2 成瀬秀明の場合①

「すみません。私の要領が悪くて、成瀬さんにも迷惑をかけてしまって」

「大丈夫。あとは僕がやっておくよ。また、困ったことがあったらなんでも相談して」

スマイル、スマイル。いつだって気持ちよく仕事をしたいからね。部下のミスをカバーするのもリーダーである僕の大事な仕事だ。


 プルル……。

「はい! T&Yカンパニーです! 」

なんで受付の齊藤はいつもいないんだよ。もう今日だけで5回目じゃないか。与えられた役割はきちんとこなさないとダメだぞ。リーダーとして、やる気のない人は見過ごせない。

「……いやいや、それはそちらの……、いえ、はい。わかりました。どうぞよろしくお願いします。すみません。どうもありがとうございます。」

技術部門の「仲田」と名乗る者からの電話だった。ったくなんだよ、あの上からの態度は。こっちは丁寧に聞いてんだから、そっちだってそれなりの対応してもバチはあたらないぞ。腹の立つ電話にも、決して不快感を見せないのがマイルールだ。そう自分に言い聞かせ、気持ちを落ち着けながら早速社内システムで仲田の役職を検索する。なんだ、再雇用のおっさんか。再雇用のおっさんは、やる気がなくて使えないと僕は勝手に認定している。


 ああ、またアイツか。事務室にパチパチと爪を切る音が響く。その音は、周波数3000Hzくらいの不快感である。戻ってきた齊藤が早速やり始めたのだ。ここは君の家ではない。爪くらい自分のうちで切ってくるべきだ。これを容認していたのでは、職場の風紀も乱れる。今日こそはっきり注意しよう。だって僕はリーダーなのだから。

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