#09 王国と光線銃
高飛車と光線銃
ネヒコの絶命とともに、二頭のケルベロスも露と消えた。
戦闘中だったヤマシロとコーエンは、目の前の敵が消えたことに関して、何らかの策略を疑ったようだったが、天を仰いで倒れているネヒコを見て、その疑念を捨て去った。
「本当にその銃だけで勝ってしまうなんてね」
コーエンは額の汗をグローブで拭いながら言った。
「・・見事だ」
ヤマシロは片手で刀を素早く振って、油のような魔物の血を落とすと、鞘に納めた。
ビョウブはその場にへたりこんでいる。騎士団長と戦って以来の疲弊具合だった。
「光線銃の性能もさることながら、見事な腕前じゃったのう。ビョウブ」
左手付近に置かれた召喚書からカモイが声を発している。
「わしが訓練したのはたった三ヶ月じゃから、その後の実戦経験がモノを言うたんかのう。すばらしい上達ブリじゃ」
カモイは表紙で腕を組み、何度もうなづいている。
「三ヶ月!?」
これにはヤマシロとコーエンの声が揃った。
通常、三ヶ月といえば、一般人が兵士になるための基礎中の基礎訓練だけで終わる期間である。その間に行われることは、ランニングと筋トレと隊列を組む訓練だけであり、剣や槍、弓に体術といった武術の実戦訓練はその後の話である。
「ま、まぁ、召喚術だし、まして異世界の物質みたいだから、そんなこともあるのかしらね」
コーエンはやや現実を受けいれ難いようだ。これが本当にコーエンの言うように、異世界武器だけの効果なのか、それともビョウブ自身の抜きんでた実力によるものなのか、それは定かではなかった。
ただ、ナントの街からここまでの戦績を見ても王国内で群を抜いた結果を残していることは明らかだった。
「光線使い」の異名はさらなる畏怖と驚きをもって広まることになるだろう。
コーエンは、少し考えるような素振りを見せると、軽やかに跳躍して路上へ降りてきた。
「ネヒコを止めるのが仕事だったんだけど、この状況なら、あなたに頼めるかもしれない」
コーエンは弓を背に掛けた。
「いえ、あなたにしか頼めないかもしれないわね」
独り言のように話すと
「王を止めるのを手伝ってほしい。サンジョウ様に力を貸してほしいのよ」
そう言われてビョウブは、へたりこんでいる上に腰が抜けてしまった。
********
結局、その場では何の返事もしないまま、ビョウブらは宿へ取って返して一晩を過ごした。
翌日、昼前まで眠りこけていたビョウブは、ドアを強く叩く音に起こされた。
寝間着のまま、ドアを開けると、コーエンとヤマシロが立っていた。
そして、招き入れるまでもなく部屋に入ってきた。
「もうちょっと待とうかと思ったんだけどね、もうすぐ昼だし、そういうのはいい大人としてどうかと思って」
コーエンは手にトレイを持っており、パンや牛乳、スープが載せられていた。
それを部屋の丸テーブルに置くと
「昨日はありがとう」
と言った。
「いえいえ、そんな・・」
とビョウブが言い掛けると
「降りかかる火の粉を振り払ったまでじゃ。街でグールなぞ呼ぶ奴を許してはおけんわい」
枕の横からカモイが声を出した。表紙ではすっかり普段着に着替え終わっている。
とっくに朝食を終えていたようで、優雅なティータイムを過ごしていたようだ。テーブルにはカップとティーポットが並んでいる。
「そう言っていただけるとありがたいわ」
コーエンは丸テーブルの椅子に腰掛けた。
「それと、昨日のお願い事なんだけど、一旦忘れてほしいの」
ビョウブはコーエンの突然の物言いに驚いたが、正直、この申し出はありがたかった。
ビョウブとしては騎士団長と共に王を止めるなんてことは、おこがましいにも程があると思っていた。
どう断ろうかと思っていたので、渡りに船だとビョウブが口を開こうとしたら、
「命令よ。召喚術士カモイの孫、ビョウブ。都へ行き、騎士団に力を貸しなさい」
とコーエンが言い放った。毅然としたその様子から、冗談では無いらしい。
ビョウブはもちろん、黙ったまま立っていたヤマシロの目も点になっていた。
「な、なんちゅう、高飛車な話じゃ・・」
カモイは顎が外れたかのように、口をあんぐり開けている。
ビョウブは、開いた口がふさがらない人というのを初めて目にした気がした。
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