終わりの光線銃
ヤマシロは、ヒサヒデの攻撃を、右に左に飛び跳ねてかわしている。
「にくじゃがにくじゃがあああああ」
ヒサヒデはまだ肉じゃが呼ばわりされたことを怒っているようだ。
「・・肉じゃがよばわりしてすまん」
ヤマシロが素直に謝った。
「にくじゃが?」
ヒサヒデは動きを止めてヤマシロの顔をうかがっている。一応、謝罪を受け止めるだけの理性は残っているのだろうか。
「肉じゃがに失礼だった。お前なぞ肉の塊に過ぎないな」
ヤマシロはぼそりと言った。
「に、く、じゃ、がああああああああ」
言葉の意味は解しているらしい。ヒサヒデは頭を上下にぶんぶん振ると、膝を曲げて飛び上がった。
「・・悪ふざけがすぎたか」
ヤマシロはそう言うと、後方にとんぼ返りした。
直後に落下してくるヒサヒデ。
もはや着地姿勢のことになど構っていないのか、膝から落ちてきた。
床に大穴が空き、ヒサヒデがめり込んでいる。
ヤマシロはこれを好機とみて、その頭部めがけて斬り込んだ。
太刀は、額に切れ目を作るはずであったが、肉に到達する前にヒサヒデの左手に止められてしまった。たった指二本での制止であった。
「名実ともに化け物じゃのう」
その様子を見ていたカモイが評した。
いまや召喚書は、ビョウブの左腰のホルダーに収まっており、ビョウブは両手で光線銃を握っている。
照準を正確に取りたいというわけではない。
銃口の赤い溜まりが大きくなってきた為の止む無しであった。
すでに赤い溜まりは人の頭ほどの大きさになっており、はちきれんばかりにプルプルと震えている。
「もう、そろそろ、いいですか、じいちゃん」
ビョウブが腕を振るわせながら聞いている。
無論、光線自体に質量があるわけではない。赤い溜まりがどれほど大きくなろうが、質量自体はほぼゼロである。
しかし、赤い溜まりの状態を維持することには相当集中力を要した。
普通に引き金をひけば、一瞬で光線が吐き出されるところ、微妙な引き金加減で、溜めに移行させているのだ。もはや発射行為というよりも、創作行為に近いとビョウブは感じていた。
熱したガラスに息を吹き込み、自由自在に形作るガラス職人。今のビョウブはそれに近い。
「正直、わしもようわからん。思うように撃て」
頼みのカモイもこの調子だったので、ビョウブはこのシリアスなシーンに少し笑えてしまった。
祖父が死んで、仇討ちが始まって、刺客と戦って、音楽一座と旅して、
ここ数ヶ月、思い通りに事が進んだことなぞ全く無かったような気がする。常に状況に流され、状況に追われてここまで来てしまった気がする。
しかし、この状況は悪くない。無論、生死を賭けてはいるのだが、仲間とともに一か八か戦っているこの状況は、悪くない。
ビョウブはそう感じていた。
ビョウブは、両腕に力を込め直すと、ヤマシロに攻撃を続けている、この国の主に狙いを定めた。
片目を瞑って照星をのぞき込む。
いつもとは違う光線銃の感触に手を震わせながら、大きく息を吸って、そして止めた。
震えていた手がピタリと止まる。
ヒサヒデが照星の中央に収まった。
「これで・・・終わりだっ」
ビョウブは引き金にかけた指に最後まで力を込めた。
銃口の赤い溜まりに、最後の光線が加わり、溜まりは溜まりでなくなる。
それは赤い奔流となって一直線に飛び出した。
直径五十センチの赤い奔流は、真っ直ぐにヒサヒデへと向かう。
「な、な、んじゃあああああ」
咄嗟に両腕を交差させて頭部をかばうヒサヒデ。
しかし、赤い奔流は肉の障壁など全く意に介していないかのように突き抜けた。
ヒサヒデは断末魔をあげることも叶わなかった。
赤い奔流が抜けたあと、ヒサヒデだったものは、胸から上を失い、後方へと倒れこむと、ガラスが割れるように全身が砕けてしまった。
「・・やったか」
ヤマシロが声を出した。左腕がむき出しになり、肩からかなり出血している。ヒサヒデの猛攻を耐え抜いた証だ。
「は、ははっ。ははははっ」
ビョウブは笑い出した。
「おいおい、ビョウブ、大丈夫かい」
カモイが心配して声をかける。
「やった。やったよ、じいちゃああん」
ビョウブは光線銃を右手から消すと、ホルダーから召喚書を取り出した。
「まことにあっぱれ。さすがわしの孫じゃわい」
カモイも喜色満面の笑みを浮かべている。
ビョウブは、思わず召喚書を抱きしめていた。
それはただの紙束のはずだったが、少しだけ、祖父のぬくもりを感じた気がした。
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