都の光線銃
ラナの都へはきっかり十日で到着した。
道中、野盗に襲われることも、刺客に狙われることも、もちろん王国兵から戦いを挑まれることも無かった。
この国の旅の安全性を実感する、そんな旅であった。
都に着いたとき、太陽はまだ天高くあり、城下町の大門を守る番兵は、街へ流入する人々をさばくのに忙しくしていた。
ビョウブたち一行の順番が来たとき、コーエンが身分証と名乗りを発した。
番兵は一瞬怪訝な顔をしたあと、ハッとして居住まいを正して敬礼をした。
「お帰りなさい。コーエン様」
「任務ご苦労様」
コーエンは番兵に一目だけくれると、すぐに大門の中へと入って行った。
「嬢ちゃんは、軍の中でもかなり高い位置におるのじゃろうな」
「そういえば、階級とか、聞いてなかったですね」
「正直、興味無いからのう。ふぉっふぉっふぉ」
カモイは顎髭をさわりながら高笑いしている。
「ヤマシロよ、お主はなんか知らんのかい」
「オレは何も知らない。仕事以外のことはあまり興味を持たないようにしている」
「そうか、まじめじゃのう」
ビョウブは真面目ということとは少し違う気がしたけれど、ヤマシロらしい人間関係の
コーエンのあとを追って城下町に入ると、大きく開けた通りがまっすぐに延びている。
ここをひたすら直進すれば、城に行き着く、ラナの大通りだ。
首都たる街として、街の繁栄を主張するにはちょうど良い通りであるが、外敵からの防衛という観点からは三流以下だという見解もある。
城門さえ抜くことができれば、あとは障害物なく、通りを力押しできれば、城まで到達できてしまう。
無論、戦闘区域を予想しやすいので、通りに戦力を集中配備できるという利点もあるにはあるが、これはお互いに力押しをするという前提のもとにある防衛構想だ。
しかし通常、攻め手は「攻略するに足る兵力」をもって街に攻め入る。つまり、城門を破られて大通りで決戦している時点で、防衛側は戦略的に負けているともいえる。
この大通りで戦いが発生した時は、それは王国が破れる時なのである。
幸いにして、建国以来そのような戦いは起きておらず、ビョウブも大学に入って以来、何度かこの都を訪れては物見遊山している。
防衛云々を抜きにして、この街は国で一番、ヒト、モノ、カネの集まる場所だった。
現王、ヨシノ三世は、五年ほど前に王位を継いだ。
前王は民衆の信頼篤く、農業振興に特に力を注いだので、国内の生産力は向上し、人口の大幅な増加に繋がっていた。
ビョウブもいわばその世代である。
ただ、前王は教育や文化の発展ということにはあまり関心を持たなかったため、国民もあまり教育熱心とはいえない。
魔道大学まで進んだビョウブは、田舎町ではかなり特異な存在といえよう。
こうした反動からか、現ヨシノ三世は、音楽や芸術、学術、はたまた魔道に至るまで、文化振興へ手厚い支援を行っており、そうした趨勢は上流階級にも広がっている。
ある意味で、先日ビョウブたちが戦ったネヒコは、そうした魔道振興の極端な例かもしれなかった。
魔道振興の負の面とでもいうべきだろうか。無論、こうした論調はカモイが最も嫌うところではあった。
ビョウブらはコーエンに連れられて、宿に入った。
王国軍御用達「闘犬亭」。名前が勇ましすぎて一般の者は後ずさると噂される宿屋である。
「今日はここで宿泊。明日、サンジョウ様にお会いしていただきます」
「まだ陽も高いんじゃし、今からちょこっと会うわけにはいかんのかいのう」
「ええ。明日までお待ちください」
「そうかそうか」
旅の途中、コーエンは「城下町まで行けばわかる」と話していた。
一応、城下町に入り、通りを抜けて宿まで来たが、何かが分かる気配はない。問題が発生して王を止めるというなら、早いに越したことは無いのでは、とビョウブも思っていたが、そういうわけでもないらしい。
カモイは召喚書の表紙で首をかしげていたが、ビョウブも内心は同じ気持ちであった。
しかし、これ以上追及しても得られるものは無さそうだったので、大人しく宿をとることとなった。
そして、コマイ同様、事は夜に起きた。
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