旅支度と光線銃

 結局、ビョウブには王国の命令に背くことなどできるはずもなく、都へ行くこととなった。


 カモイは、そもそもビョウブには王国の命令を受けるいわれなどないし、ましてや従う義務など存在しないと抗弁したが、


「騎士団長の要請に従わないということも当然、可能です。あくまで理論上の話ですが」

 というコーエンの追撃を受けてあっさり折れ、

「では、義務を果たしたあかつきには、それ相応の謝礼を受けたいと思うのじゃが」

と方向変換した。


 当初の予定からして都へ行って、王国にモノを言うはずだったのだから、そのきっかけができたと思えば、受け入れられないこともないかもしれない、うーんどうだろうか、というような逡巡を経て、ビョウブも一応受容した。


 というか、こんなどこの馬の骨ともしれないような召喚術士の力を借りなければいけないという王国の状況にも不安を覚えた。

 ある意味で、国の現状を知る良い機会なのかもしれなかった。


 なぜ、ビョウブごときの助けがいるのかについてコーエンは

「サンジョウ様がそうおっしゃられたからです・・・私の考え?いいえ、私はどこの馬の骨とも知らない召喚術士なんて・・あら、失礼・・」

ぐらいの失礼なことしか話してくれなかった。


 今の状況で知りすぎるというのもよくないのかも知れず、少しバカになって現況を受け入れようとビョウブは思った。


 また、この話をずっと側で聞いていたヤマシロは、

「都行きはすでに契約に入っている」

と、カモイとの仕事の約束をきちんと守ることを言明してくれた。


 明らかに当初の仕事内容とは異なることになるが、それさえも受け入れてくれるようだ。

 ヤマシロのように仕事を仕事として割り切れる人間が、本当は強いのかもしれないとビョウブはこの時感じた。

 いずれにせよ、心強い味方がいてくれることは純粋に嬉しかった。


 コーエンの話を受けて、その日とその翌日は都行きの準備をすることになった。

 ここから都までは約十日の旅となる。

 コーエンはここまで一人で来たらしく、従者などはいない。

 旅費は国でもってくれるという話だったので、ビョウブは街で一番良い馬を二頭借りた。

 大して荷物があったわけではないが、乗り代われる馬を用意しておくことは、長距離の旅では重要なことだ。無論、金銭に余裕のある場合に限るが。


 旅の支度の中で新たな試みもあった。

 召喚書の腰部への装備である。

 これまで召喚書は光線銃を持っていない方の手、つまり、ほとんどの場合において、利き手と反対の左手に持っていた。

 もしこれが、体の一部に接しているだけで魔力の流し込みが可能になり、手から離すことができたならば、戦闘行動時においては大きく自由度が上がることになる。

 このアイディア自体は、ビョウブがカモイから訓練を受けた時には思い付いていたものだが、手以外では魔力供給が安定せず、うまくいかなかった。

 しかし、それも今のビョウブならば、と試みてみたところ、左腰につけたブックホルダーに召喚書を入れたままで、光線銃を召喚・発射することに成功した。


「もはや本いらずなのかのう。わしもいらんようになるかもな」


 カモイはそう言ってガハハハと笑ったが、ビョウブにはいまいち笑えない冗談だった。

 死んだと思った祖父に、どんな形であれ、再会できたのに、それをもう一度失うということは受け容れられそうも無かった。


「ぼくにはまだまだじいちゃんが必要ですよ」

「そうかそうか、祖父離れは遠いのう。がはははは」

 カモイは明るく笑っていた。

 

 ***


 準備が終わった翌朝、コマイの街を出発したビョウブたちは、堂々と街道に沿って進んだ。

 旅一座の用心棒として旅をしていたときは、いつ関所で声を掛けられるかと内心ドキドキしていたが、今回はその心配がない。

 それどころか、街道要所要所に設けられた関所や砦において、食事の支給や寝床の用意、歓待を受けることすらあった。


「コーエンちゃん、王国兵はいいのう。わしが若い頃はここまでではなかったぞい」

「ちゃん付けはやめてください。これは王が整えられた制度です。都からの伝達が速やかに触れ回れるようにと、整備されたのです」

「なるほどのう。それだけ聞いたら、悪い王には思えんのじゃがなあ。関所まわりの街も栄えとるようじゃし」

「たしかに、それはそうなのですが、王には少し・・」

 と、奥歯に物が挟まったような言い方をコーエンはした。

 いつもの鋭い切れ味の物言いはどこ吹く風だ。


「とにかく都まで、城下町まで、行けば分かっていただけると思います」

 コーエンはやや俯き加減にそれだけ言うと、先頭に出て早足で馬を進めだした。


 その背に、焦りのようなものをビョウブは感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る