第26話 パンドラの箱
金森君を抱えたまま、蓮田さんは嗚咽を漏らしている。まだ息をしているようで長い周期で肺の辺りが微かに動いている。喫緊で死ぬということは無さそうだが、金森君は元々怪我を負っていた中であの凄まじい雷撃を喰らったのだ。早いところ病院に連れて行ったほうがいいのは間違いない。
もっとも、それはこの幾重にも立ち塞がる包囲網を首尾よく突破するという奇跡を成し遂げた後の話であるのだが。
強力な魔力によってみるみるうちに窮状に追い込まれる僕らを、楠木と上村は余裕たっぷりで眺めている。
「あははは、相も変わらず美しい絆じゃないの!そんなことをしている場合じゃないだろうにさ」
「仕方ないさ、あいつらは仲良しごっこしていないと生きていけない、憐れな存在なんだよ」
僕は大きな絶望感を感じていた。
MAPとして、目前の脅威であるレベル3のMAPである広瀬、山沢を無力化し、その奥に控えている同じくレベル3の楠木を倒し、上村以下手下達数人をまいて、金森君と蓮田さんを安全に逃がす。
僕は最低でも今からこれだけのことをやらないといけないのだ。満身創痍で、レベル1に魔力が制限されているこの条件下でだ。
どう考えても不可抗力だ―――僕のぼんやりとした頭は一も二も無くそういう結論を弾き出す。それは決して怪我だらけで思考がネガティブ志向になっているからではない、客観的に状況を判断してやはりそう思うのだ。
だけど、それでも抗わねばならない。
何としてでも、僕は大事な友人を守る。彼らは、僕を暖かく受け入れてくれたのだから。
痛みを耐えて、自分の体に立ち上がるよう命令を出す。それを受けて、限りなく鈍足なスピードでよろよろと僕の体が立ち上がる。自分でも何でこんな怪我だらけの状態で立っていられるのか不思議でならなかった。
すっかり戦勝ムードの一団の中から、腕を絡ませた上村と共に楠木が進み出て、広瀬や山沢と横にやってきた。
「おい楠木、これからどうすんだよ?」
山沢が楠木に声を掛けた。
「MAPがいるから注意しろって言ってたけどさ、全然弱いじゃん。手応え無さ過ぎて笑えるわ」
広瀬や山沢は僕を蔑んだ目で見つめながら半笑いしている。
彼らは僕らの生死を掌に乗せてころころと転がしている。命という硝子玉に何もしないか、あるいは壁にぶつけて粉々にすかは、こいつら次第だ。
「そうだなぁ、一応手堅く事を進めるつもりだったんだが、ちょっと心配しすぎたかもな」
広瀬や山沢の間で小さな笑いが起こる。
「心配しすぎだろ?相手はレベル1一人と魔力無しが二人。それに対してこっちはレベル3が三人もいるんだぜ?相変わらず臆病なんだから」
「うるせぇよ。でもまぁ、もうやっちゃってもいいかもなぁ。あんまり長引くと下手したらサツが来るかもしれないしな。ね、綾音ちゃん、別にもういいよね?」
「うん!私、もう飽きてきちゃった!さっさと終わらせて遊びに行こうよ」
上村綾音は楠木のごつごつとした指に自分の指を絡ませ、甘ったるい声で言った。
「オッケーオッケー、綾音ちゃんがそう言うんだったら決まりだな」
楠木は広瀬と山沢に目で合図を送る。いよいよ、僕らを始末する段階へ移ろうというのだろうか。楠木と山沢が僕たちへと歩み寄る。
「楠木、ちょっと待て」
「ん?どうした?」
掌に魔術エネルギーを集め始めた山沢に対し、広瀬は幾分か低い声で楠木を呼び、不気味に顔をニヤつかせる。
「一思いに殺すのは簡単だけどさぁ、俺はお前らがイチャコラしてるの見てムラムラしちまったよ。このやるせない気持ちをどうしてくれんだ」
「おいおい何だよ、俺が綾音ちゃんとラブラブだからって僻むなよ」
「そうだよ広瀬君。ただでさえ非モテなのに、そんなんじゃもっとモテないぞ!」
一層体と体を密接にさせた楠木と上村。その様子に対して傍らに女の子の一人もいない広瀬は、少しばかり気を悪くしたらしい。小さくではあるが、舌打ちをした。
「そんなんじゃねぇよ。ま、確かにお前らにはいささかむかっ腹が立つが、それよりも―――」
広瀬はくるりとこちらに振り返るなり、人差し指で蓮田さんを指さした。
「こいつらを殺す前に、この女は俺の好きにさせてもらうぜ!それくらいはいいよな?」
猥雑な目線が、怯え切った蓮田さんの体を下から上まで舐め上げる。奴を一目見ただけで、この男は性欲の捌け口を常日頃探しており、そして不埒な欲求を満たすため蓮田さんに非道なことしようとしているがすぐに分かった。
「いや、いやだよ・・・そんなの」
蓮田さんも何となくそれを理解したらしく、自分の腕で自分の体を抱きながら、力ない声で首を小さく横に振る。
彼女が嫌がっているのを無視して、楠木は広瀬の体をポンポンと叩く。
「お前、こんな堅物女が好みなの?こいつ学級委員してるからガタガタうるさいし、面白味もないよ?性癖歪んでるなぁ」
「いやいや、制服剥いだらいい体してるかもじゃん。結構かわいいし」
男同士の猥談に対して、上村は恥じらいも無く「やだぁ」と笑っていた。
「勝手にしろよ。ただ、やることやったらさっさと始末しとけよ」
「分かってるって!」
蓮田さんを自分の思いのまま弄んでいい言質を得た広瀬は、満面の笑みのままこちらへ近寄ってくる。
「なぁ君、俺と気持ちいいことしようぜ。ついて来なよ」
「いや・・・やだッ!」
抑えきれない笑顔を滲ませたまま、広瀬は蓮田さんへと近寄る。蓮田さんはしっかりと金森君を膝に抱えたままのろのろと後ずさる。
「待て・・・彼女に触れるな・・・!」
「あ?うるせぇよ」
足を引きずりながら彼女の側に行き、広瀬の卑劣な行動を阻止しようと試みたが、乱暴に胸をどつかれ、僕はあっけなく地面になぎ倒された。
僕の無様極まれり姿を見て、広瀬は冷たく笑みを零した。
「安心しろ。この娘を素っ裸にする前にお前は殺してやるよ。おとなしくそこで極楽浄土に行けるように念仏でも唱えておくんだな」
「くそぉ・・・だ、駄目だぁ・・・蓮田さん・・・」
広瀬が僕を睥睨した。目標とする敵対物を難なく撃破して勝ち誇る、勝者の目だ。
僕は何もできない―――大きな絶望と無力感が僕を襲った。
僕は高レベルMAPだ。だからこの強い魔力を隠しながら生きていくしかない。そんなこと、とっくの昔に決意したはずだ。だけど、それが今は鉛の足枷のように思えた。この強過ぎる魔力のせいで、金森君のように体を張って誰かを守ることもできない。蓮田さんのように傷つく人をいたわることもできない。
あちらこちら痛む体を酷使して、どうにか体を立ち上がらせる。しかし、僕がのろのろと動いていると間に、広瀬は蓮田さんの体から金森君を蹴飛ばすようにして剥がし、彼女のほっそりとした白い手を掴んだ。
「へっへっへ、捕まえた!」
「いやぁ、離して!お願い!」
「諦めが悪いなぁ、君はもう俺のモンさ。おとなしく俺の言うことを聞けよ」
蓮田さんの悲哀に満ちた叫び声が夜の闇に冷たく響いた。そんなことなどお構いなしに、広瀬は後ろから抱きつくようにして彼女の華奢な体を押さえつけ、グイグイと自陣側へと引きずる。蓮田さんは靴の底面を地面に擦り付けたりバタバタと暴れたりして何とか抗っているけど、今や性欲を拠り所にして突き動かされる悪漢広瀬の力にはどうやっても勝つことはできないらしい。
「蓮田さん・・・金森君・・・」
まともに立ち上がるのもそこそこに、僕は痛みを堪えて二人の名前を呼ぶ。当たり前のように、そんなことでは何も変わらなかった。金森君は打ち捨てられたように横たわったままだし、蓮田さんは今にも広瀬の手によって汚されようとしていた。
「ごめん・・・全部僕のせいだ・・・僕がこんな役立たずなばっかりに」
レベル5の魔力を持つがゆえに、僕は人目を避け、近寄ってきた人間とも十二分に距離を置いた。強大な魔力が人に害を与えるのを極度に恐れていた。
だけど、金森君と蓮田さんは、僕に優しくしてくれた。僕が高レベルMAPだと知ってもなお、僕に手を差し伸べてくれた。二人は僕の友人だと、今は自信を持って言える。
僕は二人を助けたい。たとえこの身が破滅したとしてもだ。
そうこうしているうちに、今度は僕の体が誰かに掴まれ、乱暴にそちらへ向かされた。眼の前には、エネルギー体を掌に宿らせた山沢の勝ち誇ったような顔がある。
「おっと、お前は今から死んでもらうぜ」
「く、くそ・・・」
もうこれまでか―――僕の中に諦念を帯びた思いが満たされる。だけどその一方で、かつてないほどの怒りが渦巻いている。
好き勝手やった挙句に停学になり、あろうことかそれを逆恨みして多人数で僕らに襲い掛かり復讐する。金森君を無惨にも打ち倒し、その上こいつらは蓮田さんの女の子としての尊厳すら魔術という圧倒的な力をちらつかせて踏みにじろうとしている。
それを、みすみす許して良いはずがない。
こんなところで、死んでたまるか―――これまで経験したことがないような生への渇望が、僕を満たしていく。
この時、僕の手から数滴の水が土の上に零れ落ちるのを感じた。ハッとして、僕はか細い意識を手先に集中させる。これはいつもの惨めな帰り道と同じだ。僕の中に内包された圧倒的な魔力が、体の外側に向かって顔を覗かせている。お前のやせ我慢などいつでも打ち崩して暴れることができるんだぞと僕を脅す。特に今は強いストレスに晒されて、恐怖や怒りが高い濃度で混ざりあった心情に違いないから、リミットブレークが近づいているのは明らかだった。
いつもであれば忌々しいこの魔力だが、今はまた別の考えが浮かんだ。
あるいは、この魔力を使えばこの絶体絶命のピンチから脱することができるのではないか―――。
しかし、僕は即座にその考えを否定する。
駄目だ、こんなところでレベル5のスクウォートを発動させたら、大きな被害が出るのは火を見るより明らかだ。それだけは絶対に避けなければならない。
かといって、他にこの危機を切り抜ける手段なんてあるのか?僕らを屠ることに大きな抵抗を感じていないこいつらに、できることはあるのか?
このままで、僕は二人を守れるのか?
視界の外れでは、広瀬と蓮田さんのすったもんだが続いている。遂に彼女は楠木や上村の配下である男数人のただ中に連れて行かれ、いやらしい視線に包囲されている。それでも広瀬のくびきから逃れようと泣きながら暴れているようだが、一向に逃げられる様子もない。
一体どうするべきなんだ―――僕は瀬戸際に立たされている。
「ん?お前・・・」
そんな時、山沢が僕の手首に目をやった。そして、その目はきらきらと光を帯びた。
「おいおい、ゴミクズのくせになかなか良いリストバンド付けてるじゃねぇか」
山沢の満面の笑みが眼の前に広がる。奴は僕の体力が限界なのをいいことに、腕を乱暴に掴んで自分の目の高さに持っていき、僕のリストバンドをとっくりと眺めた。
「やめろ、それは―――」
「なるほどな、こういうカラクリか」
「は?何のことだ」
山沢は眼鏡の奥でしたり顔をしてみせた。
「楠木と互角に戦えるMAPがいると聞いていたが・・・結局俺らと同じく魔力を増強していたってことかよ。せこい野郎だぜ」
山沢の眼鏡が、街頭の光に反射して怪しくきらめいた。
どうやらこいつは、このリストバンドが自分達が着用している魔力を増強するためのリストバンドの同類品だと勘違いしており、それのお陰でここまで自分たちに抗えたのだと勝手に決めつけたらしい。確かに、僕のリストリングを作っているメーカーは魔力抑制と魔力増強のどちらの商品もラインナップしている。奴がそう思ったのも無理がない。
「そうと分かれば、やることは一つだ!」
「おい!何をするんだ!」
「お前、そのリストバンドを俺に寄越せ!」
山沢は一旦蓄えていた魔力エネルギーを解除し、僕の腕から強引にリストバンド引き剥がそうとする。金属のバックルが手首に食い込む。僕は痛みに耐えながらそれから逃れようと試みる。
「や、やめろ・・・これは、魔力を抑えるためのリングなんだ。お前が思っているようなものじゃない!」
「はぁ?お前何を言ってるんだ!自惚れも甚だしい!少しはわきまえろ」
「違う、違うんだ」
「何も違わないだろ!それは俺のような強者にこそ相応しいもんなんだ!お前には分不相応なんだよ!」
リストバンドが欲しい山沢と、それを取られたくない僕は、当然のように揉み合いになった。僕は奴に掴まれた腕を振り払おうとして、右に左にと振り回す。しかし、山沢は僕のリストバンドを掴んで離さない。
「楠木にはかわいい彼女がいて、広瀬はあの女の子とこれからお楽しみだ。俺にだって少しくらい余録があってもバチは当たらないだろ!」
山沢は目を釣り上げて僕のリストリングを奪いにかかる。あの三人は皆平等だと思っていたが、実際のところ序列があるのかもしれない。その中で山沢は最も低い身分で、その腹いせも込めてこんなに必死なのかもしれない。
僕は何とか奴から逃れようとするけども、先程からのダメージがかなり効いているらしい。意識がぼんやりとして動きが緩慢になり、その間隙を狙って山沢は僕の腕をがっしりと捕まえて、自分の方へと引き寄せる。
「やめろ・・・やめてくれよ・・・!」
僕の抵抗は何の意味もなく屈服させられ、遂に山沢は僕の手首から魔力抑制用のリストリングを奪い取った。そして、僕の体は奴の靴の底で蹴りつけられて吹き飛んだ。またしても、硬い地面が体を打ち付ける。思わず変な声が出た。手首は揉み合いのせいで、バックルの形に血が滲んでいる。ひりひりとした痛みも感じる。
「へっ、手間を取らせやがって。というわけで、このリストバンドは俺がいただく。これで俺の魔力もより強くなるってもんだぜ」
意識のぎりぎり外縁で、山沢が弾んだ声で軽口を叩いた。思わぬ戦利品を手に入れて機嫌が良さそうだ。
リングを奪われた影響はすぐに現れた。
心臓の辺りから、何か熱いものが堰を切って流れ出すのがはっきり判った。その濁流とも形容できる荒れ狂う波は体の中心から肢体へと流れていき、疲弊しきった体全体を満たして、留まることなく膨張していく。
手の先から何かが迸り出そうな感覚を、歯ぎしりをして堪える。それでもなお、僕の手からは絶え間なく水が滲み出てきて、土の上へ落ちていく。
この体の中を巡る危険な感覚は―――間違いなく、魔術能力テストで最大火力の魔術を使う時と一緒だ。
駄目だ!堪えるんだ!
「ぐぅぅ・・・くそぉ・・・」
僕は地面に四つん這いになり、爪が掌に食い込むほど握りしめた。力を入れたせいか、腕の切り傷がひとしきり痛んだ。しかし、それすらも気を紛らわすちょうどいい刺激だった。だけど、いくら我慢したと言っても限界は来る。魔力が今にも溢れ出そうだ。破裂しそうな強いエネルギーを抑えるため、必死に堪える。
「う・・・うぐぐ・・・」
歯を食いしばる。喉の奥からおかしな音が漏れ出てくる。
「おい、一体どうしたんだ?」
もう自軍の勝利を確信したのか、楠木と上村が仲良く手を繋いで山沢に呑気な声を投げた。そして、僕の様子を見て不思議そうな顔をしている。
「いやわからねぇ。俺がこいつのリストバンドを取った瞬間にこんな塩梅さ」
にたりと笑いを浮かべると、山沢は楠木たちの方に僕のリストリングを掲げて見せた。
「そんなことよりこいつ、俺らと同じで魔力を増大させるリストリングを使ってやがったんだ!楠木、お前が手こずっていた理由も、どうやらこれらしいぜ!」
「ははーん、そうかぁ!あんた、山沢君にリストリングを取られたのが余程悔しいんだ。そんなにとり乱すなんて、ママに買ってもらったんでちゅか〜?」
楠木の腕に絡みつきながら上村も僕を嘲笑する。
しかし、楠木はどうも様子が違った。
「ん?お前、そのリストリングって―――」
楠木が僕のリストリングを見て、何やら考えを巡らしているようだ。
息も絶え絶えに魔力の暴発を堪えていると、今度は広瀬の側で蓮田さんの悲痛な声が上がった。
「いやぁ!やめて!触らないで」
あまりの悲鳴に、楠木たちもそちらを見る。僕も悲鳴が聞こえた方を見た。
蓮田さんは、背面からがっちりと広瀬に拘束されていた。浅黒い腕を彼女の肩の辺りに回し、逃げ出さないように押さえつけている。蓮田さんは自分を締め上げている腕を両手で掴み、引き離そうと暴れているが、やはり広瀬の支配からは逃れられないらしい。広瀬は彼女の自由が利かないのをいいことに、もう一方の空いている方の手で制服越しに彼女の体をべたべたと触っている。
「うひょお!やっぱりいい体してんなぁ。最高だぜ」
「いやぁ!やめてやめて」
自由が利かない蓮田さんを、周りの男たちは完全に性欲の捌け口として眺めていた。下劣なことに、広瀬は自分の体を蓮田さんの体に押し当てている。奴は恍惚の表情を浮かべている。
なんて野蛮で不潔な奴だ―――怒りが一層深くなる。それに呼応して僕の中で暴発しそうな魔力も大きくなる。
「あはは!広瀬!お前そんなに溜まってたのかよ。さっさとやることやってすっきりしとけよ」
「蓮田陽菜!さっさと諦めて冥土の土産に初体験しちゃいなよ」
楠木、上村は今まさに犯されようとしている蓮田さんを煽った。
許せない!
あいつらだけは、許せない!
「きゃあああ!助けてぇ!こんなの嫌だ!」
「おいおい、いい加減にしとけよ。早く俺に抱かれると言えや!」
「嫌だ嫌だ!あなたとそんなことしたくない!それだったら死んだほうがマシだよ!」
今や蓮田さんは悲鳴を上げていた。彼女にしては珍しく冷静な心を失い、半乱狂になっていた。
いつまでたってもおとなしく自分に隷属しない蓮田さんに対して明らかに広瀬は苛立っていたのだが、遂に奴の怒りが臨界点を越えたらしい。
「うるせぇ!静かにしろ!」
広瀬は今まで背中の方から押さえつけていた蓮田さんの体を自分の正面に向かせた。そして、涙で腫れた蓮田さんの顔を、思いきり殴りつけた。
僕は頭が真っ白になった。
肌越しに骨と骨がぶつかり合う鈍い音がして、彼女の体は宙に浮かんだ。今まで叫んでいたのが嘘のように、何も叫びを上げずに蓮田さんは地面に容赦なく落ちる。
「いつまでも我儘を言ってんじゃねぇよ!てめぇは俺のおもちゃになればそれでいいんだ!」
あまりにも非道過ぎる。
体の中で、魔力を抑え込んでいた何かが吹き飛んだ気がした。
「その子に、手を出すなぁぁぁぁ!」
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