
ヘリの羽音にかき消されない、必要にして
「なんだ、あいつら…」
「ねぇ、
「お父さんに〝
「え…?」
「
そう言って、秋を見ながらクスッと笑う。
「私、今まで同時に二本の刀を抜く事、ほとんどなかったけど。二刀流もいいかなって、思って」
「わ、わかりました…、父に伝えときます」
「えぇ、ありがと。お願いね」
東子は再びクルッと振り返り歩き出した。「東子…、悪かった」秋は、東子の背中に声をかけた。「あなた、それだと
「もし、また上位魔が出たら、私が助けます。あなたがどんなに〝ダメ〟になっても、私が守る——」東子は突然らしくないことを言った。何か吹っ切れたような顔をしている。
自分らしく生きよう。
兄のことを忘れよう。
兄は死んだ。
母も死んだ。
私は一人だ。
一人の道を歩いてゆく。
でも、きっと。
彼を仲間と呼んでいい。
このモジャモジャ頭の風使い。
母や
私を抱きしめた人間。
好きなのかもしれない。
好きになったのかもしれない。
私は、この男を。
好きになってしまったのかもしれない。
今はアドレナリンが出ているから——
そう思うだけか。
でも、なんでもいい。
なんでもいいや。
今、感じることを大切にしたい。
後のことは後でいい。
私を抱きしめたのだから。
この、高嶺の花と云われる私を、
抱きしめたのだから。
責任、とってもらう。
私も結局〝女〟か。
忘れていた。
恋とか。
そうゆう。
あったかい感情。
「兄みたいに、結婚したいくらい好きになった人を失ったら––––私まで白魔になってしまいそうだもの」
東子は少し歩いてから、両手を腰の後ろで組み、女の子らしく、可愛いらしく振り向いてから秋に言った。
「本当に
クスッと笑い、東子は再び秋たちに背を向けて、歩いた。黒く長いストレートヘアを結んでいた輪ゴムを取り、髪を優雅になびかせる。西威が向かった東とは逆の、西の空に向かって大きく背伸びをした。西を向いた理由には——いつかお兄ちゃんを妹として迎えにゆく。あの人の過ちは私が終わらせる…、そう云う意味が込められていた。空に向かって思い切り体を伸ばすと、体と心が軽くなるような感覚が——全身を駆け巡った。
「待ってて、お兄ちゃん。私が迎えに行く。絶対に。影に落ちたまま苦しませたりしない。お母さんと約束をしたから。影を照らす太陽になると約束、したから」
朝陽が、東子の雪のように白い肌を照らした。
東子のそばに、季節外れの綿雪が一つ。
誰かが無意識に起こした、そよ風に吹かれ。
舞った。
刀闘記
~雪~
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