陰謀に吹かれ消えた炎
~火~
火が消え、結界の力が無くなった深夜の寺院。火の力が消え失せたのを
火が消えた寺院の本堂内で秋の父は、
悪魔を狩るには
しばらく彼の優勢が続いた。悪魔が全て斬られ、事態が収集すると思われたそのときだった。一匹の悪魔が、空から
悪魔は、寺院の
岩石の如く盛り上がる筋肉に覆われた、強靭な肉体。
この強靭な悪魔は、
今まで秋の父が倒したのは、ただ悪魔になっただけの人間、
悪魔は普段、
しかし上位魔が現れた場合は違う。上位魔の何に恐れをなすのか、下位、中位魔たちは上位魔の命令に従う兵士となる。
秋の父は上位魔の
まして相手が上位魔なら、なおさらだ。異能力の
「かすみ! 火を……、火を灯せ!」
彼は自身の負けを悟った。
力を振り
その時かすみは、ごく普通の妻だった。
神事など、したことも無かった。
秋の父、
かすみは、火が消えた
経は
「ハハハッ! ヨワイ! ヨワイナァ! なんだその、ナンダソノヨワイ、ヒ!」
後悔なのか、恐怖なのか、絶望なのか。この感情を言い現す言葉など無いのではないか。ただひたすら、火が灯ってほしい、その一心で経を読む。夫はまだ生きていると信じたい。
この程度の
高笑いをする上位魔に向かって、刀が弱々しく振りおろされる。突然だった。上位魔が足元を見ると、七歳の
「ナンダ? コノコゾウ……、ナンダコノコゾウ! ハハハッ!」
「秋!」
かすみは
「オマエの子? オマエの子だ!」上位魔がさらに高笑いをする。「コイツ、コロシタラ、オマエ、ドウナルノカナァ!?」
秋の小さな体は誰かに体当たりをされ、横に突き飛ばされた。秋が落とした刀を、
「かすみ……、やめるな! 経を続けろ!」と彼は叫んだ。
その一声で全ての力を使い果たした。息ができない。足に力が入らない。腕が痺れて、三半規管が暴れる。足元には大きな
手から落ちる刀。
かすみは泣いた。
叫んだ。
嫌だ、嫌だと。
何度も叫んだ。
経など読んでいられない。
かすみは秋に駆け寄った。
秋を抱きしめる。
秋の目をかすみの腕が
見てはいけない。
こんな
子供に見せてはいけない。
この子だけは絶対に殺させない。
食うなら私を食え。
殺すなら私だけを殺せ。
身長が二メートル以上ある悪魔に怒声をぶつける。
廊下を走る身軽な足音が聞こえる。
一秒。
悪魔の左手を短刀が斬り落とした。
短刀を手に駆けつけたのは、秋の祖父、
「ァァァッ! オマエ……、がァァアッ!」上位魔は呻き、騒ぐ。銀次はそのまま短刀を左胸に突き立てる。
「火が……、キエタノ……、ニ……」
肉体を失った
銀次はすぐさま
「なお! ねぇ……、なお、死なないで!」かすみは
膝が夫の血で真っ赤に染まってゆく。
「なお! なお! なお……」
かすみは、うつむく。
直之は、すでに事切れていた。
緑の火が完全に灯った。
これで悪魔は寺院に近づけない。
銀次は一旦経を止め、直之のそばに駆けつける。
「直之……、わしが
「なお……、ねぇ……、なお! 起きてよ。ねぇ…」
かすみは、夫の肩をゆすった。
泣き声が
その
残酷な光景を、幼い瞳に強く焼き付けた。
刀闘記
~火~
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