徒然なるままに

岡田 荀

1 齊藤奈々子の場合①

「齊藤さん、お客さん来てるよ」

「あ、はーい」

乾いた返事をしてスマホを机に置くと、受付担当の私は机に両手をついてゆっくり立ち上がる。

書類を受け取ったその流れで、

「山内さん、コレいいっすか」

「これって齊藤さんに確認までお願いしていいんだっけ? 」

目を書類落として、真顔のまま鼻から短い溜息をひとつ。

「それあーし担当じゃないんで」

愛想とか、「アナタ」には使わないから。

「そうなんだっ。ごめんね! 」

なーにヘラヘラ愛想笑いしてんだか。そういう偽善的なの嫌いだわ。


「齊藤さん、コレ確認まで頼むよ」

「あ……、わっかりました」

ちょっと間を作ることで担当は私じゃない感を出したけど、この人は鈍感だからやっぱ気付かないか。何度も言ってるけど、確認はあーし担当じゃないっつーの。でもこの人から嫌われちゃうと、この職場で積むんだよね。


 十年選手の私くらいになると、担当じゃないこの確認業務だって2分で終わる。慣れてないと4分はかかるし、抜けもあるからほんと使えない。空気読めないやつが多い。あぁ、仕事つまんねー。暇だし、爪でも切ろう。早く終わ……

「齊藤さーん!」

「あ、はーい」

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