対面と光線銃
すでに闘犬亭の前には馬車がつけられておいた。
ビョウブ達は身支度を整えると、馬車に乗り、城へ向かった。
「どう考えても罠じゃろうのう」
馬車に揺られて城へ向かう道中、ビョウブの手元からカモイが喋った。
「・・うむ」ヤマシロは静かにうなづく。
「そうね。間違いないと思うわ」
「にしては、お主等落ち着いておるの」
「だって、この状況下ではこれ以上にしようがないでしょう」
「・・うむ」ヤマシロは再び静かにうなづく。
「むしろ、王に会えるチャンスを得られたくらいに思った方がまだ健全じゃない?」
「皆、前向きじゃのう。若さじゃのう」
カモイが変に話をまとめた。
たしかに刺客を差し向けてきた人物の呼び出しに応じるというのは、死地に赴くのと変わらないのかもしれない。
しかし、ビョウブも妙に落ち着いていた。サンジョウを死なせてしまったからだろうか。いや、正確ではない。
サンジョウを殺してしまったからだろうか。
手を下したのはコーエンだが、命を懸けて戦っていたのは皆同じだった。
サンジョウを殺した以上、もうあとには戻れない。行くところまでいき、やれるところまでやる。
ビョウブはそんな気持ちになっていた。
城に着くと、多くの兵士の出迎えを受けた。
そのまま捕らえられるか、戦闘になるかと身構えたが、前後を兵士に挟まれたまま、地下に続く階段へと案内された。
当然、謁見の間は地下などにありはしない。
コーエンは護衛の兵に行き先について何度も尋ねたが、要領を得た答えはひとつも無かった。
城の地下へと伸びる螺旋階段をひたすらに降りる。
「城にこんな場所があったなんて」
コーエンもこの場所の存在は知らなかったらしい。
十分ほど階段をくだって、目的地らしい扉の前に到着した。
着くや否や、護衛の兵たちは来た道を戻ってゆく。
扉は青銅製のようだが、ひどく古く、表面の被膜がぼろぼろと剥がれている部分もあった。
地下の湿気と相まって重々しい雰囲気をその場に垂れ流している。
両開きのドアの中央部付近には、獅子の彫刻が為されており、そこに口輪がぶら下がっていた。これを叩けということだろうか。
ビョウブが口輪を持って扉を叩こうとしたところ、中から声がした。
「入ってくれていいよ。鍵はかかっていない」
「王の声だわ」コーエンが言った。
どうやら本当に王のところへと呼び出されたらしい。
ビョウブは意を決して扉を開けた。
中は広大な空間だった。奥行きが三十メートル以上はある。
このような地下深くに、これだけの空間をどうやって作り出したのかはわからなかったが、王の権威を持ってすれば可能なのだろうか。
また、壁や天井からは煌々と光が発せられており、ここが地下室であるという息苦しさを全く感じさせない。
天井も高く、十メートル以上はありそうだった。
見渡すと、部屋の中央には本当に噴水が設けられており、その周囲には植え込みやベンチが並んでいる。
それだけ見ると公園のように感じるが、所々にビョウブの背丈よりも高い本棚がいくつもたたずんでいる。
そんな本棚の陰から男が現れた。
「コーエン、今回の団長の件、お悔やみを申し上げるよ」
ヨシノ=ヒサヒデ三世その人だった。
「はい、いいえ陛下。私が直接手を下したのです。恨まれこそすれ、同情を受ける余地は私にはありません」
「ハハッ」
「君は相変わらずだねえ」
王は乾いた笑いを洩らす。
「そちらが噂のビョウブ君かい?会えてうれしいよ」
王が近づき、手が差し出されたので、これに応じて握手をした。
王の手はか弱いがきめ細かく、まるで少年少女のような手だった。
「それから、そちらがカモイ師でいらっしゃいますか?」
王の視線はビョウブの左手に移った。
ビョウブは両手で召喚書を持つと、表紙を王に向けた。
「お初にお目にかかります。陛下」
正装に身を包んだカモイが
王は一瞬目を丸くすると、満足そうな笑みを浮かべた。
「話は本当だったんだね。すばらしい素晴らしいスバラシイよ、ビョウブくん」
王は急に大声を出した。
「君たちは失われた召喚術をこの現代に取り戻したんた。死霊召喚・・甘美な響きだ」
態度の豹変した王に三人は身構えた。
「ははっ。恐れることはない。死は誰にでも訪れる。それを制御しようとすることの何に恐怖を感じるんだい?」
王は一人合点したかのように話を始めている。そして、突然、右手の指を弾いた。
それを合図に広場の中央に設けられた噴水の吹き出しが止まった。みるみる水位が下がっていく。
噴水から水が完全になくなったとき、中から棺が現れた。
騎士団の紋章の入った黒い棺だった。
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