夜半の光線銃

 夜半、客室のベッドで寝ていたビョウブは外が騒がしいのに気付いて目覚めた。


 ビョウブの部屋は宿屋の二階にあり、窓に近づいて外を見下ろすと、いくつもの明かりが見えた。

 百人以上が、手に手に松明を持って宿屋の前に集まっている。囲んでいると表現してもいいかもしれない。


 松明を持った連中の中心に、フルメイルに身を包んだ巨躯の男が立っていた。

 巨大な両手剣を地面に突き刺し、その柄に両手を置いて、目線はこちらへ向けられている。

 サンジョウだった。


 明日会うはずの人間、松明を持った人だかり、宿屋の包囲。

 どれも尋常ならざる状況を指し示している。


 ビョウブが窓から離れて次の対応を考え始めたとき、ドアが開いた。

「すぐに着替えて。降りるわよ」

 それだけ言うとコーエンは隣室のヤマシロにも同じことを言いに行った。


 ビョウブは腰にブックホルダーを巻き付けると、召喚書を差し込んだ。

「嫌な予感がするのう」

とカモイが言った。それはビョウブも同感だった。

 部屋を出ると、ヤマシロが階段を下っていくところだったので、それについて一階へと降りた。


 すぐに玄関を叩く大きな音が聞こえた。

 宿の主人も起きてきていたが、コーエンに目線を送ると座り込んだ。この状況に震えているようだ。

 ビョウブらが三人で外へと出ると、ドアを叩いていたと思しき男も含め、取り囲んでいた者たちが半円状に、その場をはけていく。


 サンジョウが中心にいたことから、周りの連中は兵士かと思ったが、そうではないらしい。

 皆、平服で、男もいれば女もおり、下は十五、六の少年から、カモイくらいの老人まで様々な年齢層の者がいた。


 ただ、一点だけ共通していることがあった。


 目がうつろだ。


 その共通項はサンジョウにも当てはまっていた。


「サンジョウ様、これはどういうことでしょうか」

 コーエンが声を張り上げて言った。


 群衆を割って、サンジョウが歩み出てくる。両手剣が右手で引きずられている。


「・・コーエンか」

「サンジョウ様、これは・・」


 やにわに両手剣が投げつけられた。

 つかを軸に、回転しながら飛んでくる両手剣。


 ビョウブらはこれを避けると、それぞれの得物に手をかけた。


 ビョウブの口から術式が漏れ、右手に光線銃が召喚される。

 銃身が月明かりに照らされて、妖しく輝いている。


「サンジョウ様!?」


 サンジョウはコーエンの声を意に介している様子はない。静かに歩き出すと、宿屋の壁に刺さった両手剣を引き抜いた。

 そして右前に構えて、左足を大きく引いた。


「サンジョウ様!これは一体・・」


「嬢ちゃん。何を言ってもおそらく無駄じゃ。通常の精神状態ではない」

 カモイが声を発した。


 コーエンも薄々感じてはいたのだろう。すでに弓を手にしている。

 だが理性が、コーエンに呼びかけをやめさせないのだろう。

 コーエンが呼びかけを続けようと口を開けたとき、それを制するかのように、サンジョウが突如うなり声を上げた。

 ヒトというよりはケモノのそれに近いうなり声だった。

 それを合図に、周囲の人だかりが一斉に襲いかかってきた。


 見た目が一般市民であることに射撃をためらうビョウブ。

 その思いはコーエンとヤマシロにも共通していたようで、致命傷にならない部位を狙ったり、打撃技で相手を倒している。

 ビョウブもそれにならい、銃把で相手を殴り倒した。

 しかし相手の数に押され、三人が背中合わせに作る円は徐々に小さくなっていく。


 ついに三人の背中が合わさるほどに近づいたとき、

「・・ここでは不利だ。中に入ることを進言する」とヤマシロが言った。


 コーエンは返答するかわりに、群衆の上に向けて矢を放った。

 そして

「撃って」

と短く言った。


 ビョウブが言われるままに矢を撃ち抜くと、矢は中空で炸裂。大きな爆発が起こった。

 群衆に走る動揺。真下にいた者たちは吹き飛ばされている。


「・・ちょっと火薬が多かったかしらね」

 コーエンはごちたが、

「即興とは思えんコンビネーション。誠に素晴らしいぞ」

 カモイが手を叩いていた。


 三人は爆発の隙に宿に飛び込むと、扉を閉め、そこらにあった机や椅子でバリケードを築いた。

 すでに扉を叩く大きな音が聞こえている。


「楽しい籠城戦の始まりじゃな」

 カモイが呟いた。

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