刀の聲に呼ばれる翡翠と巫女
~翡~
深夜2時。
「ん…、はぁ…なんだろ…この感じ…」
澪は布団の中で、もぞもぞと寝返りを何度もうった。ピンク色のかわいいキャラクターが描かれたカバーを着た、軽い羽毛の掛け布団が、あっちへ、こっちへ。めくれたり、戻ってみたりを繰り返している。暑くて寝苦しいだけかと思ったが、そうでもない。何か〝やらなければいけない事〟があるような気がして落ち着かない。
「秋…、今日も闘ってる? あーもうっ…!」
澪は勢いよくガバッと布団をめくり、起きた。白いTシャツと少しモコモコとした短パンルームウェアの
「お父さん? どうしたの?」澪より先に鍛冶場にいたのは、澪の父––––
「お、澪。やっぱり起きたんだね」
「え? 私が起きるの、わかったの?」
「今、澪が起きなかったら、澪は僕の血を引いていないことになるかな」
「どうゆうこと?」
「ザワザワ、するだろ?」
「え? うん……なんか、すごく」
「刀の
「刀の…こえ?」
要は、綺麗に磨いた緑色の石を小さな
「…ん? それ、なに?」
「
「秋と、かすみさんでしょ?」
「そうだよ。そして、秋くんが持っている刀は、
「妖刀?」
「そう、妖刀。妖刀はなぜ妖刀と呼ぶのか、わかるかい?」
「…呪われてる…とか?」
要は「あっはは」と軽く笑ってから、すぐに真剣な顔になり、澪の目をまっすぐに見た。
「生きているんだ」
「生きてる? 刀が?」
「そう。生きてる」
「いくらなんでも、それはないよ…」
「秋くんの刀はね、平安時代から振られている刀なんだ」
「そんなに昔から?」
「うん。普通の刀だったら、欠けて研いでを繰り返していたら刀身が
「そう…なの?」
「妖刀はね、
「うそ…」
「ホントだよ。じゃなきゃ、あの刀に秋くんの命を
要は、右手に緑色の石が入った
「それは?」
澪はコンパスの中を覗き込んだ。コンパスの中には〝
「よく見ているんだよ、いいかい…」
要はコンパスの丸いガラスの
「え…なにこれ…」
目を丸くする澪にしっかり見せるようにして、要はコンパスをゆらゆらと揺らした。コンパスの中の玉は
「この玉はね、秋くんの刀を研いだ時にこぼれた、
「つまり…秋の刀の〝カケラ〟みたいなもの?」
「そうだよ。このカケラは今、秋くんの刀に戻ろうとしている」
「…てことは、この玉が行きたがっている方角に秋がいるってこと?」
「そう。いいかい澪。
要との会話で、澪は今、自分がするべき事をなんとなく察しはじめた。「その玉に従って、秋くんの所に行きなさい」要に言われた澪はコンパスから目を離し、要の目を見つめた。ざわざわの正体––––それは、秋のところへ行かなければいけないと、本能的に感じていた胸騒ぎだった。この時、澪は、鍛冶屋の娘だから眠れなかったんだ…、そう思った。しかし澪の胸騒ぎの原因が、鍛冶屋の娘であること以外にもある——とういうことを本人はまだ知らない。
「こっちの、
「その中には〝
「ヒスイの
「緑色の石——ヒスイは、悪魔が特に嫌う〝緑の火〟を、少量ではあるけれど、その身に
「戦況が変わる? わかった! よくわかんないけど、教えてくれてありがと! 行ってくる!」
「うん。行っておいで」
澪は体で
澪が鍛冶屋になるか。
火守り人になるか。
それとも全く違う人生を送るか。
それは要の知るところではない。
要が
いずれにせよ、秋を支えたい——
そう澪が想うなら。
澪は成長をしなければならない。
父親としては「危ないところに行くな!」と言いたい。
しかし澪の人生の師としては。
澪の〝悪魔祓いを支える覚悟〟を、
要は育てなければならない。
「
様々な想いが入り乱れる自分の心を
刀闘記
~翡~
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