第28話 リミットブレーク

 

 僕を引き留めたのは、蓮田さんだった。

 彼女は僕のお腹の辺りに手を回し、背中にびったりと体をくっつけてきた。

「もう魔術を使うのは止めて!もう自分を苦しめないで!」

 僕の胴回りを包む腕の力が、ぎゅっと強くなる。それだけではなく、蓮田さんは頭をがんがん背中にぶつけているらしく、その衝撃が伝わる。彼女は自分の膂力全部を使って僕を引き留めようとしているらしい。

 けれど、僕の怒りを内包させた害意は収まらなかった。

「・・・離してよ蓮田さん。僕はこいつらを殺すんだ」

「駄目、駄目だよ!もういいじゃない。もう止めてよ」

 僕は奴らとの距離を詰めようと直進しようとする。だけど、後ろに引っ張る力も強く、なかなか前には行けない。

「だけど!こいつらは蓮田さんや金森君を傷つけようとして、それでもいけしゃあしゃあと減らず口を叩くようなゴミみたいなやつらなんだ!こいつらを抹消するには、僕のレベル5のスクウォートしか方法が無いんだ!」

 初めて彼女に強い言葉を吐いた。だけど、彼女は密着させた体を離そうとしない。僕の速い鼓動に対して、彼女の呼吸はとてもゆっくりとしている。背中を通じて、それを感じた。

 蓮田さんの呼吸に引きずられて、僕の魔力がどんどんと体の中心の方に引き下がっていくのが感じられる。

「ねぇ、酒匂君!あなたずっと自分の魔力に苦しんできたんでしょう?私達にそれを話してくれたこと、とっても嬉しかった。私達もどうすればいいかまだよくわからないけど、一緒に歩いていく道を考えたいと思っている。それは金森君も一緒だよ」

 抱擁が一層強くなる。

 僕はいつのまにか立ち止まっていた。

「だからお願い!自分をもっと大事にして。自分の境遇に悲観して、投げやりになったら何もかも終わりだよ?私たちが付いているから―――だから人を殺すだなんて言わないで・・・」

 蓮田さんの優しい声音が、耳から僕の中へと滑り込んでくる。それと一緒に、嗚咽も聞こえた。

 内から湧き出る魔力のせいで未だに理性はあってないようなものだ。だけど、一つだけ理解できることがある。

 彼女は本当に僕を思っている。

 僕は高レベルMAPだ。誰もが僕を避ける。憐れな境遇だ、可哀想な少年だ、と思われている。だけど、ほとんどの人間は一時的にそう思うだけ。僕の置かれた立場を本当に考えてくれる人は、母や東雲さん以外にほとんどいなかった。

 だけど、蓮田さんや金森君は違う。

 相手を殺傷させるかもしれない力を内在していると知りながらなお、僕と共に歩もうとしている。破滅の道へ堕ちそうになった僕を、まっとうな世界へ引き戻そうとしている。


 もしもこの魔術を彼らに放ったら―――その先の事を想像した。

 事情が事情とはいえ、僕は人を殺めたという罪を負うことになるだろう。僕はこの街にいられなくなり、場合によっては塀の中にぶちこまれることすら有り得る。そして僕は僕を大事にしてくれた、母や東雲さん、金森君や蓮田さんを失ってしまうのだ。

 それを思うと、耐えられなくなった。僕のような人間でも親身になってくれる人たちを、悲しませたくはなかった。

 

 蓮田さんは僕を止めようと、まだ体をくっつけている。僕は滲み出した視界の中で胴回りにある彼女の手をぎゅっと握った。

「・・・ごめん、蓮田さん。ごめんなさい」

 気付いたら、僕は涙を流していた。今まで抑え込んでいた自分の感情が、堰を切ったように溢れ出した。泣いているのに、心がいつになく晴れやかで満たされている。こんなことはいつぶりだろうか。魔術エネルギーがどんどん消えていくのが分かった。

「僕は・・・僕は・・・なんてとんでもないことをしようとしていたんだ・・・」

「いいの。これからどうすればいいのか一緒に考えよう?私達も協力するから」

 体から一気に力が抜ける。僕は膝から崩れ落ちた。蓮田さんが体を支えてくれたので、地面に倒れこまずに済んだ。

 楠木や上村は僕らの様子を静かに見ていた。何かをしてこようという素振りはない。僕は僕で彼らに害を与える意思が無くなったと認識したのか、蓮田さんは僕から離れて足早に走っていく。その先には、僕が先程山沢に奪われたリストリングが落ちていた。恐らく、先程山沢を吹き飛ばした時に落としたのだろう。

 彼女はリングを拾い上げると、僕の目の前に来て力ない僕の腕にそれを巻いてくれた。彼女の手は傷だらけだった。そして、僕もまた血だらけだった。

 リストリングの効果は絶大だった。先程まで体の奥底から沸き上がり、僕を苦しめていた魔術エネルギーの疼きはあっという間に無くなった。

「ありがとう、蓮田さん」

「これでもう安心だね」

 弛緩しきった腕を持ち上げ、手の甲で涙を拭った。幾分か明瞭になった視界には、頬を赤くしながら笑う蓮田さんの綺麗な顔と、公園の外側にパトランプが明滅している背景が映った。数十分前、エクスプロードが街の中で破裂したこともあってか遠くでサイレンが常に鳴り響いていた。辺りを捜索していた警察が、事件の大元たる僕らを見つけてやってきたのだろう。

「た、助かったぁ・・・あはは」

 僕の腕を掴みながら、蓮田さんは力の抜けた声で笑った。


 公園の出入り口に、数台のパトカーが停車した。その中から、数人の警察官が足早に降車し、懐中電灯片手に公園に入ってきた。

「君たち!一体何をしているんだ!」

 警察官の表情は険しいものだった。ほぼ怒号に等しい声は、凄惨なこの場で妙に響いて聞こえた。何故僕らまで―――そう思ったけど、よくよく考えればそれは当然の話だった。少し前に駐輪場を破壊し、そして今は公園を破壊して多数怪我人が転がっている。こんな惨状に居合わせている若者に対し、今まさに到着した警察官が善悪や過失の差異を判断することなんかできないだろう。

 数人の警察官が、取り合えず目についた人間の元へ駆け寄っていく。そのうちの警察官の一人が、最もぼろぼろであろう僕らに駆け寄ってきた。

「君たち、大丈夫か?」

 若い警官のように見えた。ギラギラと鋭い光を放つ懐中電灯をこちらに向けながらも、どこか僕らへの心配を滲ませてたような声音であった。

「僕らはいいですから、金森君を―――あそこで気絶している彼を早く病院へ」

 金森君は先程から何も変わらず、数メートル離れたところで気絶していた。

 警察官は金森君を一目見ると、今一度僕の方を見た。

「だが、君の方が血だらけじゃないか!君こそ早く病院へ―――」

「だけど、彼は強い魔術を受けてしまって、さっきからずっと気絶しているんです」

「魔術―――そうか、それでさっきの爆発があったのか・・・」

「そうです。僕らはあいつらに襲われて―――」

 僕らが状況確認を進める警察官に説明をしている時―――その背中の方から骨の砕けるような鈍い音がした。

「ぐわぁ!」

 痛む体を動かし、僕はそちらを覗き込んだ。

 不穏な音の出どころは、当然のように楠木及び上村からだった。

 今の状況はというと、血だらけになって地面に転がっている広瀬の顔を、上村綾音が無慈悲にも靴の底で蹴りつけている、という感じだ。

「な・・・ん・・・で・・・綾音ちゃん」

 蹴りつけられるたび、広瀬は上村に温情を与えてくれるよう懇願した。だけど、それが聞こえていないのか、あるいは無視しているのか、上村は無言のまま何かに駆り立てられるように広瀬の顔を蹴飛ばし続けている。

「君!やめなさい!」

 警察官の一人が強い語勢で制止しようとする。しかし、上村はまるでそれが聞こえていないかのように広瀬に暴行を加える。幾度か体が破壊されていく嫌な音が聞こえた後、上村は広瀬の手首に巻かれたラスト・ウィザードのリストリングを引き剥した。広瀬の手に金属製バックルの一部が突き刺さったまま無理やりに引き剥したため、広瀬の手首には痛々しい切り傷が刻まれ、大量の血が滴り落ちている。

「酒匂瑞樹!あんたが調子に乗っていられるのもここまでだ!」

 上村は広瀬の顔面を踏みにじりながら、リストリングを掴んだ手を高々と掲げた。彼女の手や服もまた血まみれだった。だけどそれは怪我をしているからではなく、広瀬から流れ出た血が付着した結果だろう。目を見開いて笑みを浮かべる上村は、まるで冷酷無比な鬼のように見える。

「今駿哉の魔術はレベル3なんでしょ?だったら、こいつのリストリングを追加すれば、駿哉はレベル5になる!あんたと対等に戦うことができる!」

 リストリングをぶんぶん振りながら、上村は喚き散らした。

 楠木達が付けているリストリングは、魔術レベルを2段階引き上げる効果がある。それを多重して身に着けることにより、楠木の魔術レベルを5以上にすることができる。理論としては間違っていない。

 言うまでもなく、危機的状況であった。

 上村はこちらへの威嚇が済むと、今度は顔面蒼白の楠木を睨みつける。

「さぁ駿哉!早くこのリストリングを付けろ!レベル5になって、酒匂瑞樹もろとも皆殺しにしろ!」

 自分本位な彼女らしく、上村は楠木に同意を得るでもなく無理やりにリングを付けようとしていた。

「おい上村!馬鹿な真似はよせ!―――ッ!」

 楠木がレベル5の魔術を制御なんかできるはずがない。そもそもあいつは、せいぜいレベル1程度のMAPなのだから。

 上村と楠木の愚行を止めるべく、奴らの方向へ走り出した。しかし、何故か異様なほど体が重い。走るために体を動かすと各部で激痛が走った。僕は駆けることもできず、よたよたと何歩か歩いてしゃがみ込む。

「酒匂君!駄目だよ無理しちゃ」

「君、無理するな!安静にしていなさい」

 蓮田さんと警官が脇に駆け寄ってきた。

 考えてみれば当然の話だ。僕は奴らに何度も痛めつけられて体全体に負傷を負っている。その上、僕の意思ではないにしろレベル5相当の魔力エネルギー解法を続けている。魔術を使うということは予想以上に体力を消耗する。怪我と体力の減少で、僕の体はもうボロボロだった。

 それを見て、上村はご満悦のようだった。

「あっはっはっは!酒匂瑞樹!あんたもういっぱいいっぱいじゃないか!ちょっと魔術ができるからって調子乗りすぎなんだよ」

 彼女はもう勝った気でいる。だけど、魔術を使う役の楠木は弱気だった。

「駄目だよ綾音ちゃん!リストリングはそうやって使うもんじゃない!そんなに巻いたら、俺は魔術を制御できねぇよ!」

 やはり腐ってもMAP。楠木は自分に制御できない魔術エネルギーを持つことがどれほど危険であるか、多少なりとも理解しているらしい。自分の腕を引き寄せて無理やりにリストリングを装用させようとする上村に必死に抵抗した。

「うるさい!一体誰のせいでこんなことになったと思ってんだ!責任を取れ!あいつらを殺して私を守れ!」

 いつものように上村は理性を失ったようだった。あぁなったら彼女の暴力は止まらない。楠木が否定の言葉を述べるたびに、容赦なく顔面や殴ったり体を蹴ったりした。力がさほど強くないであろう上村ながら、何度も何度も楠木を殴打を続け、楠木の顔は腫れあがり、口から血を吐きだした。

「やめて、やめてくれよ綾音ちゃん・・・」

 楠木は完全に弱腰になっていた。それに追い打ちを掛けるように上村が暴力を続けている。それに屈したのか、楠木は彼女に引っ張られるままに腕を露わにした。

「やっと観念したか・・・ホント、往生際が悪いんだから」

「やめろぉぉぉ!上村ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 僕は自分でもびっくりするくらいの叫び声を二人に放った。

 しかし、その声は届くことはなかった。

「これで!私の勝ちだぁぁぁ!」

 ようやく警察官たちが何となく要領を得て二人の元へ向かうも、もう手遅れだった。

 楠木の腕にリストリングが巻かれると、すぐに魔術の効果が発現した。

 公園の上空に、突如としていくつかの真っ赤なエネルギー体が現われた。それらは周囲に煌々と光を放ちながら横回転し、徐々に体積を大きくしていく。それと同時に次々にエネルギー体が集結していき、やがて一つの大きな火の玉を形成した。その火の玉は、つむじ風を引き起こしながらゆっくりと回転する。

 この光景は、見たことがある。

 東雲さんが砂防ダムでレベル5の魔術を見せてくれた時と酷似している。

 あの時はダム内に発射してくれたけれど、それでもあれだけの水柱が立った。

 それが空中で爆発したら―――冷や汗が一気に噴き出した。

「蓮田さん!伏せて!」

「え?」

 そのやり取りが終わり僕らが体勢を低くした直後、それは起こってしまった。

 エネルギー体は膨れに膨れ、遂に轟音を響かせて上空で破裂したのであった。

 その勢いは凄まじく、夜の闇に支配された空を真っ赤に染め上げた。鼓膜が破けるのではないかと思える音が聴覚を痛めつけた後、衝撃波と熱波が地面にいる僕らを襲った。火傷したり死ぬほどのものではなかったが、それでも近くにいた警察官の中には倒れこんだ人もいた。爆心地に近い位置にある住宅の屋根は吹き飛んだり、ガラスが割れたりしている。

 

 これは間違いがなかった。

 リミットブレーク―――最も恐れていたことが起こってしまった。


                    *


「うーん、むにゃむにゃ」

 公園のベンチで体を横たえていた金森君が、ぼそぼそと何かを言いながら目を覚ました。そこかしこで燃える炎に照らされる寝ぼけ顔は、何だか場違いだ。

「目を覚ましたんだね、金森君」

「酒匂君・・・蓮田さん・・・これは一体」

「楠木がリミットブレークを起こしたんだ」

 初めは何が何だか分からない様子であった金森君だったが、やがて周囲の非日常的な光景を目の当たりにし、驚いたようにはっと息を呑んだ。


 リストリングを巻いた楠木は、紛れもなくリミットブレークを引き起こしていた。制御不能となったエクスプロードの力は、次々に爆発を引き起こした。

 その爆発は公園内のトイレや遊具を破壊した。吹き飛んできた瓦礫や鉄骨に当たらないように逃れるのが精いっぱいだった。それだけではなく、公園入口に停車していたパトカーも爆発に巻き込まれてひっくり返ったり、近くの民家に突っ込んでいるのが見えた。爆発が起こった場所では火災が起こり、地面や木々を容赦なく焼いている。公園を破壊していく炎の乾いた音と公園の近くまで来た大量の緊急車両のサイレンがないまぜになり、混沌とした雰囲気を作り出していた。

 この場所は一時的に避難してきた場所で、爆発が巻き起こる中心地に楠木と逃げ場を失った上村の姿がちらちらと垣間見えた。


「まさか、あの楠木が?」

「そうだ。上村に無理やりリストリングを巻かれて、限界を突破してしまったんだ」

「そ、そんなぁ・・・何か手は無いのかい?」

「今、県の魔術対策班がこっちに向かってるって。さっき警官の人が言ってたよ」

 各県には、魔術に絡んだ事件を専門に取り扱う対策班が県警本部に設置されている。普段は通常の警察官が対応するが、余程大きな魔術的事件が発生した場合は彼らが対応にあたる―――どこかでそんな話を聞いたことがある。

 僕らが一時避難してきた場所には、先程の若い警官もいた。これだけ連続的に爆発が起こっている状態ながら冷静なもので、先程から無線で何やら会話をしている。

「そっかぁ、それじゃあ安心だね」

 金森君が安堵の表情を浮かべた。やがて警官も無線での会話を終え、こちらに走り寄ってきた。だが、表情は険しい。

「警官さん・・・魔術対策班は、どれくらいで来るんですか?」

 蓮田さんが警官に問いを投げた。

「魔術策班は、杜山市の県警本部から今出発したところらしい」

「県警本部って・・・そんな!県警から藍沢市まではどんなに急いでも二十分はかかりますよ!その間にこの一帯は全部焼け野原ですよ!」

 魔術を専門とする人間が対策に当たってくれるのであれば、安心であろう。安易にそう思っていた。だけど、あまりにも時間がかかりすぎる。

 僕は柄にもなく熱くなっていた。それに応えるように、警察官の声も鋭くなった。

「君たちの懸念はよく分かる!分かるが・・・現状、リミットブレークを起こしたMAPを鎮めることができるのは彼らしかいないんだ!我々は、それを待つしか術がない」

「そんな、それじゃあ彼や、周りの住宅地に住んでいる人や家も、見捨てるしかないということですか?」

「・・・少しでも被害や死傷者を少なくする。それが我々の警官の務めだ」

 警察官は拳をぎゅっと握りしめた。

 僕らの問いに明確には答えは無かった。言うなれば、それが答えみたいなものだった。多少の被害や犠牲はやむを得ないというのが警察の見解なのだろう。実際、警察はと言えば、爆発が激しい公園の外縁に集まり、避難を急ぐ人々の誘導や物見遊山の野次馬達を追い払うことに腐心している。当たり前だが、楠木の暴走を止める動きは今の所見受けられない。

 もちろん、この人だってこの状況をどうにかしたいという気持ちで溢れているに決まっている。だけど、魔術を持たない人間がMAPを、ましてやリミットブレークを起こした人間をどうこうしようだなんて無謀以外の何物でもない。楠木は今歩く災害そのものだ。向う見ずに突っ込んだところで瞬殺されることをよく理解している。だから、右も左も分かっていない僕ら高校生にここまで言われても動くことができないのだ。

 そのうちに、警察官の無線に連絡が来た。二言三言でそれに応答すると、彼は僕ら三人を見た。

「すまない!俺は別の所に応援に行かなければならない!いいかい?君達はこの避難する人達と同じ方向に、焦らず進みなさい。後日、藍沢中央警察署においで。話を聞きたいから。それじゃあ!」

 早口に告げると、警察官は避難する人々とは逆流するようにどこかへ走り去っていった。

 この間にもエクスプロードによる爆発の範囲はどんどん広がっていく。空を覆うほどの爆炎が上がったかと思えば、火の粉となって降り注いで森を焼いた。楠木は自制ができず、熱い助けてくれと喚き散らしながら公園の外へと向かっている。このままでは住宅街にまで被害が及びそうだ。近隣の防災無線からは繰り返し近隣住民への避難が叫ばれているが、この短時間でまるまる全員避難させるなんて無理だろう。現に、住宅街の奥の方からまだまだ人や車がわいて出てくる状態なのだ。その間に公園の外へ楠木が飛び出したらおしまいだ。

「ねぇ、酒匂君?大丈夫?」

 呼ばれているのに気付いた。

 僕の腕は蓮田さんに握られ、ぐいぐい引っ張られていた。彼女は心配そうな顔で僕を見ている。

「あ、うん・・・大丈夫」

「酒匂君!早く僕らも逃げよう?!爆発に巻き込まれちゃうよ!」

 金森君も僕に叫んだ。明らかに気もそぞろだ。

 

 僕は二人が気になりながらも、轟音と炎に包まれる公園を見た。

 公園を焼く爆発と、それに照らされた人々の狼狽。

 それを見ているうちに、僕はある決心をした。

 レベル5に対抗するには、レベル5しかない。

「金森君、蓮田さん・・・僕はここに残る」

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