塊と光線銃
「騎士団の紋章・・」
コーエンが呟いた。
ビョウブだけではない。その場にいた全員がその嫌な予感を共有していた。
「あらあ。みなさん、顔がひきつってますよぉお」
ヒサヒデはからかうような口調で言った。
「では、ごたいめええん」
ヒサヒデが今度は左手の指を弾いた。
棺の蓋と四方の板が弾け跳んだ。
中から現れたのは、巨大な両手剣を胸に抱き、フルメイルに身を包んだままの騎士。
サンジョウだった。
「ここでお願いでぇす。ビョウブさん、あなたの本を僕に貸してください」
「なんじゃと?」カモイが反応する。
「その本と、僕の薬、魔力があれば、ゾンビなんかよりももーっと活きのいいモノが作れると思うんだよねえ」
「どう、貸してくれない?そしたら、サンジョウくんだって元気に戻ってくると思うんだああ」
最後にヒサヒデはアハハと笑った。
「・・外道め」
ヤマシロが拳を固く握りしめている。
カモイも表紙で怒りを露わにしていた。自分の研究が、魔道の本分が、召喚術の有用性が、たった一人の男に汚されようとしていることに憤っていた。
「お断りします」
カモイが怒りをぶちまける前にビョウブが毅然として言った。
「あなたの非道に手を貸すつもりはありません。魔道は生活を豊かにし、人の未来を照らすものです。それをあなたは・・」
「あんらー。でも、ビョウブくんはその銃何に使った?人撃ったんでしょ?僕ちゃんの兵隊たくさん殺したんでしょ?ゾンビになっちゃった人も殺したんでしょ?人の命を奪っておいて、人の未来を照らすぅ???アハハハハハ」
ここま言うとヒサヒデは口を真一文字に結んでビョウブを睨みつけた。
「兵器なんだよ!魔道は兵器!召喚術は殺人術!どこまで行ってもそれは変わらねえんだ。使えるもんは使う。ただの人間も僕の薬と術があれば、立派に戦える。死んだ人間もまだまだ使い
ビョウブは奥歯を噛みしめている。
「なんだあい、言い返さないのかああい。僕の言うことが少しでも分かるなら、貸してよ、そのほおおん。ねええ、はやくうう」
ヒサヒデの言葉は甘い声に変わっている。
「・・いやだ!」
ビョウブが怒気を帯びた声を発した。
「あなたが何と言おうが、それは間違ってる。魔道は夢、召喚術は希望。人間の叡智の結晶だ。じいちゃんの召喚術をおまえみたいな奴には絶対に渡さない。お前に魔道を語る資格は無い!」
カモイはビョウブがこんなに感情を爆発させているところを初めて見ていた。
「なあんだ。結局は個人の魔道観に落とし込んでるじゃん。君の正義は君の正義。ボクの正義はボクの正義。人それぞれでしょおう。ボクに貸してくれてもいいのにぃ」
ヒサヒデは口をとがらせて首を振っていたが、突然、懐に右手を入れると、皮袋を取り出した。
袋はたぷたぷと揺れており、中に液体が入っているようだった。
「もういいや。やっぱり死んでみんな。あとから貰うわ、それ」
ヒサヒデは袋の口を縛っていた紐を緩めると、中身をサンジョウに振りかけようとした。
その刹那。
「させないっ」
コーエンが矢を放った。彼女の顔は紅潮し、目は怒りに燃えている。
矢は皮袋を貫き、そのままヒサヒデの左胸に突き刺さった。
「えっ?ええ?」
ヒサヒデの胸元がみるみる内に赤く染まる。
「死んじゃう?僕、死んじゃう?死んじゃう?」
ヒサヒデは口をパクパクさせている。そして、
「いやだああああああああ」
と、絶叫をあげると、胸元の矢にぶら下がっていた皮袋をちぎり取った。
そして、中身を飲み始めた。
「な、なにを・・」
カモイが唖然としている。
「うひ、うひひひひひひ」
飲み終わると、ヒサヒデは奇妙な笑い声をあげた。
そして、首を左右にひねり出したかと思うと、ぐるりと一回転させた。
「ひっ」
コーエンが短く悲鳴をあげる。
さらにヒサヒデの腕や胸、足まわりの血管が浮き出して変色し、だんだんと膨張し始めた。
その変態の様子をビョウブは呆然と眺めていた。この世の物とは思えない光景だった。いや、この世にあってはならない光景だった。
最後に、ヒサヒデの頭部が膨らみ、通常の二倍の大きさになったところで変態は止まった。
「うひひひひひひ。お前達のせいだよ。お前達がボクをこうしたんだあああ」
たしかに、ヒサヒデの身体は変わり果てていた。
全身は内出血を起こしたかのように皮膚が青黒く変色し、血管が浮き出ている。
腕や胸、足といった部位は元の二倍ほどに膨張しており、ヒサヒデはいまや三メートルはあろうかという大きさになっている。
ただそれは、巨人というよりも、巨大な肉の塊という形容が正しいように思えた。
「みにくい、醜いなあ、この身体は」
ヒサヒデは手や足を動かしては、新しい身体をなめるように見つめている。
「でええもおおお、力が
ヒサヒデは咆哮した。
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