夏の朝陽が照らすは雪の綿
~雪~【上】
大蛇の10メートル先に立つ二人。
風の能力、
氷の能力、
二人の
開いた炎壁の
巨大な刃は、秋に当たらず、氷の壁に食い込んだ。大蛇の
「わるいっ!」秋は礼を言って立ち上がる。「次! 来ますよ!」東子はスピードスケートの選手のように勢いよく前方に駆け出し、大蛇の右側へ。今度はフィギュアスケーターのように回転し、大蛇の
しかし、こうして
宙を飛ぶ大蛇の下半身。
それは、空中で
その
「うっ––––! ゴホッ…! カハッ…!」
東子は大量の
すると秋の体から
「大丈夫か?」
「えぇ。
「いけるな?」
「もちろん」
東子は服についた
「せーのっ!」
声の
「おっさん!」
「んっっ! 秋! がんばっ…てっ––––!」澪が肩を押し付ける。コンテナの扉は
「澪——…」秋はしっかり、か弱い体でなんとか力を貸そうとする澪を目に焼き付ける。申し訳なさを感じつつも、その
滑り出す東子。
走り出す秋。
下半身が再生した大蛇はコンテナに向かっている。
5人が危ない。
東子は、大蛇を追い越しながら刀の
東子は大蛇を無視してコンテナに向かう。秋は大蛇に追いついた。尻尾に刀を突き刺す。細い尻尾に足を乗せる。バランスをとる。大蛇の背中を上を駆ける。ウネウネと蛇らしく進み、一直線にコンテナに向かう大蛇の
『
秋は大蛇をコンテナから突き離すように〝飛び後ろ回し蹴り〟を
「––––今だっ!」須賀はさらにコンテナの扉に力を込める。ギリリ…と軋む、錆ついた大扉。
「うっ…はぁ…はぁ……」
「秋っ!」
秋はうずくまり、片膝をつき、刀を
「なんでお前が…泣くんだよ…」
「だって、だって––––! 私には何の力もない…何も…できない…っ!」
「ヒスイ、持ってきてくれただろ…」
「それだって! お父さんが気付いたから––––!」
すると、秋がポケットにしまっていた
「え…、何…これ…」
「お前、何したんだ…」
「え、わかんない…」
目を点にして見つめ合う二人。
二人を包む緑の光を見た須賀も、驚いた。
「おいおい…、一体どうなってやがんだ!」
東子も足を止め、光を見た。
「なんなの…、あれ…あの子、まさか––––」
しばらくすると、秋と澪を包んでいた緑色の光は、ヒスイに吸い込まれるように
準備は、整った。
あとはコンテナと小学校の外壁の間に大蛇を
「澪っ! 逃げろ!」澪は秋に突き飛ばされるようにして、その場から離れた。一直線に向かってくる大蛇を引きつけ、秋は走り出す。「終わらせる! 絶対に!」秋は大蛇に叫び、引きつける。そのまま、コンテナと外壁の間へ向かう。東子が素早く滑って秋に近づく。秋の横で併走しながら「引き受けます!」と声を上げる。「頼んだ!」秋は耳に風を感じながら応える。
東子は大蛇に向かって〝人間用の刀〟を抜き、投げた。
大蛇の右のこめかみに刀が刺ささる。
巨体は
「
「動かないでっ…よ!」
大蛇の頭はみるみる
外壁に貼り付けられる。
しかし、大蛇は尻尾の方を暴れさせた。
忙しなく動き回る大きな尻尾。
重たいコンテナも少しずつ——
大蛇の体から離れる。
「うおああぁっ!」
須賀と警官たちが叫んだ。
叫びながら、4人は大蛇の尻尾に飛びついた。
体を重ね、大蛇の尻尾をなんとか
「おっさん!」
須賀の右肩から血が
肩の痛みなど物ともせず、須賀は大蛇の尻尾を押さえつける。
痛みを堪える男たちの唸り声が響く。
秋は、すぐにコンテナの上に乗った。
コンテナを踏み台にして大きくジャンプ。
そのまま大蛇の真上、
小学校の屋上の
「よし! 次!」東子は大蛇の頭を氷で
弱点の〈
「…くっっ! 動くなっ! 動く––––な!」
秋は飛んだ。
小学校の屋上から。
大蛇の弱点を目掛けて。
一直線に落下。
*
12年前。
五歳の秋に、
「ねぇおとーさん〝らいかぢゃめ〟ってなぁに?」
「
「………わかんない」
「お…、そ、そうか、よし! じゃぁ見てろぉ」
そう言って
「しゅごい、しゅごーい! 僕もやるー!」
「らいかぢゃめー!」
ボコッ…
秋はまともに地面に着地してしまい、足を
「いだぁぁぁい! うえええええん!」あまりの痛さに秋は泣き出した。「こらこら、ちゃんとお父さんとやらないから…」秋を
「なお! 何させたの!」
「す、すまん…、ちゃんと見ていたんだけど…」
「見てないからこうなったんでしょ! もう! 秋おいでー、ヨシヨシ…」
秋を抱き抱えてあやす。この時、かすみの髪の毛はミディアムロングに伸びていて、
「くおおおらっ! 直之! 何しとるか!」庭の割れた石を見た、当時まだ人間だった〝
「これは秋の
「そうだよ」
「5歳じゃのに、やりおるの……」
「まだ〝風と友達〟になるまで、いかないけどね…」
「お前が5歳の時のこと、覚えとるか?」
「いや、覚えてない」
「お前は、地面を
「そうなの?」
「こいつぁ…、
「そうだと、嬉しいよ」
「
銀次はしんみりとした顔で、秋が開けた穴をみる。
「ネズミがタカを生んで、タカが
「秋は強い子、優しい子。いっぱい食べて、いっぱい寝て。お父さんを超えるくらい、大きくなってね…」
*
小学校の屋上から、大蛇の弱点を目掛けて急降下する。
「みんな離れて!」
東子が叫び、大蛇の体から飛び
「
氷を刀が砕く時。
こんな音がするんだ…。
秋の勇姿を見守っていた澪はそう思った。
金属と金属がぶつかった音とは違う。
いつも、お父さんが打っている鍛冶の音とは違う。
その全てが。
一瞬だけ——
思いきりぶつかりあったような音。
複雑な音。
でもはっきりしている音。
とても
勢いよく落ちた秋の足元。
彗星でも落ちたのか。
そう思えるくらい。
秋の足元は思いきり凹んでいる。
舞う
白い塵も混ざって舞っている。
秋が立っている。
大蛇はいない。
秋の足元には、長く、長く、地面に横たわる
「夏に、雪が降ったんだよ。とても、強くて、優しい女の子が降らせた雪だ」
そう語りかけてくるかのように。
夏の朝陽は——
美しく、美しく。
照らしあげた。
刀闘記
~雪~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます